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さくら剛『君たちはどの主義で生きるか』は、THE HIGH-LOWS 「罪と罰」に通じるパンク哲学書!

さくら剛氏の『君たちはどの主義で生きるか』を拝読させて頂きました。

今回初めて知った作家さんでしたが、なんというか“ふざけないと文章が書けない”方のようで、難解で哲学的テーマながらも楽しく、時に大笑いしながら読むことが出来ました(あまり本を読んでいる時に声を出して笑う事はないのですが、外で周囲に人がいる時なども、プッと噴き出しながら読みました)

きっと博学な作家さんで、ある程度の学歴がある方なのだと思います。ため込んだ知識とは裏腹に、自身に対しての社会から疎外されているような弱者男性的な目線も持っており、複雑に入り込んだ自己認識が、時に卑屈に世の中への恨みつらみとなり、それを爆発させてしまい、その後冷静さを取り戻すようなメタ視線が独特の文体として、テンポよく書かれていました。

色々な主義を、作者独自の視点と、古来からの哲学者の視点を交えながら考察し、特に何が良いという結論は用意せず、色んな考え方が世の中にはあるんだという、いい意味で押し付けがましくない一冊です。

作者自身が、アイドルオタクであり、非モテの、弱者男性(ミソジニー)の立場を取っており、社会に対して歪な価値観を持っている。しかしそれ自体も俯瞰している、もう一人の作者もおり、そのあたりのメタ認知構造に読んでる側は自然と安心感を抱き、だんだんとこの作者の脳内に入り込むような感覚になるのは楽しい読書体験でした。

妙な説得力があるのは、作者がバックパッカーなど各国を渡り歩く行動力の持ち主であるという点。いろんな人種や、いろんな考え方に触れてきている方なので、ただの弱者男性の机上の空論や、社会への恨みだけには終始しない不思議な説得力も感じさせるのです。

この本にはいろんな主義の考え方が出てきますが、個人的に今の日本を覆っているのは・・・

・功利主義
・リバタリアニズム
・構造主義


が強いと感じています。ちょっとそっちに行き過ぎているんじゃないかってくらい。

功利主義は、最大公約数の幸せを基準にする考え方ですが、誰もが空気を読んで誰につけば自分が得をするのか、勝ち馬は誰なのかを読みあって、仲間外れになった人は徹底して叩きのめすような空気です。少数派がとにかく生きずらい。

リバタリアリズムは、元財務省の経済学者のような徹底的な弱者切り捨ての考え方です。ひろゆきなどの一部のインフルエンサーを必要以上にもてはやすような、そこに権力が集中していくような気持ち悪さです。結局ずる賢い奴が得をする世の中。

構造主義は、メタバースや、多元宇宙論、量子論などとも絡み合って、すべては構造に支配されているという考え方。これは、もはや物事の根本を問い直す力が人類から失われているのではないかと感じます。

作者は、実存主義の解説の項で、“たまたま形を得た素粒子の塊が我々人類であり、目的は存在しない”という論を唱えており、やや構造主義よりの自分としては、もう少し宗教的な人類誕生の意味付けが欲しいところではありました(ある日突然、創造主があらわれて人類の目的はこうだ!みたいなことを言ってくる日がSFのように訪れたら、人類の思考のパラドクス的には楽しいな~的な

ただ、本来は博学で賢い作者も、アイドルオタクや、非モテといった社会的なマイナスイメージを前面に出して、自身を道化とする事で、共感を得ようとする手法はある程度成功していると思いました。

岩波文庫から出るようなスカした哲学書などは、スカしたい一部のインテリだけが読めばいいので、そのあたりをターゲットにしていない本書のような砕けた哲学書は、世の中を俯瞰して、ちょっと小馬鹿にしたい人にはちょうど良いのかなと思いました。

最後の方で、作者は、やはり行動せよと、何でもいいから活動に加わって正解を自分で導きだすのが正解だと語っており、ここもまた机上の空論では終わらせない説得力も感じました。

それはハイロウズの「罪と罰」で歌われている考え方に通じるものであり、強い共感を得て読了することが出来ました。

THE HIGH-LOWS 「罪と罰」 
正しい道だけを選んで
選んでいるうちに日が暮れて
立ち止まったまま動かない
結局何にもやらないなら
有罪 有罪 有罪 重罪

2024.6.26
Queen遺伝子探究堂 Varuba


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