家族の物語ではない 「君たちはどう生きるか」
岡田斗司夫による「君たちはどう生きるか」の考察を待っているのだが、多分、先にプレミアム会員に対して見解を発表、一週間以上してから一般向け動画の公開の流れになるだろうと思ったので、とりあえず自分の見解をまとめておく。
おもいきりネタバレを含むため、例によって未見の方は回れ右でお願いしたい。
「君たちはどう生きるか」のストーリー自体は非常に単純なものになる。
…端折った点は多々あるが、おおまかなストーリーとしてはこんな感じだ。表向きは母親を亡くした子供が義母の存在を受け入れ、家族になる話…なのだが、実のところこれが主題ではない。
主人公である真人の心情は理解出来るのだが、ナツコ側がいまいち謎で、真人が異世界まで探して会いに来たにも関わらず「お前なんか嫌いだ」と口走ってしまう。
どうも真人に対しては、愛情と憎しみと両方の想いがあるようなのだが、何故かそこは一切掘り下げられず、ラストで再会してそのまま大団円へと向かっていってしまう。
家族が主題であるならば、当然、真人に限らずナツコ側の心情についても描写する必要があるはずなのだが、何もないのだ…。
深読みするならば、真人父との結婚について非常に喜んでいる(※1)辺り、もしかするとナツコは真人の父親を長い事想っていたのかもしれない。
真人にとってナツコは初対面同然らしかったのだが、ナツコの方は真人の幼児期を知っていた。真人は母の実家へは一度も遊びに行った事がないような素振りだったため、真人の母がナツコの夫への恋心に勘付き、帰省しなくなった…という可能性はある。
そうなると、ヒミとナツコの間柄はそう悪いものではない(むしろ良好だったように思える)ので、愛情と憎しみの両方を真人に抱いていたとしても当然のように思える。
ナツコが異世界へ足を踏み入れてしまったのも、内心、結婚と妊娠を喜びながらもどこか姉に対する罪悪感(※2)があり、また、真人からの拒絶を感じて苦しんだ挙句、異世界に引っ張られてしまったのだ…と思えば納得できなくもない。
ただこれは妄想だ。
そうした明確な描写が作中にあるわけではないので、勝手に補完しているだけであり、それらしい伏線が張られているわけでもない。
であるがために、これは家族の物語としては不完全なのだ。
また、真人の母「ヒミ」も少女の姿で真人の前に現れるのだが、若くして失った母に自分の思いの丈を伝え、心の淀みを昇華させる……などという事も特になく、それらしい抱擁シーンはあるのだが、不完全燃焼な描写になっている。
家族の物語が主題でないならば、これは何か?(続)
※1. 現代の感覚だと、姉妹との婚姻というとかなりインモラルのように感じられるが、この時代はそこまで珍しくもモラルに反した行いという訳でもない。しかし、ナツコの言動は単に縁故による結婚以上の喜びを表しているように思えた(初懐妊による喜びかもしれないが)。
※2. 頭を割られて帰ってきた真人に対し、悪阻の床の上で「姉さんに申し訳ない」と言って頬を撫でるシーンがある。「申し訳ない」のは真人の頭の傷の事なのか、それとも…。