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マネーフォワードのサステナビリティ

執筆者
有馬 瑛里(ありま えり)
熊本県出身。慶応義塾大学法学部法律学科を卒業後、東京都庁に入社。環境局で環境政策の立案や自治体連携等に従事したのち、2022年から株式会社マネーフォワードにジョイン。マネーフォワード初のサステナ専任担当として情報開示や外部評価機関対応を推進。

はじめに

みなさん、はじめまして!有馬と申します!
これまで株式会社マネーフォワードという会社で、サステナビリティを担当しておりましたが、来月から思い切って新しいチャレンジをすることになりましたので、退職エントリとして、これまでに取り組んできたことについて書いてみたいと思います。

サステナビリティに興味がある方も、そうでない方も、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。民間企業のサステナビリティ担当がどんな仕事をしているのか、その一端を感じてもらえると思います。

マネーフォワードで愛用していたアイコン。入社翌日に慌てて撮りに行きました(笑)

なぜマネーフォワードでサステナビリティ担当になったのか

私のキャリアのスタートは東京都環境局でした。環境局では気候変動対策はもちろん自然環境保護や公害規制まで、幅広い環境政策に携わりながら知識を吸収し、仕事のやり方を学ぶ企業な経験を積むことができました。同期と仲良く、上司は優しく、順風満帆な公務員ライフを送っていました。

東京都主催の某会議にて。当時はオリパラの環境局担当もやっていました。

しかし、年月が経つにつれ、少しずつ「物足りなさ」を感じるようになってきました。環境に関するルールを作ったり、周辺の制度を整えるのは東京都の仕事でしたが、実際にそのルールに基づいて行動し、環境負荷を減らす行動をするのは民間企業です。「ルールを作る側」にはいたものの「実行者」ではない現実に、歯痒さを感じるようになりました。

そんな時に目に入ったのが、マネーフォワードのサステナビリティ担当者の求人でした。直感で「これだ!」と確信しました。当時のマネーフォワードにはまだサステナビリティの専任者がおらず、まさにゼロから仕組みを作り上げていく段階だったからです。自分の手で新たな基盤を築き、具体的な取り組みを形にしていく機会に挑戦できる。そんな期待とワクワク感で胸がいっぱいでした。

サステナビリティ担当としての業務

入社後、まず最初に手掛けたのは「サステナビリティ委員会」の立ち上げと運営でした。この委員会は、マネーフォワードのサステナビリティ活動に対する方針決定や実施に責任を持ち、取締役会への報告などを行う役割を持ちます。CEOの辻さんを委員長に、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関する課題や対処方針について経営陣が審議し、サステナビリティに関する遂行状況をモニタリングし、取締役会に報告するための委員会です。具体的には、重要課題(マテリアリティ)の整理や、戦略的な情報開示の方法、そして「マネーフォワードらしいサステナビリティとは何か」といったテーマについて議論しました。

特に印象に残っているのは、経営トップと直接意見を交わす機会が頻繁にあったことです。都庁時代はどこか手触り感がなく、「自分のやっている仕事は何か役に立っているのか?」と不安に感じることが多かったのと比べて、「今まさに会社の方針が決まっているのだ」という現場を目の当たりにすることが多く、「私の仕事が会社を動かしている」という感覚が鮮明に感じられました。こうした経験が私の視点を大きく広げてくれました。また、責任感と達成感を強く感じる場でもありました。

次に力を入れたのは、ESGに関する外部評価機関の評価向上です。特に、MSCIという評価機関の格付けを、入社当初のBBから2年かけてAAまで引き上げることができました。ここまで来るのには本当に様々な苦労がありました(涙)。何よりも時間をかけたのは社内の暗黙知の収集・言語化です。担当者だけが把握している非財務情報をかき集めて公表する、明文化されていなかった社内ルールを改めてポリシーとして公表する、など地道な作業を、それぞれの担当者の協力を得ながら続けてきました。こうした情報開示のステップを着実に踏んでいくことで、社内に散らばっていた非財務情報を体系立てて整理することができ、社内外に認識してもらうことができました。

また、外部機関評価が向上したことで、ESG指数への採用も増えました。具体的には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が投資している6つのESG指数のうち、当初は1つだけにしか採用されていなかったのですが、今では5つに増えました。これらの成果を出すためには、社内のデータを集めて明文化し、外部評価機関にフィードバックを送るなど、積極的なアプローチが必要でした。

Business Overview for Investors(2024年4月)から引用

ちょっと古いですが、2022年にMSCIの評価がBB→Aに上がったときのnoteはこちら↓

また、「サステナビリティ指標」の設定も重要な仕事でした。これは3つのマテリアリティについての経営上のコミットを示すべく設定されたもので、財務上の KPIとは別に、サステナビリティの実現度を図るものとして継続的に注視するものです。全社的な議論を重ねて決めたこれらの指標は、投資家からも高く評価され、特に「家計改善実感額」や「口座連携資産運用額」はマネーフォワードならではのユニークな指標として注目されています。

サステナビリティ担当の醍醐味

サステナビリティ担当の醍醐味は、何といっても「会社を越えたつながりを作れること」だと思います。サステナビリティ分野はどの会社もまだまだ歴史が浅く、手探りの状態です。特に、マネーフォワードのような成長途上の企業は経済的にも工数的にも制限が多く、外部の専門機関やコンサルに頼らず、自分たちで奮闘していることが多いです。そのため、他社との横のつながりを重視していて、課題があれば知見を交換したり、良い情報を共有しあったりすることができます。こうした交流は、他の業務ではなかなか生まれにくいものです。

また、会社の「らしさ」を再発見できることもサステナビリティ担当の魅力です。サステナビリティの視点で考える時、「会社として将来どうありたいか」という長期的な目標が重要になります。このプロセスでは「この会社の強みは何か」「なぜこの会社でなければならないのか」などを深掘りすることになります。この過程で見えてくるのが、その会社の「らしさ」だと思います。私自身も、社内のさまざまな方と話す中で、「マネーフォワードらしさ」をたくさん見つけることができました。

(オフィスの壁にペンキを塗っているところ。こういうイチからみんなで一緒に作り上げていこう、というLet's make it!のカルチャーが大好きでした)

サステナビリティの開示には、「規定演技」と「自由演技」と呼ばれるものがあります。コーポレートガバナンス報告書有価証券報告書など、何を書くべきかが決まっているものが「規定演技」、一方で、統合報告書コーポレートサイトのように企業の個性を自由に表現できるものが「自由演技」と呼ばれます。この「自由演技」で、自分たちのサステナビリティに対する考えを自由に開示できるのも、この仕事の醍醐味の一つです。他社の開示にも個性的なものが多く、それを読むだけでも企業の魅力が伝わってきます。

今後の挑戦と将来目標

マネーフォワードでのサステナビリティ担当の仕事は、非常にやりがいがあり楽しいものでした。職場の雰囲気も良く、社員同士も和気あいあいとしていて、最高の職場環境でした。しかし、マネーフォワードでサステナビリティ担当を続ける限り、「環境分野に関する専門性があまり重視されない」という点が、私のキャリア形成において課題となっていました。

サステナビリティの主軸であるESGのうち、S(社会)は主に人事が、G(ガバナンス)は法務が担当します。そのため、情報収集から開示まで一貫して所管するのはE(環境)だけです。しかし、クラウドサービスが主体のマネーフォワードは、製造業などと比べると環境負荷が低く、投資家との対話の中でもEに対する関心はあまり高くありませんでした。

一方で、私の今後のキャリアを考えると、都庁時代から培ってきた環境分野への知識や興味関心をさらに伸ばし、専門性を高めていきたいという想いが芽生えてきました。また、サステナビリティをキャリアの軸に据えるにあたり、資源循環や水管理、生物多様性といった分野での経験は必須だと考えるようになりました。

そのため、成長環境もあり、周りのサポートも得られていたマネーフォワードから卒業し、「ものづくり」をする企業への転職を決意しました。新しい会社では、工場で使われる水や化学物質の管理、廃棄プラスチックの削減、再生素材の利活用など、環境分野にどっぷり浸かって仕事をしていく予定です。覚えることは多いですが、初心に帰って学び直し、環境分野の専門性を高めていきたいと思います。そして、環境分野への深い知見を持った上で、再びサステナビリティという広い視野での仕事に取り組めればと考えています。

これからサステナビリティ担当になる人へ

9月で私はマネーフォワードを卒業しますが、ここでの経験は本当にかけがえのないものでした。これからも新しい環境でサステナビリティを探求し続けていくつもりです。この記事を読んで、サステナビリティ担当という役割に興味を持った方がいれば、ぜひ挑戦してみてください。自分の手で未来を形作る喜びと責任感は、他に代えがたい経験です。一緒に世界をサステナブルにしていきましょう!!笑

オフィスの壁に手形を残してきました。指さしている黄色いやつです。オフィスにお越しの際はぜひ私が在籍中に残した爪痕もとい手型を見にきてください(笑)

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