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【2022年中間選挙】中絶問題は“ゲームチェンジャー”ではない

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、アメリカ中間選挙の争点として浮上している中絶問題について、詳しく考えます。
 中絶問題は与党・民主党にとって追い風になる一方で、争点としての限界も見られるため、「ゲームチェンジャー」とはならないということについて分析していきます。

中絶問題 覆った「ロー対ウェイド判決」

 アメリカ連邦最高裁は、6月24日に全米レベルでの中絶権を認める「ロー対ウェイド判決」を覆すと決定しました。これにより、全米規模で半世紀近く認められてきた中絶権を保障するかどうかは、各州の判断に任されることになりました。
 共和党が強い州(いわゆる「赤い州」)では、ロー対ウェイド判決が覆れば自動的に中絶禁止法を施行するよう定めている州があり、既に赤い州では中絶が禁止された地域があります。

 中絶権の保護に熱心なのはリベラル派の民主党ですが、一方でキリスト教保守派の影響を受け、また連邦政府に対する州レベルの独立を重要視する共和党は、連邦レベルでの中絶権保障に反対してきました。
 この判断も、共和党は歓迎したものの、民主党からはバイデン大統領をはじめ直後に非難の声が上がりました。

中間選挙への影響

逆風の民主党が反転攻勢に

 2022年の上半期、バイデン政権と民主党の支持率は記録的なインフレが逆風となり下落傾向になっていました。6月末の時点では、共和党の支持率が民主党を2ポイント以上上回る状況が続いていました。
 しかし、判決後から徐々に民主党は共和党との差を詰めていて、8月上旬には支持率で共和党を逆転し、現在も上回る状況が続いています。

民主党と共和党の支持率(FiveThirtyEightの平均)

 この動きは、中絶問題が争点として浮上したことで、中絶権保護を主張する民主党への支持が強まったことが理由と考えられます。
 中絶問題は、特に女性の投票行動に大きな影響を及ぼす可能性があります。世論調査では、民主党支持層の男性よりも、無党派層の女性のほうが中絶問題を争点として重視していて、中絶問題は(特に女性の)無党派層の集票に関して民主党の大きなアドバンテージとなると思われます。

カンザス州の住民投票から考える「中絶問題の今後」

 ここでは、中間選挙の情勢分析からいったん離れて、中絶問題が今後どうなるかを考えます。

 カンザス州では8月2日に住民投票が行われ、中絶権を保障する州憲法の文言を削除するかどうかを巡る住民投票が行われました。結果、60%が反対し中絶権は維持されることになりました。
 この住民投票が注目されたのは、カンザス州が共和党優位の「赤い州」だったことです。この結果は、世界的に大きく報道され中絶権を保護する立場の勝利であると伝えられました。

 しかし、この結果から中絶権の制限が難しくなるという結論を得ることはできません。
 まず、カンザス州の住民投票の内容は「州憲法から中絶権を削除するか」でした。仮にこれが賛成多数となった場合、共和党多数の州議会が中絶禁止法を定められるようになり、中絶が厳格に禁止される可能性がありました。
 しかし、世論調査では共和党員の一部も中絶権の厳格な禁止には消極的です。
 
共和党員の約3割は、条件付きながらも中絶権を合法化することに賛成と回答していて、原則違法であるべきとした約半数も例外(母体が危険である場合など)を認めるとしていることから、州議会にフリーハンドで中絶禁止の立法権を渡すことを躊躇した可能性があります。

共和党員への世論調査(中絶権について)
 常に合法であるべき      9%
 合法であるべき(例外あり)  22%
 違法であるべき(例外あり)  52%
 常に違法であるべき      18%

The Economist/YouGov Poll September 3-6, 2022
※ 四捨五入により合計が101%となっている

 しかし、共和党員の多数は中絶権の条件付き制限には賛成であり、共和党優位の州では、厳格なものにはならなかったとしても現在より中絶権が制限される方向性に動く可能性が高いでしょう。

中絶問題はゲームチェンジャーではない

 中絶問題が注目され争点として浮上したことで、低下していた民主党の支持率が回復してきました。今後も民主党にとっては追い風要因にはなりますが、選挙の情勢を劇的に変える「ゲームチェンジャー」ではないというのが筆者の見立てです。

“性差”は武器だが弱点でもある

 世論調査で中絶問題を重視するか尋ねた問いでは、その性差が現れています。支持する政党と性別によって、中絶問題を重視する割合は次のようになっています。

  民主党    男性:11% 女性:27%
  無党派層   男性:8%   女性:18%
  共和党    男性:1%   女性:5%

Morning Consult / Politico National Tracking Poll August 26-28

 無党派層の女性で中絶問題を重視する人は多く、この点では無党派層を取り込む上で十分な役割を果たすと考えられます。一方で、男性では中絶問題を重視すると答えた人が多くなく、エネルギー問題や治安対策をより重視する傾向にあります。男性に対しては中絶問題のもつ訴求力に限界があり、他の争点設定が必要です。

 中絶問題は確実に中間選挙の情勢を民主党寄りに変えていますが、その受け止めには“性差”が大きく、それだけでは情勢を劇的に変えるには至らないというのが現時点での分析です。

激戦州では決め手になり得る

 ここまでは全体の情勢分析を通じて、中絶問題が選挙の結果を決定的に変えるわけではないと見通してきました。しかし、州別でみると中絶問題が選挙結果を決定的に変える可能性があります。

 激戦州の1つであるジョージア州では、中絶を厳しく禁止する州法が施行されました。ジョージア州は、以前は共和党が強い地域でしたが、直近5年で急激に民主党が勢力を伸ばし、激戦州となりました。
 知事も強硬な保守系で中絶禁止を主張していますが、中絶権擁護の主張に共感するリベラル層が増加傾向であることから、選挙では中絶問題が決め手となり民主党が勝利する可能性があります。

 ジョージア州は上院議員選挙が特に重要であり、民主党はジョージア州の現職議席を守れれば過半数獲得に大きく近づきます(上院の情勢については近日中に詳細なレポートを公開します)。

今後の情勢は

 中間選挙の全体情勢については、先週の記事で詳しく分析しました。

 この記事でも述べたように、共和党は9月中旬から支持率を伸ばす傾向にあります。
 民主党側は、中絶のほかにもインフレ抑制や奨学金など様々な分野で争点設定を試みていて、共和党の反転攻勢にどこまで耐えられるかが注目されます。

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