映画 オオカミの家 を観ての感想
オオカミの家、ネタバレありの感想文
美しい讃美歌と不気味なストップモーションアニメが織りなす悪夢だった
冒頭のシーン、暗い家の中に入っていくマリア、暗順応してだんだん家の中にある家具の輪郭が白いチョークで描かれるさまには鳥肌が立った
また、家の中に籠り、内側から恐怖に耐えるマリアの精神状況を描くシーンでは、統合失調症患者のもつ、家に縛られ外に対し恐怖心を募らせる症状を惹起させる
無機物が命を持っているように動く様はヤン・シュヴァンクマイエルの映画を彷彿とさせる
そもそもこの映画自体が謀反を起こして逃げ出した少女について教団側が政府と結託して出された動画となっている
その時点で逃亡した少女が教団へ戻ってくるように描くのは道理なのだ
教団側としては、外の世界の方が危険で、教団の方が安全だと言いたいわけだ
一旦は安全地帯に入ったように見せて、最後マリアが子豚の二人に捕えられてしまうシーンは、マリアが子豚に外は危ないからぜったいに出るなと言っていたのではないかと想像する
マリアが外に出られないシーンを見ると、マリアが教団時代に外に出るなと言われていた時のことを思わせる
一面が白い画面になるシーンについて、併せて公開された「骨」のラストで白は無、白紙を意味すると表現されていた
オオカミの家では3回白いシーンが描かれている
1枚目はマリアが安全地帯の家へ逃げ込み、安心している時にオオカミの声が聞こえてきた時
2枚目はオオカミに折檻されるのがフラッシュバックするシーン
3枚目は家の中に食べ物が無くなり、展開が変わるシーン
1枚目のシーンでは、家に逃げ込み、オオカミから逃げられて安堵しているマリアに、急に恐ろしいオオカミの声が聞こえてきたせいで、教団での恐ろしい記憶が蘇ってしまい、恐怖で心が無になってしまったのではないか
2枚目のシーンでは、教団でオオカミに折檻されるフラッシュバックによって、マリアの心は恐ろしさでまた無になってしまう
オオカミがいつか自分を捕まえにくるのではないかという恐怖心、夜寝ると教団での恐ろしい記憶がフラッシュバックしてくるという極限の精神状態だったことが伺える
3枚目のシーンでは、食べ物がなくなってしまい、この先どうしたら良いか途方に暮れる虚無や絶望感を表している
何とか逃げ出してきてそれでも幸せだった空間が、変容していくシーンだ