【法務】×【地図GIS】~地図の著作権~
皆様が普段使う地図データにも著作権が発生していることがあります。
今回は、地図と著作権の関係について簡単に説明をしたいと思います。
1.著作物とは
著作権の発生する「著作物」とは、端的にいえば「創作的」な「表現」です(法2条1項1号)。
イメージしやすい具体例は、絵画、小説、漫画、音楽等です。
同じ知的財産権でも特許権(登録が必要)と異なり、著作権は「表現」の創作時点で権利が発生し、また「表現」に至らない「アイディア」を保護するものでもありません。
どんな「表現」でも保護されるわけではないですが、何らかの「オリジナル性(個性)」が現れていればよいと解されます。
2.地図の著作物とは
⑴ 概要
著作権法は、10条1項で著作物を「例示」しておりますが、「地図」の著作物も含まれております(同項6号)。
あくまで「例示」列挙ですので、実際に「著作物」(「創作的」な「表現」)として認められるかはケースバイケースとなります。
そして、一口に「地図」といっても、以下のとおり様々な切り口で捉えることができます。
地図の種類:目的地検索用の地図(Googleマップ、ナビ地図等)、航空写真、住宅地図、鳥観図(観光用地図、案内図)等
地図の構成要素(個々のデータ):背景地図(画像)、航空写真、地形、建物ポリゴン、道路ネットワーク、アイコン、注記、POI、等
先ほど、著作物とされるためには「創作性」が必要と言いましたが、全ての種類の地図、全ての要素に「創作性」が認められる(著作権が発生する)わけではありません。
⑵ 切り口① ~地図の種類
まず、地図の種類に関しては、実用性や機能性の高い地図であるほど、誰が作っても同じような表現となるので、オリジナル性(ひいては「創作性」)が認められにくいというジレンマがあります。
データの取捨選択や体系的構成の工夫にコストをかけて「額の汗」を流したとしても、「著作物」として認められるかは別問題ということになります。
上記裁判例は、以下のロジックにより地図の著作物性を判断するとしておりますが、この考え方は従来の裁判例を踏襲しております。
そして、上記裁判例は、前記住宅地図について、容易に検索できる工夫、イラストによる施設のわかりやすい表示、名称・居住者名・住居表示等の記載、ポリゴンの枠の記載等の事情を踏まえ、情報の取捨選択及び表示方法に創作性が認められるとして、著作物性を肯定しました。
これに対して、住宅地図の著作物性を否定した裁判例もあります。
そのため、引き続き個別判断が必要にはなりますが、以下のような事情があれば、より著作物性が認められやすくなるといえます。
①地図上の情報が独自の基準により選択されている
②当該情報の表現方法に工夫がされている(オリジナル性の高いイラストやアイコンの表示、配置、フォント等)
⑶ 切り口② ~地図の構成要素(個々のデータ)
データそれ自体は、単体で見ればただの情報であり(「創作的」な「表現」に至らないため)、著作物ではないといわれることが多いです。
なお、データベースも「編集著作物」(法12条)や「データベースの著作物」(法12条の2)とされる場合がありますが、本稿では割愛します。
⑷ まとめ
地図は、その種類に応じて著作権が発生するか個別判断を要し、また、地図のどの部分に着目するかでも帰結は異なりますが、目的物検索用の地図や住宅地図等について著作物性が認められる余地は十分にあります。
3.著作権侵害と救済手段等
⑴ 著作権侵害になる場合(基本)
まず、著作権は「権利の束」といわれ、以下のとおり利用態様毎に「●●権」といった個々の権利が定められております。
例えば、著作権者の許諾がないまま著作物の「複製」(コピー)をした場合「複製権」の侵害(=著作権侵害)となります。
対象となる地図上の表現を他人がどれだけ真似るかによりますが、デッドコピーに近いほど「複製権」又は「翻案権」の侵害、これをオンラインで配信すれば「公衆送信権」の侵害となる可能性が高いです。
なお、仮に著作物でなくても、民法に定める不法行為(同709条)に該当する可能性もあります。
⑵ 著作権侵害になる場合(応用)
少し細かいですが、裁判例は、ある地図と類似する地図を他人が作成したケースにおいて、両地図を比較して、これらの共通点及び相違点における創作的表現の有無を検討し「複製」又は「翻案」といえるかを判断しております。
以下の基準を参考にしていただきたいのですが、具体的な認定としては、「地理情報を表現する際の創作性に強く影響を及ぼす要素」につき「有意な相違点が多数認められ・・・控訴人地図の表現上の本質的特徴を直接感得できるとは」いえないとして、(複製又は翻案はなく)著作権侵害は認められないと判示しました。
「地理情報を表現する際の創作性に強く影響を及ぼす要素」としては、例えば、建物の種類を示す記号の違い、表示の塗分けの多さ、建物ポリゴンの配色の違い、注記のフォントや大きさ、建物番地の記載の有無等が挙げられます。
⑶ 救済手段や罰則
著作権を侵害した場合、著作権者から差止請求、損害賠償請求、名誉回復等の措置の請求等を受けるリスクがあります。
また、刑事罰との関係では、権利侵害罪等が成立する可能性もあります。
なお、仮に権利者に支払うべき損害額を低く見積もるとしても、訴訟提起された場合は、弁護士費用や訴訟費用等の紛争コスト、社会的な信用損失に伴うコスト等が生じる点も念頭に置いてください。
4.事業者として想定される対応方針
⑴ ありうる対応方針
地図サービスを提供する事業者としては、(争わなければわからないものの)一律に地図には著作権が発生すると位置付け、また別途その利用条件を定めておくという対応が通常であると考えます。
こうした対応は、自社事業の核となるコンテンツを保護するためにはやむを得ない合理的対応といえます。
⑵ 各事業者による「地図の著作権」の説明
地図サービスを提供する各社が公式HP上で掲載している「地図の著作権」に関する記事(最終アクセスは本記事投稿時)を、3つ紹介します。
いずれも本稿をアップした2024年1月8日時点の記事を拝見しておりますが、私の勝手な分析を加えている点はご了承ください。
1つ目のゼンリンデータコムさんの記事。
そもそも「著作物」とは何か、「地図と著作権」の関係を含めて、しっかり内容が整理されております。地図の利用で特に問題となりうる支分権(複製権、公衆送信権等)についても触れております。
「著作権を侵害した場合のリスク」としては、罰則も重要ですが、現実的には権利者からの差止請求や損害賠償請求に伴う紛争コストが生じる点に重きをおいても良かったと思います。
2つ目のGTさんの記事。
法務関係者ではない方による投稿といった感じを受けますが、特に「著作権を侵害すると、まず法律による罰則を受ける」という点も疑問に思います。
私人間でどのような紛争が生じ、現実的にどのような経済的インパクトが生じるのかにも触れてほしかったですね。。
3つ目のマップルさんの記事。
「地図の著作権」というタイトルはあるもその中身が十分に説明されていない感じを受けました。
むしろ同記事は利用条件の説明に重きを置く趣旨と解しましたが、著作権侵害と利用条件違反との関係についても一言あればよかったと思います。
5.ユーザとして検討すべき事項
⑴ 検討ポイント
本稿では端的な説明にとどめますが、地図のユーザが検討すべきポイントは以下のとおりです。
①地図データが著作物である(著作権が発生している)といえるか
②仮に著作物だとしても、著作権法で許容される利用態様である(権利制限規定が適用される)といえるか
③サービス提供者が定める利用条件(規約等)に従った利用といえるか
⑵ ①について
前記「2.」では、「地図の著作物性は個別判断」とも述べましたが、事業者としては「地図」=「著作物」として対応する方針である以上、ユーザにおいても「地図の無断利用」=「著作権侵害」という覚悟を持った方がよろしいです。
⑶ ②及び③について
本稿では、②と③の詳細について割愛いたします。
しかし、①と②の結論に関わらず、③の利用条件に反した場合、サービス提供者からクレーム等を受ける可能性があります。
事業者としては地図サービスの利用条件を定めていることが多いため、ユーザとしては③の利用条件を遵守することが重要であるいえます。
以上、地図と著作権法との関係について説明しましたが、「地図にも著作権が発生する場合がある」「事業者が設定する利用条件にも注意を払う」といったイメージを抱いていただければ幸いです!
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