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【2024年大統領選】トランプに敗れたハリス 何が勝敗を分けたのか?

 こんにちは。雪だるま@選挙です。11月5日に行われたアメリカ大統領選では、共和党のトランプ前大統領が勝利しました。

 開票は今も続いていますが、分極化が進む中で最終的な結果はトランプ氏とハリス氏の接戦に落ち着く見通しです。一方で、トランプ氏が激戦州をすべて制し、民主党が圧勝してきた青い州でも躍進したことは、トランプ氏の勢いを印象付けました。

 今回の記事では、選挙結果を振り返りながら、地域別の結果や出口調査の結果から、一度は敗れたトランプ氏が復活した理由とハリス副大統領が支持を失った理由を分析します。


大統領選の結果

獲得選挙人数と得票数

 今回の大統領選の結果、トランプ氏が312人、ハリス氏が226人の選挙人を獲得しました。全米での得票数(Popular vote=一般投票)では、トランプ氏がハリス氏を2ポイント程度上回っています。

ニューヨーク・タイムズ紙の集計

 270人目の天王山となるペンシルベニア州では、トランプ氏が約51%、ハリス氏が約48%で、トランプ氏のリードは3pt程度となっています。
 ラストベルトでは、ミシガン州が1.4pt、ウィスコンシン州が0.9pt程度の差となっていて、特に接戦だったことがわかります。

 このように、選挙結果自体は接戦でしたが、全米の得票数で共和党候補が上回るのは2004年以来で、20年ぶりのことです。また、トランプ氏は激戦州を7州全て制しました。
 これまでの選挙と比べても、トランプ氏に勢いがある選挙戦だったことがわかりますが、それはなぜでしょうか?

2020年からの変化

 次に示すのは、2020年の選挙結果と比べて、今回の選挙でどのような票の動きが見られたかを示した地図です。ニューヨーク・タイムズ紙がまとめたもので、赤い矢印は共和党方向、青い矢印は民主党方向への傾斜を表しています。

 全国的に共和党側への傾斜が見られますが、ニューヨークやシカゴなどのこれまで民主党が圧倒的な強さを保ってきた都市部で、大きく共和党が勢力を伸ばしています。また、南部では農村部を中心に、共和党がさらに勢いを増している動きが見られます。

 激戦州では、ラストベルトでは州全体が共和党に傾斜していることがわかりますが、その動き方は比較的小さい幅に留まっています。 
 ジョージア州やノースカロライナ州では、都市部が民主党に流れる一方、農村部がその動きを打ち消すように共和党に傾斜しています。

 全国的な動きとして、民主党がこれまで支持を得ていたはずの都市部で、トランプ氏が支持を伸ばしてきたことは注目すべき動きです。今回、20年ぶりに得票数で共和党が勝利した主な要因の1つとしては、この動きがあると考えられます。

出口調査の結果

ヒスパニック系有権者が共和党に流出

 今回の選挙で最も大きなインパクトを与えたのは、ヒスパニック系有権者が共和党に流出した点です。

 ヒスパニック系有権者の投票動向が変わったことは、出口調査の結果からも裏付けられています。次に示すのは、4年前と今年の結果の比較です。

CNN "Anatomy of three Trump elections: How Americans shifted in 2024 vs. 2020 and 2016 Exit polls reveal a divided country," November 7, 2024. ヒスパニック系有権者は、ラテン系として集計された右上の2ブロック

 ヒスパニック系有権者の男性は35pt、女性は17ptもトランプ氏に傾斜していることがわかります。
 この動きの背景には、ヒスパニック系有権者が重視する争点が「経済」や「生活コスト」に動いたことがあります。

 ヒスパニック系有権者は、比較的所得が低く、教育水準も低いことが知られています。バイデン政権下でのインフレの影響を強く受け、目下の経済状況を安定させることを志向したとみられています。

 また、不法移民問題も、コロナ禍の対策が終了し南部国境が再開されると再び争点化しました。
 特にアリゾナ州やテキサス州、ニューメキシコ州では、国境地帯のヒスパニック系有権者が多く居住する地域で、民主党→共和党に動く傾向が鮮明となっています。

黒人有権者の動向

 黒人有権者は、強く民主党を支持してきました。公民権運動以降、黒人の権利を擁護する民主党と、「白人の党」共和党という構図が定着したためです。
 今回の選挙では、ヒスパニック系有権者と同様に、黒人有権者がインフレの影響を受けやすいことや、非大卒の割合が高いことから、黒人有権者が民主党のハリス氏から離れる可能性が指摘されていました。

黒人有権者は左上の2つ

 今回の選挙では、少なくとも全米レベルでは黒人有権者がトランプ氏に流出する傾向は限定的なものに留まりました。理由は、特に女性の有権者がハリス氏に回帰する動きを強めたためです。

 一方で、最終的な投票率が前回よりも下がる可能性があり、棄権に回った民主党支持者も含めると、黒人有権者の民主党離れは出口調査の結果よりも進んでいる可能性があります。

性別×学歴×人種 伸び悩んだハリス

 次に示すのは、「性別」「学歴」「人種」の3つの属性で分類された有権者の投票動向です。

 ハリス氏は、白人大卒女性で支持を伸ばしていますが、それ以外のグループでは支持を伸ばせていません。つまり、ハリス氏が有利と思われた大卒有権者や女性有権者の中でも、「白人大卒男性」「白人非大卒女性」というグループでは、支持が伸び悩んだことになります。

 ハリス陣営は、ヒスパニック系を中心に非白人有権者の流出することが予想される中、白人での支持積み増しを狙っていました。教育水準が高く、女性候補にシンパシーを感じる「白人大卒女性」からの支持を強固にすることは、選挙戦の重要なテーマでした。
 その一方、選挙戦では白人大卒女性だけでなく、近接した位置にいる「白人大卒男性」「白人非大卒女性」の取り込みも当然必要でしたが、今回の選挙ではハリス支持に回らず、結果的にハリス氏の票が伸び悩む要因となりました。

 また、非白人有権者は、大卒でもトランプ氏に流出したことがわかります。ハリス氏は、白人大卒女性からの支持を得た一方、近接するグループの有権者からの支持が伸び悩み、結果的に得票を伸ばすことができなかったことが示唆されています。

都市部での民主党不振

 都市部では民主党支持層が多く、農村部では共和党支持層が多いことが知られています。
 しかし今回の選挙では、民主党がこれまで圧倒してきた都市部で苦戦を強いられた様子が明らかになっています。

 都市部での票の動きについては、インフレや不法移民、治安の問題が影響したという見方が出ています。

 ニューヨークやシカゴでは、中間選挙や地方選挙で民主党が苦戦する傾向が表れていました。インフレで生活コストが上昇したことで、一部の都市では居住自体が困難になっています。
 また、不法移民も問題化しています。テキサス州やフロリダ州の共和党知事は、州内の不法移民をカリフォルニア州やニューヨーク州など民主党支持が強い地域にバスで移送するキャンペーンを行いました。この結果、民主党支持の青い州でも、不法移民への対策に追われることになりました。

 治安悪化については、コロナ禍が終わって時間が経過し、ある程度は落ち着いてきています。治安が最も悪化していた2022年の中間選挙と比較すると、ニューヨーク州のロングアイランドなどでは、民主党が支持を回復させているとの分析もありますが、都市型の社会問題がハリス氏や民主党の支持基盤を直撃したことが、都市部での不振の大きな要因とみられます。

民主党支持者の動員失敗

 出口調査では、投票した民主党支持者の割合が少なかった可能性も示されています。
 次に示すのは、NBCニュースがまとめた過去の出口調査との比較です。

NBCニュースの集計

 投票した有権者の中で、2024年は民主党支持者の割合が減少していることがわかります。
 また、民主党支持者の投票率が低かった可能性も、FiveThirtyEightの初期評価で指摘されています。

 出口調査の結果から、民主党を支持してきた非白人有権者などでトランプ氏が支持を伸ばしただけはでなく、ハリス氏が取り込めるはずだった潜在的な支持者の一部が動員できていない可能性が示されていましたが、民主党支持者の動員が失敗していた可能性はここでも明らかになっています。

勝敗を分けた要因

バイデン=ハリス政権への不信任:トランプ氏の評価上昇

 これまで民主党は、2018年、20年、22年の選挙で、不支持率の高いトランプ氏への反感を背景に、支持者を動員してきました。この反トランプ動員は今年も行われましたが、満足な結果をもたらしませんでした。

 その理由は、バイデン=ハリス政権の支持率が低かったからだと考えられます。

 反トランプ動員は、トランプ氏が政権を握ることへの不安を刺激し、結果的に民主党に投票させる対抗動員です。
 しかし、今回の選挙では「トランプ政権」か「バイデン=ハリス政権の継続」かの選択となりました。選挙の構図がこの選択になったことで、バイデン政権の不人気が作用し、反トランプ動員の効力が弱められることになったと考えています。

 今回の選挙では、政策の実行能力では終始トランプ氏のイメージがハリス氏を上回る展開が続いていました。

 このほか、トランプ政権の4年間のほうがよかったかという質問に肯定的な反応を示す有権者が増加傾向になるなど、この4年間でトランプ氏の「再評価」が進んだとみられます。

 ハリス氏は、不人気なバイデン大統領から選挙戦を通じて距離を置こうとしてきましたが、4年間も政権の副大統領を務めており、バイデン政権の継続イメージを払拭できなかったことが、敗北の要因になったとみられます。

ハリス氏の低い訴求力

 ハリス氏は、出口調査の結果や地域別の結果から推測されるように、潜在的な民主党支持層の動員に失敗した可能性が高いとみられています。

 自身のアイデンティティと重なる「黒人女性」や、トランプ氏への反感が強い「大卒白人女性」では支持を伸ばしましたが、その周辺にいる有権者グループでの支持拡大には失敗しています。
 女性票も、非大卒白人の取り込みに失敗した点では、満足な結果を出せていません。

 バイデン政権の負のイメージを引き継いだことも敗北の要因ですが、ハリス氏自身も、出口調査では約半数の有権者から「極端な候補者」と有権者にみなされていました。

出口調査の結果(NBCニュース)

 2020年のバイデン氏が中道派として選挙を戦ったのに対し、ハリス氏はリベラルな候補者としての警戒感を持たれていたとみられます。

 好感度は7月以降の選挙活動で上昇しましたが、実際の候補者として必要なイメージは伴っていなかったということになります。

“穏健化”に成功したトランプ氏

 これに対し、トランプ氏は穏健化を進めてきました。トランプ氏への拒否感は民主党支持者を中心に根強く、極端な性格の人物であるという見方は維持されている今も可能性が高いです。

 その一方で、トランプ氏は政策の穏健化を進めました。社会保障は全面的に維持し、中絶権を全米で禁止する法案には反対する姿勢を示しています。
 実際に「トランプ政権になれば、中絶が禁止される」という民主党の主張には、世論調査でも賛否が割れる状況となっていて、トランプ氏自身の穏健化によってその主張は効力を弱められていました。

 バイデン=ハリス政権の不人気を横目に、さらに反トランプ動員を弱めるため、自らの政権の保守色をできるだけ政策的には抜くような動きを見せたトランプ氏の戦略が成功したといえるでしょう。

中間選挙、2028年大統領選へ

 開票も完了していない段階で、将来の選挙について何らかの見通しを立てることは困難です。現時点では、あり得る可能性についての分析となります。

 中間選挙では、トランプ氏は現職として審判を受けることになります。民主党は世代交代を果たし、バイデン政権の負のイメージとは決別した党となる可能性があります。

 トランプ氏の経済運営がヒスパニック系を含め、一部の有権者を共和党支持で定着させる可能性がある反面、経済的な不満が解決すれば民主党に回帰する可能性もあり、状況は不透明です。
 ただし、トランプ氏が経済運営に失敗すれば、基本的にはその不満は政権と共和党に向かう可能性が高いでしょう。

 2028年の大統領選は、民主党も共和党も新しい候補を指名することになります。民主党側からはすでに何人かの名前が出ていますが、過去3回トランプ氏を指名した共和党も、世代交代を進めることになります。
 人口動態を含め、これまで当然視されてきた有権者の構造に変化の兆しが見られる中、両党は新たな選挙戦略を模索していきます。

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