【フォルモサ 台湾と日本の地理歴史】の日本語訳を通読しました。宝塚雪組公演観劇の予習のために、です。
1704年にロンドンで刊行された悪名高い「偽書」。天下の奇書として知られるこの本の日本語訳(原田範行訳)が平凡社ライブラリーで刊行されていることを知り、どうしても読みたくなって、どうしても読む必要があって、通読しました。
雪組の次回公演のタイトルは「FORMOSA!!」
「ベルサイユのばら」が公演中で、私の頭が薔薇まみれで煮えたぎっているころ、
雪組の次の公演情報が発表されました。
演目:西洋奇譚『FORMOSA!!(フォルモサ)』―空想世界の歩き方―
主演:縣千
大好きな縣くんが、ついに単独主演する、という情報です。
縣くんが主演する作品のタイトルは「フォルモサ」だよ、という情報です。
この単語が引き金となり眠っていた記憶がたちまちにして動きはじめました。
「フォルモサ」って、台湾の雅名「美麗島」のことだけど、
それを紹介した本「フォルモサ」って、確か、あれ、だよね。
その本を書いた人物ってことは、つまり、
ペテン師サルマナザールを、縣くんが、演じるのですか!!
縣くんが、アンドレ・グランディエの次に演じるのは、
実在の人物、ジョルジュ・サルマナザール なのですか!!
(ミニ解説)
雪組は「ベルサイユのばら」公演のあと、二手に分かれて活動します。
同時期に2つの演目が、大劇場ではない2つの劇場で上演されるのです。
① 次期トップスター朝美絢さんとトップ娘役夢白あやさんコンビの
プレお披露目公演であるミュージカル『愛の不時着』
※東京建物 Brillia HALLと梅田芸術劇場メインホールにて
②若手選抜メンバーによる『FORMOSA!!(フォルモサ)』。
※梅田芸術劇場シアター・ドラマシティとKAAT神奈川芸術劇場にて
公式サイトの作品解説
公式サイトに掲載された作品解説は、次のとおりです。
18世紀の実話をもとにしたオリジナル・ミュージカルですね。
「コミカルに描く」とあるので、見終わった後で暗い気持ちにならないはず。
ホッとしましたが、主人公はペテン師ですか。
縣千さんのお芝居に、いつも強く心を揺さぶられてしまう私としては、
どんなお芝居になるのかが、めちゃめちゃ気になります。
「フォルモサ」と検索して「本」がヒット
「フォルモサ」と、検索すると、私のスマフォにはこんな画像が出てきます。
同じサイトに頻繁にアクセスすると、こんなことになってしまうようですね。
この本です。最初に検索したときに、即座にポチッと、しましたとも。
みっちり書かれた本文と訳者解説は、全419ページ。厚みは190mmほど。
献呈先であるヘンリー卿に対する慇懃な献辞から始まって、
果てしなく饒舌に、時に牽強付会に、
おもむろに荒唐無稽に、あるいはグロテスクに、
詳細な描写が続くかと思えば、大切な説明がいきなり省略されます。
ほんの少しの真実っぽさを絶妙に取り混ぜながら、
調子良く都合よく好奇心をくすぐりながら展開していく、これぞペテン師の話術。
大風呂敷を広げた「第1巻」の与太っぷりもさることながら、
後半「第2巻」には、あながち絵空事だと言い切れないエピソードが続きます。
社会的地位はおぼつかないながらも、溢れる知力と活力に恵まれた青年が、
決して挫けない野心を抱いてヨーロッパを放浪した、
その体験談が反映されている気配が滲み出てくるのです。
まるでS F冒険譚を読むかのような、手に汗を握る読書体験なのでした。
通読してみると、よくもまあ、これほどのボリュームで
「架空の国・フォルモサの地理歴史」をでっち上げたものだと、
呆れるばかりなのです。
でも「こいつは偽書だ」と知っている、しかも日本人である私だからこそ、
呆れることができるのであって、
刊行されたばかりの本を読んだ1704年のロンドンの人たちは、
マジですか本当ですか、と、ばかりにこれを面白がったのだと言います。
初版が発行されて大評判になりましたが、当然ながら
インチキでしょ怪しいでしょヤバいでしょ的な批判の意見も湧きあがって
大騒ぎになったのだそうですが、
批判への反論となる序文を書き加えた第2版が、翌1705年に発行されました。
当初の英語版のほかにフランス語、ドイツ語、オランダ語などの翻訳が
刊行されているそうです。
私が日本語訳で読んだこの本は、第2版が底本です。
さてしかし。この本が、なぜ書かれたのか。そして、なぜ評判になったのか。
読みながらずっと考えていました。
ロンドン主教を騙して多額の金をせしめるため、
という第一の目的の存在は明らかですね、だからこそ、
他の教義をボロカスに言うなどの極端な言説が繰り広げられていて、
それもまたピリッとセンセーショナルな味付けを楽しめる要素です。
でも、それよりも、本が生まれた背景を想像しながら、
320年前のロンドンがどんなだったのかを思いながら読むことが、
もっとずっと楽しかった。
権利の章典が公布されたのが1689年。
初版が発行されたのは、それからわずかに16年しか経っていないロンドン。
植民地建設を軸とした海外進出が国策として推し進められようとしている、
そんな時代です。
1701年にはスペイン継承戦争が始まっています。
日本では徳川綱吉の時代、鎖国体制は1641年には出来上がっています。
ヨーロッパでは、
「極東にあるジパングという国の伝説」はすでに証明されていて、
交易もあって日本製品は輸入されてもいましたが、
イエズス会が布教に失敗して大虐殺を招いた、ということも、
また、よく知られていたようです。
「日本国皇帝に従属する島であるフォルモサ」という
壮大な「偽物語」は、
そんな時代を背景に、繰り広げられています。
この時代、何がファクトで何がフェイクだったのか。
どこでバズれば、オカネになったのか。
現代と、2024年と、完全に通底しているじゃないですか。
サルマナザールの人物像を妄想
本名も素性も不明の人物、ジョルジュ・サルマナザールと名乗る青年のことを、
想像しました。
(読んだ本の表記は「ジョージ」ですが、お芝居では「ジョルジュ」ですから)
よく切れる、回転の良い、明晰な頭脳と高レベルの語学の才能に、
ハイオクガソリンを注ぎ続けるようにして、
ペテンのストーリーを考え続けたのだろう、と、想像しました。
彼の動機を紐解いてみれば、
出世欲、金銭欲、名声に対する欲望、世間に自分の力を示したい欲望、
そんなものも当然ながらあったのだろうと考えることができるけれど、
個人の権利を踏みにじることを当然のものとして組み込んで成立している
巨大なシステムに対する反骨の思いが、あったのかもしれないな、
と、想像したのです。
フォルモサで行われていたとされるインチキ宗教の
馬鹿げたスケールで繰り広げられるグロテスクでナンセンスな儀式に対する
呆れるほど強い皮肉、批判、風刺の凄まじさは、驚くべきものです。
そして、それをぐるっと反転させてみると、
自分たちの世界を、映し出す鏡にも、なり得る。
サルマナザールの賢すぎる目は、宗教を運営するものたちや為政者たちの、
底の浅さ、無定見さ、ご都合主義、みたいなものまで、
見抜いていた可能性があるな、と、想像したのでした。
人の命のいとおしさを知り、ささやかな幸せを願う切なる想いを抱き、
素直な微笑みと心の通い合う温もりに真実の幸せを感じとれる心を持った、
そんなサルマナザールを妄想して、
たっぷりと思いを寄せながら読書したのでした。
縣くんの姿を重ねながら。
解説に、こんなことが書いてありました。
いやはや!
心から危惧していた、サルマナザールの悲劇は、どうやら避けられそうです。
詐欺師とレッテルを貼られ、社会からつまはじきにされ、
牢獄に入れられ、もしくは追放され、罪人として辿る哀れな末路…、
を観ることにはならないで済みそうです。
お芝居の予習ですから
このエピソードはお芝居になりそうかな、と、思いながらの読書でした。
妄想劇場の準備が始まると、頭に浮かんでくることがいっぱいあるのです。
サルマナザールの喋り方は、どんなふうなんだろう
立て板に水でまくしたてるタイプなのかな
この本みたいな、すごいセリフの量になるのかな
それともダンスで表現するのかな(縣くんのダンス、堪能したいもんなあ)
駄洒落や言葉遊びみたいなバーバルギャグは、炸裂するのかな
サルマナザールがでっち上げた「フォルモサ語」で
ペラペラペラペラと喋り倒したら、意味不明のラップみたいで面白いだろうな
ペテン師的な喋りは他の人物(例えばイネス役の華世京さん)にお任せして、
サルマナザールは謎オーラを撒き散らすハンサムな青年として
辺りを圧倒しちゃう、なんていうのはどうかな
それより例のグロテスクなシーンの表現はどうするんだろう
それに、フォルモサ人の服装の説明は、いったいどうするつもりなのかしら。
「すみれコード」に抵触しまくり ↓ じゃありませんか。
演出は熊倉飛鳥先生。熊倉先生の作品は、未体験です。
今までは「別箱」(大劇場でない劇場での公演のこと)を観劇する余裕がなかったので、大劇場デビューしていらっしゃらない若い先生の作品を観る機会を作れませんでした。
熊倉先生の経歴をざっとみてみます。
ふふふふふ。この先生、やばい。(褒めています)
今頃(この記事を書いているのは11月26日です)初日に向けて、
お稽古も白熱している頃、なのでしょうね。
解像度が、ぐんぐんと高まっているのでしょうね。
もう、私の心は期待で膨らんで、パンパンです。
配信、あります
12月8日(日曜日)16時から。
この日は朝から外出する予定ですが、
用事を済ませたら一目散に帰宅して、パソコンの前に陣取る予定です。
Psalmanazar
サルマナザールの綴りは Psalmanazar 。
綴りを見るだけでドキドキしてしまうなんて、中学生か?私?