数字と親会社のガバナンスで見る宝塚の問題点
宝塚歌劇の問題。ご存じの方も多いと思いますが宝塚というのは阪急電鉄株式会社の一部門です。
阪神と阪急の経営統合などの際に持株会社化したとはいえ、その実態は、グループの中核企業ということは、上場企業に比類した高度なガバナンスが期待される会社なわけで、そこら素性の知れない同性愛者のおっさんの会社とか、田舎の中古車屋がイキリまくった会社よりも自体は遥かに深刻な問題であります。
さておき財務の数字とガバナンスからどういう問題を検証してみたいと思います。
財務の数字で見る宝塚歌劇
まず、阪急阪神ホールディングスの収益はこのようになっていまして、一応は「都市交通」「不動産」「エンタテインメント」「情報・通信」「旅行」「国際輸送」の6つの事業をコア事業と位置付けていますが、しかし実態は関西を中心とした鉄道と不動産の会社なわけで、阪神タイガースと宝塚歌劇からなるノンコア事業と考えても良いのではないかと思うのです。
とはいえ、JRであればまず新幹線とかリニアのような本業そのものがイメージリーダーですが、阪急はノンコア事業のエンタメ事業なわけです。
もちろん職業野球とか言われたり、歌の上手い娘を集めて桃太郎やっていた時代なら、鉄道の集客目的の事業でしたが、今やWBCだったり五輪の閉会式に出ていたりと、世界を相手に商売していかないといけないし、IT技術の発展で世界を相手に商売ができるフィールドも整っていると言えます。
そりゃ間接的に聖地巡礼みたいな観光はあるかもしれませんが、どうしてもノンコア事業と言わざるを得ないというのが実態です。
しかし収益性となれば話は別(リンク先はPDF)となり、ほぼステージ事業(宝塚)とスポーツ事業(阪神)が同じ程度の売上と利益を出していますが、ステージ事業の営業利益率は20%を超えています。だいたい似た業種の同じくらいの売上の会社を並べていますが、利益はアミューズを上回り飛ぶ鳥を落とす勢いのVTuberの事務所並みの利益率です。
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\begin{array}{l:r:r:r}
項目 & 売上高 & 営業駅益 & 営業利益率\\ \hline
アミューズ & 52,497 & 3,153 & 6.01 \\
ANYCOLOR & 25,341 & 9,410 &37.13 \\
カバー& 20,451 & 3,417 & 16.71\\
阪急阪神HDステージ部門& 33,900 & 6,800 & 20.06\\ \hline
\end{array}
$$
(注意)表の単位は売上高と営業利益が百万円、営業利益率は%
システムにどこかで無理があるのではないか?
さて、宝塚大劇場の鑑賞料金は小林一三の「大衆演劇たるために大劇場で公演したい料金は低廉にしたい」という理念からB席は3,500円という値段になっています。
高いと言われる帝国劇場のミュージカルなら一番安い席でも7~8000円を取るようになり、映画でも2000円する時代に、もう1500円出せば演劇が見られるわけです。(ちなみに新人公演ならいちばん安い席は2000円なので映画と同じ値段です。)
しかし、いくら自前といっても、大半は人件費のはずで、「帝劇のミュージカルの半額で本当にいいの?」と思ってしまうのですが、実際チケットの販売(ノルマ有り)やお世話などかなりの面をファンからは会と呼ばれる私設ファンクラブの構図があります。
批判的な意見は匿名ダイアリーにあってバズっているのでご覧になった方も多いでしょうが、割りと好意的な意見を言う人すら「(ここまでジェンヌに入れ込んで)みんな家庭崩壊しないの?」と疑問に思われています。
おそらく相撲や歌舞伎のタニマチのようなもので、暇とお金を持て余してる上流階級の御婦人か、生徒(団員のこと)の母親が専任で運営すべきもので、間違ってもフルタイムのOLが推し活感覚でやるべきものではないのでしょうが、いずれにしろなにかかなりの無理があるように思えるのです。
無理といえば、エンタテインメントの世界はやりがい搾取と言われますが、例えば、製造業では当たり前の価値とコストを天秤にかけて、それに見合った設計(悪く言えば妥協)をするバリュー・エンジニアリングなんて概念は存在しませんので、結局ある時間・ある予算を使い潰してしまいますから、結局良家の子女の道楽か、とことん馬車馬のように働くかしないとしんどい世界になったりするわけで、そのあたりを根本的にどうにかするには生成AIでも一部でも導入しないとどうにもならないようには思いますがどうなのでしょうか?
専門外の人間が運営するガバナンス不在
しかし、宝塚というのはここ10年ほど何度か表沙汰にはなっていないトラブルがありましたが、その度に小手先の変革はあっても抜本的なシステムの見直しは有りませんでした。
中には自殺未遂まであったわけですから、その時点で外部の目線が入ったり、大規模な見直しが入るのは普通でしょうが、せいぜい阪急電車にお辞儀を辞めよう程度の見直ししかしてきませんでした。
なあなあでもなんとかなるという間違った成功体験が根付いたし、今回も裁判でも起こして判決が出る頃には世間が忘れるくらいに思ってるのかも知れません。
さらに言えば、阪急阪神グループのガバナンスにも大きな疑念があります。ホールディングスCEOの角和夫氏は宝塚音楽学校理事長で、退団した生徒に対し楽曲を提供することもあった程度には宝塚に造詣が深い(はずの)人ですし、本社が出てこないというのはガバナンスとしてはありえないと思います。
人事異動で不動産畑だったのに演劇を一切触れていないのに明日から劇団幹部になったというケースはこれまでもうじゃうじゃあったでしょうし、日曜に電車にレジャーランドに来てもらうついでに観劇してもらう時代とは違って、娯楽産業は高度に専門的なマネジメントとガバナンスが必要です。
アクティビティ・ファンドが出てきて宝塚をステージエンタテイメントに強い会社(まあ、宝塚を変える規模のある会社なんて同根企業の東宝か、さもなければソニーかバンナムくらいしか私は思いつかないが)に売却して、売却益と投資分を不動産投資に回せば、阪急阪神HDも歌劇もより成長するだろと言われても反論がちょっと難しいと言わざるを得ないというのが私の実感です。
このように、電鉄頼みというのは脆弱な体制であるのに、このような不祥事では存続の危機にあると言っても過言では有りませんが、グループにそのような危機感はあるのか、そもそも歌劇を残したいのか?というのが問われてると思います。
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