見出し画像

Backyard Ultra - World Team Championships 2022 参戦記

レース編 (準備編はこちら)

 結果は、国別対抗は日本は4位/37ヵ国、個人記録は45周(約301.8km)でDNFとなり、73位/555名だった。最初から最後まで心は元気で楽しめていたし、胃腸も21周目に腹痛が来てピットインした以外は問題なく、リアルフードを食べ続ける事が出来ていた。ただ、35周~40周で右アキレス腱周りと足底の痛みが徐々に悪化し、うまく対処することができず、下りを走り続けられなくなってしまう。遅くなった分、登りを更に頑張るか休みを減らすかしないのだが、登りはほぼ走り続けていたため短縮する余裕は少なく、休みが削られ、脚の痛みが増すという負のスパイラルへ陥り、最終的に辞めるという選択を選ぶ事になってしまった。終わってから、足首を確認すると踝が隠れるくらい腫れていた。でも、サポート、選手、運営の方々や応援を頂いた方々のお陰で本当に楽しく、終わった直後からまた挑みたいと思えていた。練習方法や質/量のバランスを変えるなどを試した結果、次はどんな自分になれるかどうかを見てみたいという欲が出た。トレランのトレーニングとは違うのが難点だが、どうやっていくかも考えてみたい。あー、やりたい事がいっぱいで楽しすぎる!

国別リザルト、もうちょっとで3位。もう少し自分が頑張ればって全員が考えるんだろうなって思えるくらい、参加者はみな大きくて優しくて強い方々だった
個人リザルト、ジュンさんは女子世界4位だった!

 コースは川の駅上野を起点/終点とし、100%舗装路で1周約3.35km、約35mD+を2ループするコースとなっている。スタートからは、国道に沿ってなだらかな下りが続き、神流川を渡る橋まで下り切ったら、橋を使い反対側に渡り、緩やかな登り基調で戻ってきて、また橋を渡る前に距離調整用と思われる僅かなピストンを経てスタート地点に戻る。全体的に、斜度は緩く下流側の橋を渡った直後の登り以外はほぼ走れる感じだが、人によって登り下りで歩きを交えたりしながら調整しているのが面白かった。

赤い線がルートで、反時計周りでひたすら回り続けた。グルグル好きにはたまらないw

 自分は、スタートからの下りが遅く、毎回ほぼ最後尾を走っていた。動き出しは丁寧にしたかったので、少し抑える意識は持っていたが、それにしても遅かった。そして、この下りの車道に細工が施されていた、車が走ると音が鳴るメロディーラインである。最初は特に気にしていなかったが、1日以上同じ曲を聴き続ける事になり、最終的には頭から離れなくなっていた。ちなみに、曲は”ひなまつり”だった。最初は何故かを考えもしたが、途中からは無限ループ再生による洗脳状態となり思考停止になったw

神流川沿いを下る、景色はとてもキレイで澄みやか!
もちろんテーマ曲は”ひなまつり”

 その後神流川を渡る橋を渡って登り返し。直後のちょっとした坂は歩くが、それ以外は一定のリズムで走り続けていた。リズムなのかステップの意識が良かったのか、下りよりも登りの方が気分的にはラクで楽しかった。その感覚は最後まで変わらなかった。

この橋がコース最下点
この辺から緩やかな登りが1km以上続く
あとから見ると、かなり爽やかな感じのコースwでも夜は全く何も見えない

 上の写真のもう少し先のところがピークで、その先は少し下り基調となり、スタート直後に通った国道に帰ってくるので気分がラクになる。ただ、1か所の折り返しがありそこまでがまた登りになるので、そこの切り替えが疲労がたまるにつれて上手くいかなくなり歩くケースがあった。

トンネル手前まで登って折り返す、あのコーンを何度手前に寄せようと思ったことか
Photo by 奥村さん

 ここを折り返せば、あとはまた緩やかな下り基調でスタートへ戻ってくるだけ。橋が曲がっていて。そこを越えないとスタート地点は見えないが、もう終わった感が出て気分が相当ラクになる。

結構立派な橋、前を走っている野口さん、ヒデキさんには何度も元気を貰った!
橋から見える景色、紅葉も始まりとても綺麗だった!
スタート地点直前の外気温計。これを目安に、体感的だけではなく客観的にレイアリングを
考えられるのでとてもありがたかった

 これ2周するとエイドに戻れるというコース設定だった。エイドでは、トイレ➡水分補給➡食べる➡寝るをひたすら繰り返していた。トイレは結局毎回行った。尿の色で水分摂取が足りていないかの確認と、走っている途中だと1周目と2周目の間の帰ってきたところでしかトイレがないため、リスクを抑えるために行った。それが終われば、運営が用意してくれたポカリ、コーラ、野菜ジュース(途中で売り切れ)、炭酸水から飲みたいものを摂取し、自分のテントに戻る。エイドでは3ループのうち2回はおいなりさんやうどん、お茶漬けなどの食事を食べ、1回は控えめにした。毎周のようにお腹は空くが、胃腸に負担をかけ続けるのもリスクがあるので、意図的に摂らない時間を作った。

ライフベース、妻のお陰でリラックスできかつ欲しいものがすぐ手に届くかなり快適な空間だった
今回秘密兵器として導入した椅子が秀逸だった!そのまま寝れるし、寝てる間足が上がり気味なので、足に溜まった疲労物質が血液と戻ってくる感覚で、回復効果は確実にあったはず。

 ってな感じのルーティンをひたすら繰り返してきた。さすがに、何が何周目で起きたなんて覚えられなかった。ただし、最初の周は全部ロードで走りやすく、リラックスランでも高尾より早く帰れるのでラクじゃんなんて周りと話していた。ただこれは壮大なフリで、走るごとにアスファルトの硬さにより足底や足回りの関節がやられることになっていた。そのため、昼間は路肩に生えているコケや落ち葉クッションの上を使いクッションがわりにしていた。トレイルメインの人達(シンさん、ヒデキさん、野口さん、塚田さん)が同じような苦しみを抱える中、今回最後の方に残っていた猛者の方々はまったく気にしていなさそうだったので、ロードのロング練による耐力向上が必要だと感じた。

左側のコケの上を走る。夜だとガードレールギリギリに寄せ切れず、使えなかった

 各ラップのペースについては、なるべくリラックスを心掛け上げ下げをしないイメージで走っていた。そのため、明確に歩くと決めた場所以外はほぼ走り通す事で、ラップタイムは終盤までは落ち着いていた。あと、意識せず変えたつもりはなくても明るくなると早くなるのは面白い。無理にタイムを合わせようとする必要はないが、大体同じだと休憩のルーティンを意識しやすくリズムをつかみやすいし、サポートも準備しやすいと感じた。

夜が明けると自然と元気が出るっぽい。

 ただ、同じように走っていても色々起きるものである。今回は3周目で股関節の痛みが出たのは焦った。そしてそこから夜が明ける9周目までは結構苦戦していた。正直、100マイルに届かないのではと相当弱気になったが、サポートに来ていた妻の応援や、これからサポートに来てくれる3人の事、夜明けなどの外部からの変化をきっかけに調子を戻したいと思っていた。結果、夜明けとともに元気が出て気にせず走れるようになった。そのあと、2時間後くらいにはパイセンが到着しさらに元気が出た。やはりロングは絶対調子が落ちる時間帯があるので、そこで諦めず粘ることが重要。そして辛い時に粘るためには、内面に意識を向けるのではなく、外に向けるのが良いって事なのかもしれない。たとえそれが序盤だったとしても、腐ってはだめだという事を改めて体感した。
 2度目の夜が始まろうとする19周目に、今度は眠気が急に襲い始めてきたため、レッドブルを投入。確かに一時的に目が覚めるし、なんだか身体の動きも良くなった気がした。ただ、疲労を伴った眠気はなかなかしぶとく、やむなく20周目にコーヒーを投入したところ走っている最中に腹痛に襲われる。何事も摂り過ぎは注意しなければいけない事を痛感する。そのあとに家族が帰ったり、落ち着きを取り戻したりで何とか24時間経過を迎える。といっても何があるわけでもなく、暗い夜道を淡々と走る事には変わりなかった。そんな中、たけぷーさん一家が応援に来てくれたり、夜中にミカさんとどこでも現れるシャウさんが応援に来てくれたのは驚いたし元気が出た。刺激がない時間帯での応援は本当に助かる。その後28周目くらいで聖子ちゃん、ユミちゃんがサポートに加わってくれて賑やかになる。夜間の12時間はより自分に意識が向きがちで落ちやすいが、お陰で何とか元気よく夜明けを迎える事ができた。塚田さんのように24時間経過してからペースが上がってくるような猛者もいて、タイプの違いを楽しめたし、なぜそのような結果が出るのか背景が気になったりしていた。一方この前後から、カトルスさんが少しフラフラしていた土屋さんを気遣い声をかけたり、わざわざ戻って付き添って走ったりしていた。そんな土屋さんはフラフラしながらも周回をどんどん重ね、心の強さを相当感じた。また、正岡さんは辞めた後も残ってくれてしばらく応援してくれたり、野口さんは帰るときに食料を置いて行ってくれたりと、みんな何かできる事を考え実行してくれるようになり、疲労とは裏腹に何かと胸が熱くなっていった。そして、辞める人が出る度に辞める方も残る方も涙ぐんだりした。特にシンさんやヒデキさんといったよく知ってて気持ちがわかる仲間が辞める時や、田村さんみたいに何時間もカロリーがあるものを受け付けず嘔吐し、ヘロヘロになりながらもループを重ねる姿には泣かされた。そして、とてもアツく居心地が良い雰囲気が醸成されつつあった。運営も少数ながらもあの手この手で尽くしてくれたり盛り上げたりしてくれていて、この雰囲気の中でいつまで走りたいという想いがどんどん強くなっていった。そんなタイミングで、よく知る白川さんや前田さん、ショーコさんやコータローさん、佃さん、青柳さんなど色々な人が来てくれて応援してもらい元気が出た!(他にもいたと思いますが記憶が曖昧で….抜けてたらスミマセン)

白川さん、チー100では相当おせわになり、2020年の高尾では一緒に走りテントもお隣
前田さん、TDT200で幾度となく救ってくれて一緒にゴールした戦友

 一方で身体は波を持ちながら徐々に下降していく。40周を越えたところから、急に土俵際が近い感覚になる。右アキレス腱と足底の痛みの質が、このままいくと走れなくなるのではと思わせるものに変わった。それでもジュンさんに励まして貰いながら粘っていったが、痛みが徐々に増していき下りを走るのがツラくなり、最終周となった45周目は登りを最速ラップで走ってリカバリーしても58分半かかってしまい、ついにその週で終わってしまった。

最後はジュンさんとしばらく一緒に走れたお陰で、周回を増やす事ができた
Photo by 奥村さん

 終わりは本当にあっさり来てしまう。自分としては粘っていたつもりでも、走らないという選択を選んだ途端終了となる。理由は先述したが、足首を見ると踝が埋まるくらい腫れていて、これ以上無理はしなくてよかったと思えた。ただ、脚も心もまだ元気はあり、使いきれなかった感はあった。それを見透かしたかのような、聖子ちゃんからの”阿部ちゃんの限界はここじゃない気がする”との言葉が凄く胸に刺さった。自分の限界を足首で決められる訳にはいかない、更に鍛え直そうと心に誓った!

みんなのお陰で45周もできました、本当にどうもありがとうございました!
結果、ゴールデンチケットのかわりに、段ボールチケットを頂きましたw 愛があって嬉しい!

 終わった後は、寝ようとするが足が痛いため長く寝る事ができなかった。そのため夜中にエイドに戻ると、館野さんと田中さんがDNFした直後だった。みんな色々ギリギリな状態でも粘っていたのを改めて感じ、自分はそれぐらいの脚の痛みで粘り切ったと言えるのか?と自問自答をした。ただ、歩くのもままならない状態になっていたので、決断を信じ今回の経験を次に繋げようと思うようにした。その後、何度か寝たり起きたりを繰り返して朝を迎える。それでもまだ4人も走っていて、しかもみんな元気そうで衝撃を受ける。そして、トモさんやほかの運営の方々もテンションが上がり始め、さらに一体感を伴った楽しい雰囲気になっていった。芝脇さんは相変わらずの穏やかさと変わらない走り、吉田さんは紳士的なスマイルとコントロールされたペース感、カトルスさんはビールを飲みつつ元気に明るく力強く、平田さんも元気かつ軽やかな走りと4者4様だが、前半よりも研ぎ澄まされた感が出てきて、自分が一緒に走ってたとは思えない次元が違う競技を見ているようだった。ただ、4人とも魅力的で悲壮感なく話したり走っているのが神々しく感じられた。後ろ髪を引かれる思いで上野村を後にし、自分のBackyard Ultra - World Team Championships 2022は終わった。

60周目を迎えた大きな背中たち
60周を迎え、良い意味で運営もおかしさを増していったw
Photo by 奥村さん

 今回、ウェイティングから参戦権を頂き挑むことを決めたが、正直自分なんかが勝てるなんて思ってはいなかった。でも、過去の自分には絶対勝つつもりで本気で準備して何とか自己記録を更新できた。恐れず次に挑まないと新たな自分にはなれないし、挑む事でしか次の世界は見えないものだとわかった。バックヤードをやることで、ゴール=それ以上走らなくてよい、である事もわかった。誰かにこれ以上走らなくていいよって決めて貰うのと、自分で走るのをやめる事を決める、では大きく違う。自分で選択する場合、そこまでに何度もそしてどんどん大きくなる不安、孤独、恐怖がつきまとう。その暗くて大きな壁を知っていてもなお挑みたくなるのは、挑まない限り新たな自分になれないとわかっているからなのかもしれない。多分その感覚があったから、途中どんなに辛くても進み続ける事を選ぶウルトラトレイルの世界にのめり込んできたのだろうなと思えた。人それぞれの挑む壁は違うので、ぜひ色んなレベルの人にバックヤードに出てもらいたい。自分自身の肉体や心の限界を覗き、次のステップへ行くための1つのきっかけになれば良いし、挑みたいと思っている人や挑戦している人を応援したい。
 あともう1つ良い事がある。バックヤードは1時間に1回自分とレベル違いの人達と必ず一緒にスタートできる。普段だったらスタートと同時に見えなくなり、ゴール後に表彰台に上っているのを遠くから眺める事しかできない超人達の走りや、練習方法、走る際の意識を見聞きさせてもらい本当に勉強になった。

チームJapanのみんな、一緒に走らせて頂きどうもありがとうございました!
Photo by 奥村さん

 最後になりますが、一緒に走らせて頂いた選手やそのサポートの皆さま、最後まで心のこもった大会を催してくれた運営の皆さま、応援いただいた皆さま、そして自分を信じてサポートしてくれた、パイセン、聖子ちゃん、ユミちゃん、家族に改めて感謝したいと思う、本当にどうもありがとうございました。そして上野さん、最後まで自分の心を支えてくれてありがとうございました。また伝えなければならないお礼が増えました。上野さんが覗いていた世界の一端を少し見れたような気がしますが、一方で気付いていなかった広さに愕然ともしています。またいつか一緒に語れるように、今回得られた経験を糧に、またコツコツ努力を重ね、まだ見ぬ自分の限界に挑み続けていきます!!

Stravaの記録はこちらです➡https://www.strava.com/activities/7976136510

いいなと思ったら応援しよう!