少年の声
少年の声
影の通り道に僕はいた
生と死の結び目でひとりだった
あと数秒で枯れる花を看取る前に
僕はそこに行ってしまった
老木に手を添えて語りかける
その魂の往来に生命は思い出した
樹影に映る遠い記憶
僕らは常に生かされている
意識と体が重なる時
世界は少し変わっていた
世界に変えられてしまわぬように
僕は黝い空に覆われて守られていた
枯れた花の香り
残滓すらも消えてしまった
ただ残った
生きている僕
打ち覆い
打ち覆いのように
崩れた家を侵食する植物達
暮らしの跡と誰かの記憶が
腐葉土のように堆積していた
語りかける誰かの記憶に耳を澄まして
歴史の声を聴いていた
記憶は余計に語らないから
未来に続きを求めてた
世界の木陰で終わった命の
誰も知らない美しさ
その途方もなく茫漠な景色に
僕らは耐えられるかな
記憶の影で震えている
眠れぬ夜に窓を開け
夜気が部屋に流れ込む
黝く霞む田の畔に
僕は思わず駆け出した
敏捷な生をすり減らし
それを薪に暮らしを灯す
明日と一緒に死は迫る
僕は思わず駆け出した
昼間の雨が草木に溜まる
夜風に揺れて落ちてゆく
逡巡しながら闇夜を漕いだ
舟が静かに流れてく
無窮な空の遥か彼方で
小さく聞こえた寂しい音に
震えているのは幼き霊魂
いまも昔も泣いていた
遠のく幼き霊魂が
思わずかけてく葦の原
闇夜に淋しい葦の音
僕の心と重なった
僕は裂く動揺し
田の畔まで駆け戻る
寂しかった