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あのね。
『ぷんぷん』コレサワ × ものがたり
「とうちゃーく!きょうもお買い物付き合ってくれてありがとね。わたし、洗濯物取り込んじゃうから、こっちお願いしてもいい?」
「いえいえ。いつも一人で行かせちゃってるからさ。休みの日くらいはと思って。らじゃ!片付けておきます!」
「あ、そうそう。アイスクリーム買ってきてあるから、すぐ冷凍庫にしまっちゃってね。」
「はいはーい。」
そう言って洗濯物を取り込むために、サンルームへ出る。天気がいい日の洗濯がとても好きだ。そういえば、”お日さまの匂い”ってよく言うけど、ダニの死がいの匂いなんだよなんて聞いたことがあったな。太陽の日を浴びて、ほんのりあたたかいそれに顔をうずめようとしてためらい、それでも、結局顔を押し付けて思いっきり吸い込んでしまう。
洗濯物を抱えて、リビングに戻るとエコバックは膨らんだままそこにあった。はぁ、またこれだ。
「ねぇねぇ、アイスクリームは?」
「ん?いまやる。」
スマホを見ながら、笑い声をあげる彼は立ち上がる気配すらない。”いま”は永遠にやってこなさそう。洗濯物を彼の目の前のテーブルの上に置いて、買い物の片づけを始める。愚痴なんて言いたくないのになぁ。小さくため息がこぼれた。
彼の隣に腰を下ろして、洗濯物に手をかける。彼はそれでも、スマホから目を離さない。わたしたちが交わしたキスと、あなたが忘れている約束を数えたら、どっちが勝つのかな。
「ねぇ、怒ってる?」
「なにが?」
「怒ってないよ。」
「怒ってるよね。」
「怒ってないって。」
「ごめんね。」
「なにが。」
「アイスクリーム。」
「わかってるなら、ちゃんとして。何回目?そんなに、毎回毎回、言わなきゃいけなかったら、わたしも疲れちゃうよ。」
「…ねぇ、ごめんね。」
そう言って、両手でわたしの頬を包み込んで、二重のかわいい両目がわたしの様子をうかがう。その次は、左手を背中に回して抱き寄せて、右手で優しく頭をなでてくれる。
これを待っている、いつも。怒っているときのこれ。彼の両手がわたしをなだめようと、必死に動き回るのが、たまらなく愛おしくい。もう全然怒ってなんかいないけど、まだいい子になんて戻れない。もう少しだけ、わたしのことをなだめていてね。
♢
「女の子がいる飲み会に行くときは?」
「連絡してでしょ?最初にした約束だもん、ちゃんと覚えてるよ。」
「よろしい。」
「じゃ、行ってくる。遅くなっちゃうかも。」
「うん、ゆっくり楽しんでおいで。朝帰りはナシですよ。」
「男ばっかりで、朝帰りはきついでしょ!いってきます。」
「気を付けてね~。」
ひとりで夕食を済ませて、いつもよりゆっくりとお風呂に入る。玄関に近い、洗面所だけ電気をつけて早めにベッドにもぐりこんだ。
更新されたストーリーをタップして友人らの投稿を見る。その中に混じって、”あの子”のストーリーも表示された。彼が一緒に飲みに行くと言った友人らが映し出され、嫌な予感がした。彼女の隣の席には、彼が座っていた。まただ。念のため、メッセージアプリを開いてみるが、彼からの連絡はない。
だめだ、きょうは黙っていられそうにない。何をそんなに隠したがるんだろう。誰とも遊びに行くななんて、わたし言わないのに。”あの子”はあなたのことが好きなのよ。わたしのことを想ってくれているなら、わからないふりなんてしないで。それは優しさじゃないよ。
帰ってきたなら、なんて怒ってやろう。きっとまたあなたは、あの大好きな両手でわたしを慰めてくれる。他の子になんて譲れるわけがないでしょう。
いつもかわいくしてるから、悲しませたりしないでね。それにおこったりもしないからさ。だぶん
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