【イスラエル=ハマス戦争とアメリカ世論①】開戦直後から変化する世論
こんにちは、雪だるま@選挙です。この記事では、昨年10月のハマスによる越境攻撃から始まったイスラエルとハマスの武力衝突について、アメリカの世論がどのように受け止めているか、分析します。
これまで、バイデン政権は親イスラエル政策を基本としてきました。民主党内や若年層から反発が目立つ中、実際の世論はどのような立場を取っているのでしょうか。
また、11月には大統領選を控える中、アメリカの中東政策と国内政治の関係についても考えます。
アメリカ世論の動向
衝突直後から現在まで
ハマスがイスラエルに越境攻撃し、多数の人質を連れ去った昨年10月の段階では、国際法違反の攻撃を行ったハマスに対して厳しい見方が広がり、イスラエルに同情的な世論が拡大しました。
戦闘開始直後の昨年10月に行われた調査を見てみます。「イスラエル人とパレスチナ人の、どちらにより共感しますか?」という設問に対し、回答は次のようになりました。
イスラエル人により共感すると答えた人が4割程度、パレスチナ人により共感すると答えた人は10%未満となり、全体的にイスラエルへの共感が強かったことがわかります。
このような状況は、時間の経過とともに変化していきます。
時間の経過とともに、イスラエルへの共感が減少し、それに伴って「どちらにも同じくらい共感する」「パレスチナにより共感する」という回答が増えていることがわかります。
依然としてイスラエルへの共感がトップになっていますが、5月時点では約半数がパレスチナ側にも共感するようになっている点は、戦争開始直後からの大きな変化です。
世論の“分断線” 党派と年代別の結果
世論全体として、イスラエル支持が減少している傾向がみられますが、党派と年代でその構造は大きく異なっています。
党派的にみると、民主党支持層ではイスラエルへの支持が低く、共和党支持層では依然としてイスラエル支持が強いことがわかります。
これはリベラル/保守での傾向と対応していますが、保守派では宗教的要因や伝統的な親イスラエル政策が引き継がれているのに対し、リベラル派では、パレスチナ人にも共感する考え方が広がっているとみられます。
また、年代別でも異なった傾向が表れています。10代や20代の若年層ではイスラエル支持が弱く、年代が上がるほどイスラエル支持が強くなる傾向があります。
若年層⇔高齢層の党派性やイデオロギーが、民主党・リベラル派⇔共和党・保守派にある程度対応している点は理由として挙げることができます。
また、若年層は高齢層と比較して人種的にも多様で、アラブ系や有色人種の割合が高いことも、主要因として考えられます。
イスラエル支持が弱まる理由
変化する世論 穏健層の“イスラエル離れ”
次に示すのは、支持政党別にイスラエル支持がどのように推移したかを示した図です。
民主党支持層と無党派層では、開戦直後と比べてイスラエル支持が減少する一方で、共和党支持層では開戦直後のイスラエル支持を、比較的維持しています。
また、イデオロギー別では「とてもリベラル」「保守」ではイスラエルへの武器供与についての態度に変動が見られなかったのに対し、「ややリベラル」「中道・穏健」と答えた層では「武器を供与し過ぎ」という回答が増加しました。
強いリベラル層は武器供与反対、保守層は武器供与賛成で固まっていて変化はありませんが、穏健層の中でイスラエル支持が減速する動きが続いています。
さらに、年代別でもイスラエル支持が減少したのは、もとからイスラエル支持が低かった若年層ではなく、中間あたりに位置する年代だったことが明らかになっています。
戦争の開始から現在まで、イスラエル支持の世論が弱まってきた背景には、穏健層が「イスラエル離れ」を起こしていることがあるとみられます。
党派別では、無党派層や中道寄りの民主党支持層がイスラエルへの支持を弱める動きを見せていることが示唆されています。
イスラエルへの態度が変化してきた理由は、保守層や強いリベラル層の変化ではなく、穏健・中道層の態度が変化してきたためだ、と考えられます。
政府組織と市民 異なる世論の見方
イスラエルとハマスの衝突では、人質として拉致されたイスラエル市民と、ガザ侵攻で被害を受けたパレスチナ市民の双方に影響が出ています。
アメリカの世論は、イスラエル市民とパレスチナ市民の双方に同情的であり、その傾向は軍事衝突が始まってから約半年後の調査でも変化していません。
しかし、同時に「イスラエル政府」「パレスチナ自治政府」「ハマス」の支持率は市民への好感と比較して、低い水準になっていることもわかります。
イスラエル政府は41%、パレスチナ自治政府は23%の支持に留まり、ハマスについては8%しか支持を得ていません。
この調査結果は、衝突直後から現在までの戦争に対するアメリカ世論の変化を説明する1つの要素となります。
衝突直後は、ハマスがイスラエル市民に仕掛けた戦争として、イスラエル支持が高まったのに対し、イスラエル軍のガザ侵攻が始まると一転して、イスラエル政府がパレスチナ市民に対して行う戦争というイメージが拡大したとみられます。
アメリカ世論と戦争への関心
戦争への関心は極めて低い
ここまで、アメリカ世論の中でイスラエル=ハマス戦争がどのように捉えられているかを分析してきました。
それでは、イスラエル=ハマス戦争はアメリカ国内でどの程度の関心を持たれているのでしょうか。
次に示すのは、この戦争のニュースをどのくらい関心を持ってみているかを尋ねた設問の結果です。
全体では、かなり関心のある人が22%、ある程度関心がある人が35%、乱心がない人が43%となっています。
また、反戦運動の中心となっている若年層では最多の58%が「関心がない」と回答しています。
民主党支持層も共和党支持層も、関心の低さは同じ程度で、イデオロギーが中道に近い方が戦争への関心が低いという傾向も出ています。
アメリカ世論と外交については、これまでも分析してきましたが、外交は重要な争点としてはほぼ挙がっておらず、関心も低い状況です。
これはイスラエル=ハマス戦争後も同様で、世論調査でも外交への関心は低い状況が続いています。
バイデン政権の対イスラエル政策
バイデン政権のイスラエル政策は、どの程度支持されているのでしょうか。世論調査の結果は、次のようになっています。
バイデン氏の政策が支持されない中で、トランプ氏はバイデン氏よりも対イスラエル政策を上手く進めることが出来る、との見方が拡大しています。
バイデン氏の支持率は歴史的な低さで、11月に予定される大統領選でもトランプ氏にリードを許しています。
外交政策でも、バイデン氏よりもトランプ氏を信頼する傾向が示されています。
また、身内の民主党支持層でも支持と不支持が拮抗しつつあります。
イスラエルとの距離感をめぐって、バイデン氏は難しい立場に置かれています。
国内政治への影響
アメリカ国内では、イスラエル=ハマス戦争への関心が高まっていません。それでは、この戦争はアメリカの国内政治にどのような影響があるのでしょうか。
若年層を中心に、反イスラエルの抗議活動が続いています。一部では大学のキャンパスを占拠する動きも起こっています。
全体としての関心が高まらない中、世論は抗議活動をどのように見ているのでしょうか。また、バイデン政権の親イスラエル政策に反発が拡大する中、若年層の「バイデン・民主党支持」には影響があるのでしょうか。
若年層とイスラエル=ハマス戦争の関係性については、次回の記事で分析します。