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【2024年大統領選】バイデン撤退、トランプ暗殺未遂-衝撃の1か月で選挙戦はどう変わるか
こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、今年11月5日のアメリカ大統領選挙について、現在の情勢を分析します。
6月末に行われた大統領選の討論会では、バイデン大統領が言葉に詰まったり、受け答えに時間がかかったりする場面が繰り返し放送され、民主党内からはバイデン氏の撤退を求める声が相次ぎました。
バイデン氏は、7月21日に撤退を発表しました。現職大統領、そして指名を確実にした候補が選挙戦からの撤退を表明することは異例のことです。
一方、共和党のトランプ前大統領は、7月13日にペンシルベニア州で行われた選挙集会中に銃撃されました。トランプ氏は耳に銃弾を受け、負傷しながら退避しました。大統領経験者が選挙集会中に銃撃された事件は、世界に衝撃を与えました。
この1か月、大統領選挙を取り巻く環境は激変しました。現在の情勢はどうなっているのか、そして今後どう変わり得るかを分析します。
トランプ暗殺未遂は選挙をどう変えたか
共和党全国大会での支持率上昇
トランプ氏の暗殺未遂事件以降、支持率はどのように変化したのでしょうか。次に示すのは、トランプ氏とバイデン氏の対決を想定した世論調査の平均値推移です。
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事件が起きた7月13日の直後、トランプ氏の支持率は大きく変動しませんでした。
その後、数日後に支持率が最大1ポイント程度変わったタイミングがあることがわかります。これは、共和党全国大会が行われていた時期です。
党大会では、指名受諾演説が抑制的で「国の団結」を訴える内容だったことや、予備選で指名を争ったニッキー・ヘイリー氏が登壇してトランプ氏支持を表明したことが報じられています。
暗殺未遂事件自体がトランプ氏への同情をもたらしたというよりは、その後の党大会が選挙情勢には影響を与えた可能性があります。
この間、バイデン氏の支持率は大きく変わっておらず、少なくとも下落の傾向は示していません。
このことから、バイデン氏→トランプ氏への投票先変更、といった動きはほぼなく、トランプ氏は事件後に自らの潜在的な支持基盤を結集させたという評価が現時点では適切だと思われます。
ただし、支持率平均は1ポイント程度の小さな変動に留まっています。これはFiveThiryEightの集計でも同様ですが、分極化が進み、両党の支持者が投票先を変える可能性が極めて低くなっているためです。
共和党の「再征服」-予備選を経て復活したトランプ
トランプ氏の選挙戦において、暗殺未遂事件と共和党大会はどのような影響をもつのでしょうか。これを分析するためには、トランプ氏が置かれていた状況を振り返る必要があります。
2022年の中間選挙では、共和党が予想外に苦戦する結果となりました。上院の多数派奪還に失敗し、激戦州ではトランプ氏推薦候補が相次ぎ落選しました。
この時、敗北については中間選挙で激戦州の応援演説に入ったトランプ氏の責任を問う声が共和党内から上がり、また実際に敗北は一定程度トランプ氏への反発が影響しているとみられていました。
中間選挙の直後に出馬表明したトランプ氏は、当初予備選で苦戦を強いられることになります。
フロリダ州のデサンティス知事の人気が高まる中で、去年春の時点ではトランプ氏の支持率はデサンティス氏と拮抗していました。デサンティス氏は正式に出馬表明する前だったこともあり、トランプ氏は「過去の人」として予備選に勝てない可能性も指摘される状況となっていました。
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その後、トランプ氏は自身の訴追と、デサンティス氏の戦略ミスにより勢いを取り戻します。昨年夏の時点では世論調査で独走状態に入り、年明けから始まった予備選でも圧勝し、党の指名を勝ち取りました。
トランプ氏は党内で追い込まれた状況から、支持基盤を再生産することに成功し、党内で台頭した新世代の候補者を予備選挙で破って指名を獲得しました。
今回の党大会は、トランプ氏による共和党の「再征服」ともいえる一連の物語の最終章として位置づけられます。そして、党大会直前に発生した暗殺未遂から生還し、党を団結させて指名を受諾するという状況は、偶然の事件だったものの、結果的にトランプ氏の指名候補としての正統性を高めることになりました。
「ヴァンス副大統領候補」と選挙戦
トランプ氏は、上院議員のJD・ヴァンス氏を副大統領候補に指名しました。ヴァンス氏の指名は、選挙戦にどのような影響を与えるのでしょうか。
まず、ヴァンス氏の知名度と好感度についてです。候補指名後の世論調査では、次のような結果となっています。
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ヴァンス氏の知名度は、トランプ氏やバイデン氏、ハリス氏と比べて高いわけではなく、約2割が「好き嫌いを判断するほどよく知らない」と回答しています。特に、投票意向を固めていない有権者が残っている無党派層では、35%が「分からない」としています。
そのため、ヴァンス氏が指名されたこと自体は、短期的には選挙の情勢や支持率にほとんど影響しないとみてよいでしょう。
ヴァンス氏は、かつて反トランプの姿勢を鮮明にしましたが、共和党内でトランプ氏が主導権を確立すると、一転して強固なトランプ支持者となりました。
トランプ氏の「MAGA=Make America Great Again」運動の後継者候補としても取り沙汰されています。
トランプ氏の選挙戦略として、無党派層を取り込むために黒人や女性の候補を擁立する可能性や、自身の政治的立場とは少し距離のある政治家を選ぶ可能性もありましたが、トランプ氏は自身への忠誠心を重視した形です。
政局的には様々な読みができるヴァンス氏指名ですが、態度を変える可能性がある有権者の間で、ヴァンス氏への評価がはっきり定まっていないことを踏まえると、少なくとも短期的にはヴァンス氏が指名された影響は、ほぼないと言えるでしょう。
バイデン撤退 民主党“勝利への道”は
異例の討論会で年齢不安“打ち消し” 裏目に出た戦略
バイデン大統領には、早くから年齢への懸念が取り沙汰されていました。次に示すのは、今年2月に行われた世論調査の結果です。
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バイデン氏の年齢が職務に厳しい影響を与えると答えた人は、全体の54%にのぼりました。これに対し、トランプ氏について同様に回答した人は、全体の24%に留まっていました。
大統領選挙の討論会は、通常は9月~10月にかけて実施されますが、バイデン氏陣営は早期の討論会を引き受けることで、年齢への不安を解消しようと試みました。
ところが、その戦略は完全に裏目に出ました。バイデン氏のパフォーマンスには「大惨事」「過去最悪」といった見出しが並び、身内の民主党議員やニューヨーク・タイムズ紙などのメディア、主要な献金者からも撤退を求める声が相次ぎました。
経緯については詳述しませんが、バイデン氏は圧力を受けて7月21日に撤退を発表しました。年齢不安を打ち消すための討論会は、結果として完全に裏目に出ることとなりました。
再選を目指した大統領が選挙戦から撤退するのは、1968年のジョンソン大統領以来、58年ぶりのことです。
後継はハリス氏 トランプ氏に勝てるか
バイデン氏から事実上の後継指名を受け、ハリス副大統領は民主党の新しい大統領候補に指名される見通しです。
ハリス氏は、黒人女性初の副大統領として2020年に就任しました。今回、勝利すれば史上初の女性大統領となりますが、ハリス氏はトランプ氏に勝利できるのでしょうか。まずは、ハリス氏の支持率から見ていきます。
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一方で、バイデン氏の支持率とトランプ氏の好感度は、次のようになっています。
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ハリス氏の好感度は、特に低いバイデン氏とトランプ氏と比較しても同程度の水準に留まっています。
比較のため、2020年の大統領選で行われた調査を示すと、バイデン氏好感度は次のようになっていました。
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バイデン氏は、大統領候補だった4年前は「純好感度」(NET=好感度-非好感度)の値がプラスでした。トランプ氏と戦う民主党候補者として、ハリス氏は4年前のバイデン氏よりも弱い可能性が示唆されます。
ただし、この数日で発表された世論調査の中には、ハリス氏の好感度が上昇しているものもあり、この状況は変わる可能性があります。
現状、後継指名から1週間程度であり、世論調査の数も十分出揃ってはいない状況です。情報量が不足している状況ですが、いくつかの傾向が見えています。
1つ目は、ハリス氏がバイデン氏よりも黒人層・若年層で支持を得ているという傾向です。
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7月22日~23日に実施され、4月または6月の調査に参加した1631人が対象
バイデン氏は、直近ではイスラエル=ハマス戦争への対応や、政権全体では奨学金ローン免除の失敗など政策の遅滞を背景に、民主党の票田となってきた黒人層や若年層への求心力を弱めていました。
ハリス氏は、バイデン氏と比較するとこれらの有権者で強い傾向が示されています。選挙までの100日の中で、実際の支持率がどこに落ち着くかは不明ですが、現状ではバイデン氏よりも良い数字を出しています。
2つ目としては、民主党支持者の投票熱意が高まっていると考えられています。ABC NewsとIpsosがバイデン氏の撤退後に実施した調査によると、確実に投票すると答えた民主党員は76%で、バイデン氏撤退前の70%から上昇しています。
また、(当然ではあるものの)年齢への懸念がない点も重要です。バイデン氏の最大の問題点は年齢への不安で、それは民主党支持者ですら否定できないものとなっていました。
ハリス氏はバイデン氏が抱えてきた最大の弱点を克服することに成功し、支持を躊躇わせてきた1つの要因を乗り越えたといえます。
これらの変動が「ハネムーン」「ご祝儀相場」と呼ばれる一過性のものに過ぎないのか、11月まで持続するのかは、今後の調査を待つ必要があります。
少なくとも現時点では、勝ち筋が見えなくなってきていたバイデン氏に対し、ハリス氏に候補を差し替えたことは民主党にとってプラスに働いているとみられます。
「トランプへの対抗動員」 民主党の戦略
撤退前のバイデン氏への支持は、内訳をみると「バイデン支持」ではなく「トランプ阻止」の側面が強かったことが、世論調査から明らかになっています。
次に示すのは、バイデン氏、トランプ氏双方の支持者に、どうして支持するのかを尋ねた設問の結果です。
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トランプ氏は党の指名候補として積極的な支持を受けるのに対し、バイデン氏は「トランプ氏を当選させないため」「民主党候補だから」という回答が大多数を占める状況となっていました。
つまり、今回の選挙は民主党にとって、トランプ氏への対抗動員と反対投票ということになります。実際、トランプ氏への対抗動員は2018年の中間選挙から3回連続である程度成功しています。
民主党候補である以上、トランプ氏への対抗動員を利用できるため、ハリス氏の支持率はバイデン氏と比較して大きく落ちることはない、と考えてよいでしょう。
このことから、ハリス氏とトランプ氏は接戦になる可能性が非常に高いといえます。
今後の選挙戦の見通し
好感度ベースで見ても、トランプ氏、バイデン氏への評価は固定化しており、ハリス氏への評価も同様に定着していくでしょう。
分極化が進み、両党の支持者が投票先を変えることはない中で、わずかに残った態度未定者がどう動くかが選挙戦の結果を左右することになります。
世論調査が出揃えば、ハリス氏の支持基盤が性別、学歴、居住地域、人種、世代など様々な角度から構造的に明らかになると思われます。
現時点では、両者が接戦のまま11月を迎える可能性が高い、ということが示されている状況です。