社会保障費が世代間健康格差を拡大したとき、社会保障は拡大の正当性を失う
まず、社会保障費の増加予測を見てみよう。
このデータを参考に、社会保障費が単調増加すると仮定する。
上図からは、社会保障費が対GDP比で10年で5%増加していることがわかる。
つまり、2030年には25%、2040年には30%になると乱雑に計算できる。
これは対GDP比で考えているので、経済成長とは無関係だ。
物凄く乱暴な計算だが、2040年には厚生年金、健康保険料、住民税、所得税、消費税が1.5倍になる。
30歳で月収30万の人は、2024年現在
このツールで計算すると(端数は丸めている)
所得税6000円
住民税12000円
健康保険(個人) 15000円
厚生年金 (個人) 27000円
雇用保険 3000円
となり、手取りは24万円となる。
消費税は10%である。
10万円を家賃、2万円を貯金するとして、12万円が消費されるとしよう。
そのうち消費税抜きの消費額は10万9000円になる。
さて、2040年の給与明細を概算してみよう。
所得税 9000円
住民税 18000円
健康保険(個人) 22500円
厚生年金(個人) 40500円
雇用保険 3000円
となり、手取りは20万7000円となる。
つまり手取りが3万3000円減る。
10万円を家賃、2万円を貯金するとして、8万7000円が消費されるとしよう。
そのうち消費税ぬきの消費額は7万6000円になる。
つまり、消費できるお金が実質的にも3万3000円減るのだ。
これは以前の記事で述べた、趣味1つ分である。
そして子育てに月7万円かかるとすると、30歳で月収30万円で子育てをする場合、趣味か貯金か食生活を諦めなければならない。
ここまで負担感が増えると、食生活を諦める選択肢はかなり有力なものになる。もしくはコスパの良い趣味としての飲酒も有力な候補になる。つまり自宅で安価な蒸留酒を飲んで酔いつぶれるということだ。
食生活を切り詰めて、安酒を飲む生活はアルコール性の脳・神経障害やビタミンB1欠乏による脚気を増やす。また、感染症にかかるリスクや、重症化リスクも高める。
確かに病院は脚気の治療はできる。感染症も治療できる。アルコール依存症も治療することはできる。
しかし、このような疾患にかかるような貧困は、寿命の短縮に繋がるだろう。
今のところ社会保障費の世代間格差は、金銭的な要因に限られている。
平均寿命は延長しており、世代別の死亡率も低下傾向にある。
しかし、以前検証したデータでは、時代に伴う死亡率の低下のトレンドは、現代に近づくほど、若年であるほどはっきりしないことが示された。
上図は各年齢の年代ごとの死亡率の推移をみたものだ。
一番下は33歳で死亡する確率で、一番左の2023年で青グラフは、2023年に33歳であった世代が2023年に死亡する確率だ。
医学の進歩を鑑みれば、2004年の33歳より2023年の33歳の方が死亡率が下がっている、ということだ。
もちろん新型コロナウイルスが流行した2020年以降はグラフのトレンドは変化していて、これは当然に新型コロナウイルス感染症の影響と考えていた。
今後このトレンドがどう変化していくかは注視が必要だ。
なぜかと言えば、社会保障負担・税負担が高すぎて、現役世代が十分な貯蓄がなく、栄養状態が悪くなった結果として死亡率が高くなる場合、それは社会保障の存在理由を揺るがせるからだ。
社会保障費が高額すぎるので、その負担が少ない高齢世代の死亡率は低下傾向ですが、現役世代の死亡率は増加しており、現在の高齢世代が減益だった時よりも高くなっています、となったする。
この場合、現役世代の死亡率を高めることで、高齢世代の死亡率を下げる制度、ということになる。
この取引は現役世代の誰にとっても受け入れられるものではないだろう。
さて、2024年現在、40代、50代は氷河期世代が多く含まれる。
この世代の困窮ぶりは、持ち家率の低さ、婚姻率と出産率の低さ、金融資産の乏しさ、非正規雇用の割合の高さから客観的に示されている。
ただ、現時点では40代、50代前半なので、この年代はまだ健康問題が命を落とすことに繋がる年齢ではない。
しかし、もしこの世代が60代に入ると、死亡率の上昇を経験する可能性が高いと推定できる。
また、新型コロナウイルス感染症は心血管疾患、認知症、慢性疲労症候群などの発症リスクを高める。上記疾患はいずれも、就労の継続を難しくしうる。しかし持ち家率の低さも非正規雇用率の高さも貯蓄の少なさもこうしたイベントに対して個人を脆弱にする。
つまり、大企業に正規雇用されていて、持ち家で、金融資産が十分ある日とは、上記疾患になっても配置転換で仕事を続けたり、資産からの金融所得や貯金を切り崩すなどで2-3年は凌ぐことができて、その間に体の状態を良くしていくことが可能かもしれないが、非正規雇用で、賃貸で、金融資産がほとんどない人は、上記疾患に罹患すれば無職になり、貯金が尽き、家を追い出される可能性が高い。こうした状況では国保の支払いも困難だろう。そうなれば生活保護が現実的なセーフティーネットになる。
しかし、現在のように簡単に生活保護を受給させる仕組みがいつまでもつだろうか。
また、仕事を失い貯金が尽き、家がない人の健康状態の悪さを、医療によって改善することは確かにある程度できるのだが…
そもそもお金が十分あればそうした医療費は全部不要だった、となるとなおさら何のために医療をしているのかわからなくなり、社会自体を改変することが必要だと考える医療従事者が増えることになるだろう。
こうした点からも、氷河期世代が50代、60代になる10年後に、死亡率の上昇という統計データによって、社会保障費の増大の正当性が脅かされることになるだろう。
僕はこうした事態を懸念している。
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