もう一つの世界との対話 4
文:谷口江里也
クレイドール:カイトウハルキ
©️Elia Taniguchi & Kaito Haruki
目次
第1話 とても優しいカバとの対話
第2話 舞い降りてきた小さな恐竜との対話
第3話 草花を摘んできてくれた鳥との対話
第4話 遠いところから来たカメとの対話
第1話 とても優しいカバとの対話
私だってたまにはお姫さまのような
誰もが思わず振り返る綺麗なドレスを着て
しゃなりしゃなりと街を歩いてみたい。
ふとそう思って鏡の前で服を取っ換え引っ換え着てみたけれど
ドレスと呼べるような服なんて一着もない。
あったりまえだわ、と思った。
だってそんな服、買ったことないんだもん。
友達の結婚式にちょっと大人っぽいと言えなくもない服を
買ったりしたことはあるけど、だいたいが
ボーイッシュかスポーティか、それでなけば
思いっきりぶっ飛んだ服しか着てこなかった。
だからどうってことはないんだけど
私って、これからもこうなのかなあって思ったら、なんだか気分が
意味なくブルーになっちゃった。
なんとなくへなへな床にへたり込んでボーッとしていると
腰のあたりが急に、波打ち際に座っているみたいに
なんだかシャワシャワし始めて、と思う間もなく
色とりどりの綺麗な色の布がどこからともなく
まるで手品のようにスルスルスルスルあらわれて
私の腰のまわりを飾り始めた。
しかもその布の豪華なことときたら……
まるでシンデレラみたい。
シンデレラのお話だとカボチャの馬車だのドレスだのガラスの靴だのが
一瞬にしてシンデレラを飾ったり消えたりするけど
このドレスはどうなるんだろう……
などと考えているとドレスの中から声がした。
気にいった? ねえ気にいった?
見ると、ドレスの中からカバが顔を出して
うれしそうに大口を明けて笑いながら
おまけに横目でウインクまでした。
何でこんなところにカバがいるわけ?
ドレスはいいけど、カバ付きドレスだなんて、そんなのあり?
せっかく一瞬、なぜか私は魔法の力で、とか思ったのに
これじゃ興ざめだわ。
ホントにもう、よりによってカバだなんて。
気にいらないの? ねえ、どうして?
一番あなたに合った色とかを見つくろったつもりなんだけどねえ。
ねえ、もういちどちゃんと見てよ、ドレープの感じとかもさ。
ちゃんと見たら、きっと気に入ってくれるはずなんだけど……
どうやらカバは自分がカバだということを
まったく意に介していない。
しかも私のことをずっと前から知っているように親しげで
しかし頭の中はどうやら自分が出したドレスのことでいっぱい。
何でこんなことになっちゃったんだろう……
私は自分が、ドレスを着てみたいなどと
柄にもないことをつい考えてしまったことを後悔した。
ホラ、似合うじゃない、やっぱりあなたにはパープルね。
それに深いグリーンと、銀糸が何気なく縫い込まれた淡いグレー。
もしかしたら、ちょっと冒険だけど
極細のイエローのラインもありかも……
カバは布と私を交互に見ながら、なんだか
とても逆らえない雰囲気を漂わせてドレスつくりに夢中になっている。
いまさらどうにもできなくて、しかたなく
カバの好きなようにさせながら何気に様子を見ていると
カバの体の動きに合わせて
ちょうど水の中で動きに合わせて水が波打つように
綺麗な布がリズミカルにゆらゆらと次から次へと現われてくる。
細いのも幅広のも、薄いのも厚いのも、どんな布でも
どうやらカバは自由に出せるらしい。
そうして出した布を選んでカバが大きな口で一噛みすると
不思議なことに布はたがいに繋がりあい
かたちがどんどん出来ていく、その見事なこと。
相手がカバだということも
なぜそんなふうに布やカバが現われるのかということも
なにもかもすっかりぶっ飛んで
私がカバの立体裁断のあまりの見事さにただただみとれていると
カバが大きな眼をくるりとさせて私に言った。
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