ポリポリしようよ!
合唱指揮の授業では及川豊先生がルネサンスのポリフォニーの曲を取り上げてくださいますが、ポリフォニーの曲は何を言っているかだんだんわからなくなってくるのであまり興味がありませんでした。ところが、今年度やっているDiego Ortizのマニフィカートの1節をヘクサコルドで読むと、アルトがut re fa mi fa re ut…と言うと、少しずれてソプラノが5度上でut re fa mi fa re ut…と同じことを歌っていることに気づきました。教会旋法に基づいてほぼ同じことを言っているのが、まず面白い。また、カデンツについてもカデンツを作るパートで不協和音、6度、8度の音程になっていて、教科書的なカデンツでわかりやすい。ルネサンス時代はこんなふうに音楽をとらえていたのかと、ポリフォニーの面白さにふと目覚めたのでした。
授業ではソプラノとアルトだけの1節のみ取り上げていますが、このマニフィカートは最大6声になり、テナーやバスが加わってもヘクサコルドで読むと同じことを言っているのです。なんて面白いんだろう。どんな曲になるんだろう。全部歌ってみたい。でも学校で6声部そろえるのは難しそう・・・。
そんな折、及川先生が主宰するベアータ・ムジカ・トキエンシスが演奏会をすることを知りました。ルネサンスの知られざる作曲家の曲を取り上げ、一人1パートのアカペラで歌うのです。にわかルネポリファンなので、チケットを購入しました。そのとき、ワークショップがあるのを知りました。一人1パートでスカンデッロのヨハネ受難曲とモテットを歌うとのこと。相当に大変そうだし、だいぶ先の話だったので、保留にしていたのですが、気になってはいたので、時折申し込みのページをチェックしていました。すると、自分のパートがあと1名でずっと残っている。申込期限が過ぎてもまだ残っている。ベアータの演奏会の時もワークショップの受講者を募集していて、私のパートも募集している・・・。演奏会のアンケートに「ワークショップに興味があります」と書いたら、及川先生からメールが来ました。日程もオープンスクールでの奏楽の後だったので、安心して参加できる。これはもう、背中を蹴飛ばされたと解釈して、申し込みボタンをポチっとしたのでした。
今回の課題はドイツ語の曲。私のドイツ語レベルは文句があったら言い返えせる程度で、独学で学んでいるのですが、事前にベアータのメンバーに見てもらえるとのことだったので、よい機会なので、エヴァンゲリスト様(=及川先生)にドイツ語や音の確認などをしていただきました。エヴァンゲリストの音を聞いてから合唱が入るので、そういう練習とかも事前にたくさんしていたのでした。
いざ、4声や5声で一緒にやると思った以上にできない。ほかのパートを聞いてしまうと迷子になってしまう。余計な絶対音感やあまり相対的ではない相対音感が出てきて、余計に焦ってしまったり、とかなり苦戦しました。ほかの人たちはプロの歌手だったり、合唱指揮者だったりとハイレベルの方たちばかりで、「私が歌わないほうがまとまりそう」と思ったのですが、それでは私の勉強にならないので歌いました(私も学びたいことはたくさんあるのです)が、ご迷惑をお掛けしていたかと思います。最後に発表会があったのですが、今まで迷子になって歌えなかった部分を初めて歌えたり、いままで一番耳が開けている状態になっていて、これが最初の段階でできていればなあと悔やまれます。
スカンデッロについての講義もあり、ヴァルターとパレストリーナとの関係や、今回のヨハネ受難曲でピラトとイエスをなぜ合唱で歌うのかなどの解説があり、大変勉強になりました。
終わったときは「はーーーーーーっ、やれやれ、もう二度とやらない」と思っていたのですが、3日後に学校の授業で及川先生に会った時には「またポリポリしたいです!」と元気に言っていました。ベアータの長谷部千晶さんが「もっとポリポリしたいじゃない?」と言っていたのが印象に残っていて、私も研鑽を積んでもっとポリポリしたいし、ポリフォニーの世界をさらに見てみたいと思うようになりました。課題がたくさんあるのですが、どう攻略しようかワクワクのほうが強くて、すでにいろいろと始めています。
その日のオルガンのレッスンでバッハの曲を見てもらいました。「ここのパートはソプラノ1、2さんたちに歌ってもらって、ここはテノールさんに歌ってもらって、足鍵盤はバスさん」などと、同じグループの人たちの顔や声を思い出しながら弾いていたら、岩崎真実子先生から今までになく褒められてびっくりしました。今回の経験を器楽演奏にも生かせていければと思います。
グループの人たちを思い出しながら弾いている様子。一番若い合唱指揮者さんがペダルソロを歌っていると思うと、ちょっと面白いです。