2022年アメリカ中間選挙の争点 経済や中絶問題、治安対策が中心に
こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、約10日後に迫った中間選挙の争点について分析します。インフレをはじめとする経済や、6月末の米最高裁判決から注目度が上がった中絶問題、共和党が力を入れる治安対策が中心的な争点となっています。
また、10月に入って共和党が反転攻勢に出ていると先週の記事で述べましたが、最新の情勢についても分析していきます。
中間選挙 有権者の関心は
全米規模の世論調査では、投票の際に最も重視する問題として、次のようなテーマが挙げられています。
「インフレ/物価」と「雇用と経済」を合わせると32%に達し、経済状況を巡る懸念が広がっていることがわかります。経済政策は、バイデン政権下で記録的なインフレが続いていることなどを背景に関心が高まっています。
気候変動は優先度の高い課題として上位に挙がっていますが、これは民主党が優勢な西海岸や北東部、あるいは都市部に限定された課題であり、勝敗を分ける激戦州では必ずしも注目されていません。そのため、中間選挙の行方を左右する争点ではないと考えてよいでしょう。
健康保険はオバマケアなどを指していると考えられます。社会保障は、将来への不安から重視すると答える人も多いテーマですが、共和党のトランプ政権下で廃止への危機感が高まっていた2018年の中間選挙とは異なり、激戦州では勝敗を分けるほどの課題にはなっていません。
中間選挙の争点
経済(インフレ対策)
ここからは、中間選挙の争点について分析します。まずは経済です。
先ほども述べたように、経済はバイデン政権下で続く記録的なインフレを背景に関心が高まっています。新型コロナからの需要回復や、ウクライナ侵攻に伴うサプライチェーンの混乱や燃料価格高騰などが原因ですが、バイデン政権の経済対策には批判が集まっています。
共和党政権のほうが経済運営には強いというのがアメリカ世論の一般的な認識で、経済問題が前面に出るほど共和党に有利な情勢となります。
さらには、インフレ抑制のために金利を異例のペースで引き上げている副作用で住宅価格も高騰しています。バイデン政権のもとで景気が悪循環に陥っているという見方も強く、民主党には不利な要素です。
バイデン政権は、8月に成立したインフレ抑制法を成果として強調していますが、民主党支持層からの評価は高いものの、無党派層や共和党支持層からの評価は低い状況です。
中絶問題
6月末に米最高裁が全米での中絶権を保障してきた「ロー対ウェイド判決」を覆したことで、中絶問題は一気に争点化しました。最高裁の決定以降、共和党が優位な州では中絶を厳格に規制する州法が制定されるなど、中絶権を制限する動きが続いています。
民主党は中絶権を擁護する姿勢を示し、特に女性を中心に民主党の支持率が急上昇しました。経済の悪化から低支持率に苦しんでいたバイデン大統領や民主党は、中絶問題の争点化を機に息を吹き返したといえます。
中絶問題では、無党派層や共和党支持層の一部でも厳格な中絶権の制限に反対する意見が多く、共和党としては争点化を避けたいというのが本音です。
民主党は、中絶問題を突破口として中間選挙の情勢を改善させてきたことから、中絶問題の争点化を図っていきたいと考えています。
移民・治安対策
移民問題や治安対策は、共和党にとって有利な争点です。移民問題を重視する有権者は共和党支持層に多く、支持層を引き締める効果があります。
共和党のデサンティス知事(フロリダ州)、アボット知事(テキサス州)は、国境を越えてアメリカに入国した不法移民を民主党が優勢なカリフォルニア州やニューヨーク州にバスで運ぶ政策を推進し、不法移民に厳しく対処する方針を示しています。
治安対策は、白人警官による取り締まり中に黒人が死亡する事件が相次いでいることを受けて民主党知事の州では警察の活動が抑制されており、治安が悪化していると指摘されていることが背景です。
また、民主党知事のもとで薬物中毒者への対策が緩くなっているという批判も共和党側からは上がっています。
特に、これまで民主党が支持基盤としていた低所得の労働者は、居住地域の治安が悪化した影響を強く受けるとされ、この層の取り込みを図るために共和党は犯罪率の増加などを厳しく批判しています。
外交政策
中間選挙では、外交政策は争点になっていません。先ほどの世論調査でも、外交政策を最も重視すると答えた人は1%に留まっています。
そのため、外交政策が選挙結果に影響を及ぼすとは考えにくいですが、ウクライナ支援に関しての立場などについてまとめます。
共和党のトランプ派では、一部の議員や候補者からウクライナ支援への懐疑的な発言が出ています。経済状況が悪化している中で内政に目を向けるべきという主張に加え、共和党が財政支出を抑える「小さな政府」を志向していることも背景にあるといえます。
民主党でも急進左派の議員から「停戦に向けたロシアとの対話」を求める書簡が提出され、批判が上がったと報じられています。
バイデン政権は現状のウクライナ支援を継続する方針を示し、共和党も主流派からは支援に賛成する声が上がっているため、当面は支援の方向性に変更はないと考えられますが、一部で支援に慎重論があることは念頭に置く必要があるでしょう。
中間選挙 最新の情勢
民主党・共和党それぞれの支持率は、10月27日時点で次のようになっています。
共和党は、9月末からの1か月で支持率を大きく伸ばしました。特にこの1週間では、共和党の支持率が民主党を逆転しています。
共和党は9月下旬に中間選挙に向けた公約を発表し、経済や治安対策に集中する方針を示しました。支持率を見ると、攻勢の契機はこの公約発表だったと考えられます。
さらに、消費者物価指数などに改善が見られず、バイデン政権の経済政策に反発が強まったことも要因だとみられます。
しかし、この数日で共和党の攻勢はやや勢いを失っているようにも見えます。まだ断定はできませんが、中絶問題を背景に民主党が支持層を固めていることで、共和党の伸びしろに限界が来た可能性があります。
また、中絶禁止法が施行されていない民主党優位の激戦州では、中絶問題への関心が低く共和党が支持を伸ばす傾向があるのに対し、中絶禁止法が施行された共和党優位の激戦州では、中絶問題への関心が高く共和党が支持を伸ばせなくなっているという可能性も考えられます。
残り10日で情勢がどう動くかは不透明ですが、中絶問題が民主党支持層を固める方向に作用しているのは間違いなく、共和党の攻勢には限界があると考えています。