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ライブコンテンツと声優業界の未来と課題を探る

ラブライブ!の若林プロデューサーがバンナムの IR レポートでこのようなことを述べています

「ラブライブ!」シリーズは、2025 年に 15 周年を迎えます。既存の作品はもとより、引き続き新しい展開を叶えていけるよう、ファンの皆様とともにチーム一丸となって全力を尽くします。

バンダイナムコホールディングス2024年版総合レポート(P24)より

これをみて、もしかして 2 月のアジアツアーファイナルで「何か発表があるかもしれない?」気がついたひとがいらっしゃる。

今回は、現時点のライブコンテンツやそれと切っても切り離せない声優業界についての個人的に気がついたことや論点をまとめてみたいと思います。

声優という職業の特性とライブコンテンツの優位性

声優というのは、代表作を当てるにしても、芝居を磨くにしても、何よりお金を稼ぐにしても、数をこなしてナンボの薄利多売の仕事であるということが特徴としてあげられます。

ある有名な声優が「声優のお仕事は三ヶ月ごとに無職になって就職活動をする仕事だ」と言っていましたが、そういう商売なのにアーティスト活動に力を入れるとなると共倒れになりかねないわけです。

アーティスト活動に力を入れた声優の代表格たる、水樹奈々が「代表作が無い」とか、ラブライブ!のキャストは「そもそもあいつらは声優ですら無い」と陰口をたたかれていますけど、彼女たちは見方を変えれば「アフレコ仕事をする必要が無い(とまでは言わないでも積極的に打って出る必要性が薄い)恵まれた人たち」と言って言えなくはありません。

ということは、水樹奈々クラスのカリスマ性も歌唱力も望めないという人は、ライブコンテンツで大きな役をつかむというのが一番優位な生存戦略ということになります。

声優アイドルグループという物がラブライブ!のようなコンテンツありきの企画や、実質的に一般的なアイドルであるイコノイジョイを除いても 10 ~ 20 近くはあります。

しかしながら、売れているグループというのは大抵は、メンバーの大半が一応は代表作と言えるような作品を持っているようなグループばかりです。

となると、すでに売れているライブコンテンツを抱えるコンテンツホルダーというのは圧倒的な買い手市場で人材を確保できる可能性が高いわけですが、競争相手が居らず買い手市場になると人間はいくらでも傲慢になれます。

しかし、相手はいつまでも黙っているわけではありません。その報いは必ず受けるものです。コンテンツの運営は、事務所・タレント・運営がすべて利益を得る三方よしの関係でないといけないという事を肝に銘じて欲しいものです。

一般のアイドルから見るライブコンテンツの劣位性

日本マクドナルドを創業した藤田田がかつて「ビジネスの生存競争では、効率のよい方が生き残る」と看破したことがありますが、効率が良いビジネスモデルというのは、つまるところシンプルなビジネスモデルということです。

シンプルさではライブコンテンツよりも一般的なアイドルの方がはるかにシンプルです。

なぜなら、生身の人間をコンテンツ化した芸能人やアイドルなんてSNSに今日何が食べたかを書けばコンテンツになります。だけど、ライブコンテンツというのは 0 から 10 まで人が考えないと成立しない。これが致命的とも言える欠点です。

「シンプルさ」で言えば、ラブライブ!シリーズ 15 年の中で「物語を届ける」ということに特化しているスクールアイドルミュージカルは一番シンプルなことをしているように思えます。

まあ、ミュージカルの後に「学園祭」と称したライブやっていますけど、それを言ってしまえば宝塚だって二部には一部の内容とは全く関係ないショーをやっていますしね。

ドラマ版は日向坂の OG が主演なのに、ミュージカルになると元の人に戻ったり、はたまたダブルキャストになったりと、どのライブコンテンツよりも演者はフレキシブルに動いているのです。

これ、虹ヶ咲が楠木ともりが国指定の難病でせつ菜役を辞めた時なんて、ファンも運営もまるで今生の別れのように扱っていたのとではあまりに対照的です。

二つのジレンマを超えて

前述の通り、生身の人間をコンテンツ化した芸能人やアイドルと比べて、ライブコンテンツというのは 0 から 10 まで人が考えないと成立しない致命的とも言える欠点を抱えています。

そもそもアニメ産業も、高度に分業化して量産しないとマスベースの商品として売りものにならないため、極めて複雑なシステムが確立しています。

競合するエンタテイメントが少なくかつ、人件費が安い時代じゃない限り大量生産体制は成立しないが、今はアニメ製作に関する人件費が暴騰しており、ビジネスとしての成立が極めて難しい時代になってきています。

声優だって、毎年何百人と養成所や専門学校を出ているのだから、毎年何人もフレッシュな人が注目されて無ければおかしいのですが、実際にはここ最近はそうはなってはいません。

コロナの影響で長らく、オーディションやガヤを回すという事は出来なかったため、アニメのキャスティングはコロナ前に出てきた中堅やベテランで回すことで対応していたため、新規の起用が極めて細くなってしまって、数少ない新人の登竜門としてラブライブ!シリーズやウマ娘のようなライブコンテンツが担っていた実態があります。

実際、最近チラホラと声優オーディションが復活しつつありますが、コロナのピークはほとんどそういうオーディションは無かったわけだし、「アニメ好き」とか「声優の誰それさんに憧れます」ってアイドルは今時珍しくないわけで、もしかしたら人材をアイドルに取られてしまった例もあるのかもしれません。(逆に小倉唯はアイドル志望で声優に興味が無かったのに、勧められて声優になった)

これからは「コロナ前のビジネスモデルが戻ってくる」と気炎を上げているかもしれないのですが、例えば、ライブは確かに現場は声は戻って、一見元通りになったけど、ウクライナ戦争によるインフレもあるにしろ、価格が値上がりして、配信が定着しているし、マスク着用率も真冬の時期でも無いのに、未だにコロナ前よりは高いわけです。

このように「コロナ前に戻ろう」という強い逆バネが働いても、完全に2019年に戻ることはないし、およそ4年のブランクというのは新人育成としても新しいファンの獲得にしても、如何ともしがたい禍根が思わぬところで出てくるのでは無いかと思います。

未だにコロナの影響を克服できない声優・アニソン業界

4年のブランクが未だに影響が大きい傍証としてアニサマの動員数を挙げてみましょう。

公式のプレスリリースで2019年に延べ8万4000人を動員したのが、2024年は回復傾向であるとは言え、2024年は7万人。およそ8割の戻り。

ライブ市場全体での動員数は、2010年比113%を達成しており、アリーナの建設が目立つとおり、2024年も成長している可能性が高いわけで、「アニソン業界はお客の戻りが悪い」と結論づけざるを得ません。

致命的なジレンマの解消無くして成長無し

これは、私の持論なのですが、構造的・根本的なジレンマを抱えた業界というのはそれを解決するイノベーションが起こらない限り成長が起こらないし、他に取って代わるという身も蓋もない帰結を辿ることも珍しくないと思います。

ライブコンテンツに対しては、今好調なのは「VTuberのようなキャラクターによる配信」「2.5 次元舞台」ですが、いずれもシンプルでコストが安いビジネスなわけですが、それと「ライブ」を組み合わせて一緒くたに一つのコンテンツでやるかどうかはさておいて、そういう方向性のもやっていかないと行けないのかなと思います。

声優なんて、「アフレコじゃ食えないからアイドルをやらせる」とか「舞台に力を入れている」というのはある種の本末転倒なわけで、本来は声優という職業の注目度に比例して、アフレコがどんどん対価が上がっていかないといけないのだけれど、そうなるためにはアニメが今以上にもっと儲かるようにならないといけないわけで、どうにも業界だけでどうにかなる問題じゃ無い。だからアイドルとか別の収益源を模索しているのでしょうけど。

しかし、こう考えてみると「声優は裏方」「声優は職人の仕事」という主張は声優のギャラを抑えてやりがい搾取をするために業界の上の人間が考え出した方便のような気がするが、どうなのでしょうか。

いずれにせよ、本稿ではライブコンテンツや声優業界を巡るジレンマをいくつか指摘してきましたが、それを解消するアイディアが無いと再成長は難しいのではないかと思います。


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