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【2024年大統領選】ケネディ・ジュニアの選挙戦 “第3党”候補は二大政党に対抗できるか

 こんにちは。雪だるま@選挙です。今回の記事では、11月の大統領選に向けて、民主党と共和党の二大政党以外から立候補する「第3党」の候補に焦点を当てます。

 民主党の名門・ケネディ家出身のロバート・ケネディ・ジュニア氏が無所属で出馬し、一定の支持を集めています。ケネディ氏の選挙戦の現在地と今後の展望について考えます。

 また、二大政党が政治的に先鋭化し、分極化が進む中で、二大政党ではない新しい勢力を模索する動きが広がっています。このような第3党勢力は、アメリカの政治で勢いを保つことができるのかについても、考察します。


24年大統領選の第3党候補

RFK=ロバート・ケネディ・ジュニア氏

 ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、米民主党の名門・ケネディ家に生まれました。1960年に当選したケネディ元大統領の弟で、司法長官も務めたロバート・ケネディ元上院議員の息子です。

 ケネディ氏は、当初の選挙戦では民主党の予備選に出馬していました。政治的には、環境保護や中絶権などの争点で、民主党や左派と親和的な立場を取っています。
 一方で、バイデン氏を「分断を招いた」と厳しく批判し、また反ワクチンを含めて陰謀論を含む主張を展開していることから、共和党からも一定の支持を獲得しています。

 民主党予備選では、現職のバイデン氏に挑戦するも支持が広がらず、昨年10月に無所属での出馬に切り替え、本選を目指す意向を表明しました。

コーネル・ウエスト氏

 コーネル・ウエスト氏は、緑の党からの出馬を模索していましたが、昨年10月に無所属での出馬を表明しました。

 ウエスト氏は、急進左派の活動家として知られています。2016年や2020年の選挙では、民主党のバーニー・サンダース上院議員を支持し、今年の大統領選では、バイデン大統領の支持層を削る可能性が指摘されています。

 ただし、今のところは知名度不足が影響し、ケネディ氏ほどの支持を得るには至っていません。

政治団体「No Labels」の動き

 政治団体の「No Labels」(ノー・ラベルズ)は、民主・共和両党に不満を持つ有権者から票を集め、超党派を形成して大統領選での勝利を目指していました。

 しかし、今年4月に超党派で大統領候補を擁立することを断念したと明らかにし、選挙戦から撤退しました。
 No Labelsは、民主党の中道派ジョー・マンチン上院議員や、共和党のラリー・ホーガン氏を軸に候補の選定を進めていましたが、「適切な候補が現れなかった」と撤退の理由を説明しています。

 この後分析しますが、この「無党派の需要に応える候補を擁立する難しさ」が、第3党候補の選挙戦参入を阻む大きな要因となっています。

ケネディ氏出馬の影響

ケネディ氏の支持基盤

 ケネディ氏が選挙戦を継続する上で繰り返し主張するのは、「バイデン氏もトランプ氏も支持せず、第3の選択肢を求める有権者」の存在です。
 まず、バイデン氏とトランプ氏の支持率は、次のようになっています。

バイデン氏の支持率(FiveThirtyEight集計)
トランプ氏の支持率(FiveThirtyEight集計)

 両者ともに支持率は低空飛行ですが、次期大統領として「バイデン氏もトランプ氏も望まない」という回答が3割程度を占めています。

Gallup Poll, March 1-20, 2024, N=1016

 世論調査では、バイデン氏とトランプ氏以外の「第3の候補」を求める声が大きくなっていますが、ケネディ氏は民主党と共和党からどのように支持を吸収しているのでしょうか。

 次に示すのは、ケネディ氏などの第3党候補を含んだ世論調査での支持率です。表の数字は、2者対決であればトランプ氏/バイデン氏を支持した有権者が、第3党候補を含んだリストから、どのような候補を選択したかを示しています。

ケネディ氏とウエスト氏は無所属、ステイン氏は緑の党から出馬とみられる

 ケネディ氏は、トランプ氏の支持者から5.6%、バイデン氏の支持者から4.8%の支持を獲得し、両者の支持層でほぼ同程度の支持を削っていることがわかります。
 この調査からは、ケネディ氏は一定の支持を獲得しながらも、支持基盤への浸透という点で、バイデン氏とトランプ氏に与える脅威に差異はあまり見られません。

 ケネディ氏の支持者が、自らをリベラル~保守まで、どのような政治的立場だと回答したかを示したものが、次の図です。

The Emerson College Polling, April 2-3 2024

 この図からは、ケネディ氏の支持者の半数は中道と回答していますが、リベラル派から保守派まで、支持者が広く分布していることがわかります。
 この傾向は、バイデン氏やトランプ氏の支持者と比較すれば、明確な違いといえます。

The Emerson College Polling, April 2-3 2024
The Emerson College Polling, April 2-3 2024

 バイデン氏はグラフの左側(リベラル~中道)、トランプ氏はグラフの右側(中道~保守)に支持者が分布していることがわかります。
 もちろん、支持者の数ではケネディ氏は当選ラインに遠く及んでいませんが、特徴的な分布については留意しておく必要があります。 

副大統領候補の低い知名度

 ケネディ氏の選挙戦では、3月に重要な動きがありました。ケネディ氏は副大統領候補を発表し、企業経営者のニコール・シャナハン氏を選びました。

 シャナハン氏は、民主党の大口献金者で、Google創業者の元妻としても知られています。その後、民主党を離党し、ケネディ氏の選挙活動に資金を提供しています。
 シャナハン氏は環境保護活動に力を入れるなど、政治的には左派色が強い人物です。副大統領候補にシャナハン氏を選出したことは、民主党支持層の獲得を狙ったものとみるのが自然ですが、世論調査ではどのような効果が表れているのでしょうか。

 次に示すのは、シャナハン氏の印象を調査した結果です。

 シャナハン氏の知名度は全体的に低く、そもそもケネディ氏の支持率に現時点で大きな影響を与えるほど認知されていない、といえます。
 その上、バイデン氏やトランプ氏の支持者よりも、ケネディ氏の支持者の間で知名度が特に低いことは、注目に値する事実です。

 シャナハン氏の指名がケネディ氏の支持率と関連していないことを踏まえると、「ケネディ支持」は投票行動を予測する上で極めて不安定である可能性が示唆されます。

 現在のケネディ支持者は、副大統領候補の指名もよく把握していない可能性が高く、「非バイデン・非トランプ」や「ケネディ家」のラベルに反応しているとみられます。
 現在の支持者が11月の本選でもケネディ氏を支持するかどうかは、全く未確定だと分析しています。

本選に向けて

 ケネディ氏は現時点で一定の支持率を獲得していることから、バイデン氏陣営とトランプ氏陣営の双方が脅威と見て警戒しています。
 バイデン氏は、ケネディ家とともにイベントを開催し「ケネディ家はバイデン支持」のメッセージを明確に打ち出しました。

 トランプ氏陣営は、ケネディ氏が無所属出馬を表明すると「ケネディは民主党出身の左派だ」との見解を表明し、攻撃を続けています。

 ケネディ氏が当選する可能性は限りなく低いため、選挙分析上の関心は「ケネディ氏がトランプ氏とバイデン氏のどちらにダメージを与えるのか」になっています。

 結論から述べると、「現時点では同程度だが、11月の時点では不明」と考えています。
 ケネディ氏の支持基盤については、先ほど見たようにリベラルから保守まで幅広く分布し、バイデン氏とトランプ氏の支持層をほぼ均等に削っていることも確認されています。

 しかし、ケネディ支持は極めて流動的で、11月までに変化する余地が多くあります。
 情勢が変化すれば、リベラル派と保守派のいずれか、または両方が支持層から離脱し、バイデン氏とトランプ氏の一方のみにダメージを与えるようになる可能性があります。

 また、ケネディ氏は無所属での出馬となるため、各州の選挙人名簿に登載するためには署名を集める必要があります。どの州で名簿を集め、本選を戦うことができるのかは、バイデン氏とトランプ氏の選挙戦にも影響を与えることになります。

 ケネディ氏の選挙戦がどのような形態になるのかを含め、今後の情勢は流動的というべきでしょう。

第3党候補は支持を集められるか

高まる第3党の「需要」

 アメリカ国民は、民主党と共和党の二大政党ではない第3党について、どのように捉えているのでしょうか。

Gallup Poll, September 1-23, 2023, N=1016

 世論調査では、2000年代後半から第3党を求める割合が上昇し、直近10年間は約6割が「第3党は必要だ」と回答しています。

 民主党と共和党の二大政党が分極化し、中道/穏健層には政党システムからイデオロギー的に取り残されるような場面もあらわれています。
 また、党派的分断が強まる中で、広範な争点で対立する二大政党制が十分に機能せず、政策の前進にも影響が出ていることに対する不満や反発もあるとみられます。

 二大政党を中心とした対立構造への不満は高まり、新たな政治勢力の登場を望む声は大きくなっています。

第3党が勢力を拡大する難しさ

 第3党への需要が高まる中、なぜ新しい政党が勢力を伸ばすことができないのでしょうか。
 選挙制度や政治のシステムとして、二大政党のどちらかが政権を担当することが前提となっていて、そもそも新規の参入が難しいというのは、最大の理由といえるでしょう。

 しかし、制度ではなく世論レベルでも、第3党や無所属の候補者が支持を集める上での困難が存在しています。

 民主党でも共和党でもない政党という「概念」に対する支持は、世論調査からも読み取ることができます。しかし、この概念を政治的に実現するためには、具体的な政党や政治家に対する支持が必要です。

 民主党、無所属、共和党で、それぞれ穏健派とされる議員の好感度を見ていきます。
 上から順に、民主党保守派のジョー・マンチン上院議員、無所属で穏健派のキルステン・シネマ上院議員(民主党を離党)、共和党のミット・ロムニー上院議員についての調査です。

 各議員は揃って、民主党から共和党まで幅広い層での好感度が低いことがわかります。また、出身政党よりも、その対立政党のほうがやや好感度が高いことも特徴的だといえます。

 二大政党の間で穏健・中道的なポジションを取る政治家は、身内の政党やその支持層からは「裏切り」とみなされて支持率が低迷し、反対政党からは当然支持を受けられないというジレンマに悩まされることになります。

 これが第3党が勢力を拡大させる上での最大の障壁で、「中道」の概念には一定の支持があり得るものの、実行すれば「裏切り」のレッテルを免れないことになります。

 「民主党にも共和党にも関係がなかったアウトサイダー政治家」や「国民的人気を誇るスター政治家」であれば、この障壁をクリアできる可能性がありますが、このような政治家が二大政党以外から出馬する理由は乏しいのが現状です。

 民主党と共和党を軸とする二大政党制が致命的なダメージを受けない限りは、第3党の勢力拡大を望むことは厳しいと言わざるを得ません。

 第3党や無所属の候補者が支持を拡大させることには構造的な難しさがある中で、ケネディ・ジュニア氏はどう選挙戦を展開するかは、バイデン氏とトランプ氏の選挙戦略にも影響を与えることになります。

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