映画 女のハードボイルド、”ナミビアの砂漠”を見ての感想
※ネタバレ有
この記事には暴力的な表現やショッキングなシーンが含まれます。
煙草、酒、ホスト、性、暴力…
現代を生きるカナという女のハードボイルド、その生き様があふれる映画
気怠そうに煙草を吸い、ホスト帰りに酔っ払ってタクシーの窓から吐いたり、同棲中の彼氏の家から勝手に逃げて、刹那的に他の男と付き合い始めたり、新しい彼氏を口汚く罵って暴力を振るったり、好き勝手奔放に生きる女
新しい男に今の彼氏と別れて、と言われてどうしようか…と考えをめぐらしているところに、すすきのでの浮気の話を謝罪されて、棚ぼた展開に思わずにやりとするカナ これでこの男と別れる口実ができた…とほくそ笑んでいる
新しい彼氏と一緒にピアスとタトゥーを入れ、浮かれているのも束の間、彼氏の荷物の中から妊娠のエコー写真が出てくる モヤモヤするカナ
元カレとばったり出くわしてしまい、もう一度復縁を迫られる主人公
カナが中絶したという事実を告白すると、ショックで泣き崩れる元カレ
なんであんたが泣くの、意味わかんない…と感じているカナ
元カレとの再会で苛立っていたカナは、家へ帰ってから彼氏にエコー写真を突きつけて、元カノとの間にできた子どもを中絶した事実を引き出すと、彼氏に暴力をふるってしまう
(中絶したことを)忘れてたって何なんだよ…忘れねえだろ普通とキレるカナ
この日を境に彼氏に繰り返し暴力をふるうようになってしまう
このカナの無頼漢さ、タナソーのポッドキャストでも言ってたけど、ショーケンや探偵物語の男のハードボイルドを女にしたような感じなんだよね、だから優作好きな中年男性にとってはスカッとしたと感じるけど、一般的な女(映画の中で例えるとカナの友達の女やグランピングで出会ったカナコや妊娠中の女)にはウケないんだと思う
小説だと桐野夏生、漫画だと水城せとなの世界観だよね 自分独りの世界があって、孤独で、いつもアウェーで、恋人への暴力がある 独りで生きても煙草吸って酒飲んで格好がつくならいいよ、男のやせ我慢の美学ってやつで
でも女は格好つかないんだよ、こころの奥底に愛されたい、って思いがあるから 同情でかわいそうって思われたりすんの、まじでうっとおしいんだよって
この映画で新しいと思ったのは、女のハードボイルドとして、”中絶”を口実に、恋人に暴力をふるうというところだ
女性の”妊娠”というセンシティブな問題を逆手に取った、実に深いテーマである
グランピングのシーンでも、妊娠している女が出てくるが、彼女は愛されて幸せいっぱいだ これも中絶をしてしまったカナや今の彼氏の中絶した元カノとの対比として描かれている
同棲中の男と妊娠したとしたら、普通の女は保身に走って、”子どもできちゃったの〜どうしよ〜泣(責任とって)”って泣き落としすると思うのだが、(ゼネコン勤めの金持ってる優男なんて、普通の女からすれば最高の優良物件)カナのようなタイプの女は違う
1人で勝手に自己判断して堕ろして、ひとりで傷ついて、何事もなかったかのようにしてしまう 相手がいても孤独なんよ、それがハードボイルドや…
普通の女は自分の幸せ、愛されたいという女の幸せを追求すると思うが、カナは違った ある種自暴自棄になって、誰も信用できなくなってしまっている 後先考えずに…
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サブタイトルの”私は私が大嫌いで、大好き”の意味は何なのだろうか
それを理解するためには、この映画に渦巻くカナを理解しようとしない人々の存在と、カナのこと(カナのハードボイルド)を唯一理解してくれる存在、隣人のひかりとの関係性が重要になってくる
①理解してくれない友人
かったるそうに駅を闊歩する主人公カナ
喫茶店で友達と待ち合わせ前に煙草を一服する
この時点でなんとなくこの後の予定で友達と茶しばくのがだるいんだろうな、ということを思わせる
喫茶店で席に着くと、友達はパフェを食べる気がなくなったから、と言ってカナにパフェをあげた
友達もカナが煙草を吸うって知ってるんだから、甘いものあんまり食べないの分かるだろうに…と思いつつ見ていたら、やはりカナはつついてるだけで食べようとはしない
なんかこの時点でこの友達はカナのことを本当に理解してくれていないんだな、と感じてしまった
喫茶店で友達が自殺した同級生の話をしているが、カナは後ろで男が猥談しているのがノイズになって友達の話が入ってこない
これも友達をないがしろにしてるシーンだ
②元カレ
ホスト帰りで浮気して帰ってきたカナを甲斐甲斐しく世話するが、上司と札幌へ出張に行って浮気してしまったことをカナに謝罪する
黙っておけばいいものを、バカ正直に言うのも相手の気もちを考えていないし、ヤキモチ焼かせようとしてるんだったら的違いかな…
カナと再会して中絶した事実を告白された後、ショックを受けるのは分かるけど、そこは何で俺に相談してくれなかったの?と聞くところでは…?信頼されてないから(好きじゃないから)中絶してしまった→謝るっていう思考回路なのかな…にしても謝られても…
③今の彼氏
カナと口論になった時会話を拒んでいる
気が立ってるカナと関わりたくない気持ちでいっぱいになってしまっている
そして暴力を振るってくるカナに反抗して喧嘩している 自暴自棄になったカナを受け止めてあげることができない
でもカナのことが好きだから離れられない、このかなしみ…
精神科医のカウンセリングの様子から、カナは暴力を振るう家庭で育ったことは十中八九間違いないだろう しかし彼氏はそうじゃない だからカナの暴力的な思考についていけない
でもある意味カナの暴力に付き合ってあげて一緒になって喧嘩してるから、いい人といえばいい人なんだろうね
④隣人のひかり
火を焚きながらひかりが言う言葉、
「あなた自分のこと嫌いだけど好きでしょ?」
「3年後は誰も覚えてないし、100年後には誰もいないだろうけど」
この言葉にカナは救われ、最後のシーンへと繋がっていく
”自分のことが嫌い”というのは、女の幸せ(愛されたいという願望)を表面上は否定し、自暴自棄になっているということ、”自分のことが好き”というのは、愛されたいという気持ちをニヒルな自己愛でしか表現できない、ということ
「3年後は誰も覚えてないし、100年後には誰もいないだろうけど」
中絶したことも、彼氏に暴力を振るうことも、無職なことも、精神科にかかっていることも、今はつらいことだけど、数年経てば周りのみんなは全て忘れてしまうし、100年後にはみんな死んでしまって土の中だよ
みんな都合の悪いことは忘れていく、そんなもんだから、そんなに気にしなくていいよ…
ひかりはカナを理解している
その一言でカナのこころは透きとおっていく
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