見出し画像

鳥たちの夜 1

文:谷口江里也
©️Elia Taniguchi

目次 
1:飛翔に関する考察
2:翼に関する考察
3:風に関する考察

1 飛翔に関する考察

鳥はなぜ空を飛ぶのか?
考えうる限りを尽くしたうえで
行き着く答えは、どうやらたった一つしかない。
それは鳥が空を、自らが飛び回る世界として想い描いたからだ。

一体、ほかにどんな理由があるだろう。
大地に棲む獣たちの数は多く
そして海の中に生をはぐくむ生き物たちもまた。
そんななかでどうして君だけが空を飛ばなければならなかったのか。
逃げるために? 誰から? 我が身を襲う獣たちから。
そんな詭弁には騙されない。
それだけなら、それを解決する方法は他にもある。
たとえば、だれよりも速く走る者になればそれでよかったのだ。

考えてもみるがいい、それが出来なくて
どうして飛ぶなどという途方もないことが出来るだろう。
おそらく彼は、そうではない飛躍的な何かを予感したのだ。
あるいは視たのだ。
もうすこし言えば、そのことを自らの体で体感したかったのだ。
そしてそのドラマティックな変化の中に
自らの身を置いてみたかったのだ。

ところで、鳥はなぜ羽ばたくのか?
これに対する答えは簡単シンプルである。
そうしなければ地に落ちるからだ。
なんと難儀なことだろう。
だが重力に逆らって空を飛ぶというのはつまりはそういうことなのだ。

このように考えるとき
鳥が全てを飛ぶために動員したのだということがよく分かる。
彼はそのために手を失った。
骨の軽さを脆さとひきかえに勝ち取った。
自らが想い描いた空にある時の姿の優雅さのために
地上を歩く姿に関しては、それを度外視した。

この思い切りの良さは結局
空を飛ぶという彼の夢想のスケールの大きさに起因している。
要するに何かを目指すということは
それ以外の無数の可能性を断念することでもあるからだ。
そうしなければそこに近づけないほど
自らの望みが高いところにあることを
鳥はほとんど本能的に知っていた。

ここから先は

8,522字

¥ 100

期間限定!PayPayで支払うと抽選でお得

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?