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急性期病院の方法論が高齢者医療を肥大化させる

 急性期病院というのは、原則として急性疾患を治療する場として存在する。骨折、心筋梗塞、脳梗塞、肺炎を治療する。脳梗塞や心筋梗塞ではエビデンスのある再発予防の治療を行う。今後の治療継続はかかりつけ医に依頼する。

 悪性腫瘍の場合は抗がん剤治療の継続が必要だったりすることもある。だけど悪性腫瘍の場合は、どれくらい長生きしそうか、どんな経過をたどるかがある程度予測できるから、それに合わせて専門家が適切に対応できる。

 老化と認知症に上記の方法論で対応すると、医療負担が増える。
なぜかといえば、老化も認知症も基本的には進行するが、死亡する時期は予測不可能で、容易に延命が可能な疾患だからだ。

 そもそも、「老化」という方向性で病状説明を行うことは殆どない。どちらかといえば、病状説明をしないために「老化」という言葉が使われる。

 認知症もそうだ。「認知症」による「嚥下障害」で「誤嚥性肺炎」を発症した場合、殆どは「誤嚥性肺炎」についての説明だけを受ける。運が良ければ「嚥下障害」についても説明があるかもしれない。でも「認知症」の経過まで説明してくれることは滅多にない。

 急性期医療の枠組みでは、肺炎については十分語ることができるが、後者二つは異なる語り方が必要なのだ。

 どちらかといえば、急性期医療が終わったときに

・誤嚥性肺炎を発症した場合、20人に1人くらいは一か月以内に再発する。

・認知症があるのでリハビリの効果は限られる。

・肺炎によって嚥下障害が悪化した。

・だから、再発したときにどうするか、再発を繰り返し衰弱する中でどんな風に過ごしていきたいか、を今のうちに決めておきましょう。

とする必要がある。

しかし、誤嚥性肺炎を再発するたび救急要請され、毎回異なる急性期病院に運ばれてしまうことも多い。

だから、毎回その場限りの対応になってしまう。

急性期病院のロジックで行われるのは

急性期の抗菌薬治療を行う。
併発した心不全に対して、心不全の治療を行う。
心不全の再発予防薬を導入する。
偶発的に見つかった糖尿病に対して、糖尿病の治療を行う。
誤嚥性肺炎に対して食形態を工夫する。
介助の仕方を工夫する。

すると、家人では見れない程度に高度で複雑な医療処置が要求される患者が生まれる。
そうなると、施設に入所するしかない。
療養型病院は、と考えるかもしれないが、療養型病院は高額な薬剤を内服している患者を受け入れないことが多い。
そうなると、薬剤をまた減らしたり安価な代替薬に切り替える必要がある。
こうして入院が長期化する。

なぜか(特に若い)医師は年齢と予後を推定せずに予防医療を導入する傾向にある。

90歳で寝たきりの人が長く生きない、というのはそんなに難しい推定ではないが、それを根拠に予防医療を導入しないことができない。

 それは、ガイドラインとエビデンスが生み出した呪いだ。

つまり、エビデンスを参照すれば病気に対してどのような薬を使うかは書いてある。だから使うと言うことだ。

「何を良くするために薬を投与するのか」
という考えが存在しないのだ。

そもそも老化と認知症という治療不可能な疾患が存在しているのだから、それを前提に家族と目的を共有して、目的を達成するために治療するのが望ましい。

でも、急性期治療が終わった後に家族と価値について話をする医師は多くはない。

それは、急性期治療が終わったら自分の仕事は終わりだと考えているからだ。

これがかかりつけが多くて、自分の病院にまた入院するだろう(そして先輩が診療するかもしれない)と想定される病院では少し違う。

そうした場合は、次に診療する人のためにある程度しっかり話をする、もしくはそもそも再び入院する必要があるのか?について話をするだろう。

認知症と老化に関しては、医療行為をどうするかより、時間をかけて話をして、治療目標をどうするかを設定し、今後医療や介護を何のために使っていくかを考える方が

・本人の体験を改善する
・家族の負担を軽減し、持続的に本人と関われるようにする
・医療費を削減する
・病床と医療資源を有効に利用する

上で大切なんだ。

多忙な病院では話をする時間がない、という反論がある。

多忙な病院は正直、老化と認知症を背景に持つ誤嚥性肺炎を診療するべきではないだろう。

背景疾患としての老化と認知症は、高次機能病院のエビデンス重視の文化と複数専門家による共同診療の中では、多大な医療資源を消費し、結果的に急性期病院以外で生きることが難しい患者を作り出してしまう。

誤嚥性肺炎が入院する病院の中には、多忙ではない病院もある。
そうした病院で働いたときに、地域の医療資源を消費し続ける方向で退院させることもできる。

でも、本人と家族の体験を改善するような形で退院を準備することもできるんだ。


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