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堀田量子 第5章の解説

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 この章では二つの系の相関について説明されます。これまでのような一般的な$${ N }$$準位系の話ではなくなり、急に二準位系のスピンを例にした説明ばかりになっています。急に視野が狭くなったような不満を感じるかもしれません。しかし、この章の話の重要な結論の多くは$${ N }$$準位系でも成り立つものですのでご安心ください。

 なぜ二準位系に限って説明をしているかについては二つの思惑があるように思います。一つ目は、$${ N }$$準位系を使って説明しようとすると過度に複雑になってしまうのでそれを避けたのだろうということです。二つ目は、スピンについて既によく知られている実験的な証拠についての話を盛り込みたかったのだろうということです。

 もし三準位系以上の話をしようとすると「それはどういう方法で実験できるのか?」とか「本当に実現可能なのか?」といったこの章の本題ではない面倒な話に終始してしまう可能性があります。しかし二準位系のスピンならば、状態を変化させるユニタリ変換は現実の空間の回転に対応していることが既に良く知られています。測定装置の角度を変えるだけで全ての局所的な測定が実現できるので、そのような議論が必要なくなります。

 現在開発が進められている汎用型の量子コンピュータも二準位系の量子ビットの組み合わせを利用しています。$${ n }$$個の量子ビットを組み合わせることで$${ 2^n }$$準位系の実例が出来上がるので、ここまでの理論に相当するものが現実に存在し得るという点については疑いが無くなっています。

 量子情報の実験をする上でもっとも基本的な道具として利用されているのは電子のスピンや光子の偏光で、どちらも二準位系です。もっとも単純でありながら、応用的にもとても重要になってきます。

 以下ではこの章を各節ごとに要約していきます。

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