マッチングアプリ体験談16
久しく更新していなかったが、思い出したエピソードがあるので、今日はこのシリーズ。
●第16話「初めての男」
この男は、メッセージの段階で女性と付き合ったことがなく、女性経験も全くないということを聞いていた。お互いの居住区域が近く、2人とも定期圏内で会うことができた。平日の仕事終わりに駅で待ち合わせて男が予約した居酒屋に行く。ちなみにこれは何年も前の話だ。
出入り口を障子風の引き戸で開閉する個室。四角いテーブルにL字型の席。戸は大人の胸の高さぐらいまでは完全に見えないようになっており、それより上は格子状に開いている箇所があり、廊下を通る人からは個室の中が見えるようになっている。
初めは私が奥側、男が手前の辺に座っており、他愛もない会話をしていた。経験がないなら私がリードしなきゃというお姉さん気質が出てしまった。私は酔いが回ってきたのか、欲求不満だったのか、男との距離をどんどん詰める。
座面に手を付くフリして男との間にできたわずかな隙間に右手を入れ、手に触れる。いちいち反応してくる。内心そういうウブなのいらないからと思いつつ、構わず進める。
男は緊張で何も喋れなくなる。「ああ本当に何も経験がないんだな」と思うと同時に「私いつの間にこんなに遊び人になってたんだろう」と虚しくもなる。店員さんが戸を開けて「ラストオーダーですが、ご注文よろしいでしょうか?」と聞いてくる。どうせ食べ物も飲み物ももう何も手に付かないはずだ。
私は男の手を握って強弱を付けたり、指で撫でたりして弄んでいた。しばらくすると男が「あの…キスしてみますか?」と聞いてきた。お、やるじゃん。そう、今それ待ってたよ。ちょっと直接的すぎる言葉が惜しいけど、その勇気は認めてやろう。スマートに雰囲気を作ってくれた方が好きだけど、黙ってしたらセクハラって言われかねないもんね。
目を瞑り、顔を近づけ、キスしやすいようにしてあげた。唇が触れるか触れないかの優しいキス。こんなのいつぶりだろう。男の緊張が伝わってくる。逆に私は全くタイプでもないので面白おかしくなってくる。
トイレに立った男が帰ってきた時に「ここ、外から丸見えですよ」と焦ったように言ってくる。そんなこと、この個室に入った時点で知っていた。何を今更と思ったが、私は気付いていなかった演技をしてみせた。経験はたくさんあればいいというわけではないが、私はリードしてくれる男性の方が好きだ。分かっていたことを再確認して今回はここで帰った。