2022年中間選挙の検証① 次期大統領選へ バイデンとトランプの“現在地”
こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、中間選挙の結果から見えた、バイデン大統領とトランプ前大統領に対する米国民の評価について分析していきます。
中間選挙は、民主党の善戦と共和党の苦戦という予想外の結果になりましたが、この記事から複数回にわたって結果とその影響を検証していきます。
中間選挙の結果
中間選挙は、共和党が大勝すると予測されていましたが、蓋を開ければ民主党が善戦しました。特に、中間選挙は与党に厳しい結果となるだけに、今回の選挙は事実上「民主党の勝利」です。
上院では、民主党50議席、共和党49議席、決選投票が1議席となり、上院議長を兼ねるハリス副大統領を合わせて民主党が多数派を維持しました。
下院では、記事公開(17日)時点で全議席が確定していませんが、民主党が210議席、共和党が218議席を獲得し、共和党が過半数を奪還しました。
消えた“赤い波” その背景は
共和党は9月末から支持を伸ばし、直前の世論調査でも共和党が下院の過半数を奪還し、上院の多数派も伺う勢いでした。共和党の大勝、つまり「赤い波」(red wave)が起こるという見方が大勢でしたが、結果は大接戦となりました。
選挙当日も含めた最終盤で、情勢が民主党側に動いた理由については分析が続いていて、はっきりとした要因はまだ特定されていません。
筆者も、共和党の勢いが失われた原因については分析中で、詳しくは次回以降の記事の内容にしますが、現時点で考えられている理由について記述します。
トランプ氏への警戒感
最終盤で共和党の勢いを失速させる動きとして、トランプ前大統領の出馬表明に向けた動きがあったと考えられます。トランプ氏は、中間選挙での勝利を契機に大統領選出馬を表明すると報道され、本人も演説でその方針を強く示唆していました。
無党派層の中には、トランプ氏への警戒感が根強く、バイデン大統領の経済政策は支持しないものの、トランプ氏の復権には強く反対する有権者がいます。その割合について、筆者は概ね有権者全体の1割程度だと見積もっています。
出馬表明の示唆が、この有権者に対して直前に「共和党候補への投票=トランプ氏への投票」とラベリングする効果があったとすれば、最終盤に共和党が失速した説明となり得ます。
中絶問題で固まった民主党支持層
米最高裁が6月下旬に、全米での中絶権を保障していた「ロー対ウェイド判決」を覆したことで、民主党支持層の投票意欲は大きく向上しました。
今年は記録的なインフレが続いていて、バイデン政権への支持率が民主党員の中でも低い状況となっていました。しかし、最高裁の決定以降に中絶権の保護を掲げる民主党の支持率は上昇し、バイデン大統領の評価も回復しました。
経済状況の悪化は一般的に政権与党にとって不利ですが、中絶問題に関心が集まったことで民主党の支持層が固まり、逆風の選挙でも支持層が結束を保てたと考えられます。
中絶問題で民主党の支持層が結束し、最終盤に無党派層の一部が投票先を民主党に変更したことで、民主党が善戦したと現時点では分析しています。
2024年大統領選への展望
トランプの敗北
今回の選挙結果は、トランプ氏にとって明確な敗北でした。激戦州で推薦したトランプ派候補の勝率は低く、無党派層からの支持が減少している可能性が示されています。
一方で、全体としては苦戦が目立った共和党候補でも、一部には選挙で圧勝した候補がいました。特に、フロリダ州のデサンティス知事、ジョージア州のケンプ知事は、事前の予想を上回る大差での圧勝で、これらの州が激戦州であることを考えると、無党派層からの支持を多く得たと考えられます。
デサンティス知事やケンプ知事は、トランプ氏の不正選挙論に同調しない非トランプ派の代表格です。不振に終わった共和党でもトランプ氏と距離のある政治家が圧勝したことは、トランプ氏でなければ無党派層の支持を取り込めるという期待とともに、注目を集めています。
共和党の中では、トランプ氏の責任を問う声が出ています。トランプ氏は、短期的には出馬表明を示唆したことで共和党を失速させた可能性があります。さらに、長期的には政治経験がなく資質にも問題がある候補を予備選段階で推薦し勝利させたことで、共和党の体力を削いだとみられています。
トランプ氏の政治姿勢にも、共和党の中から不満が上がっています。トランプ氏は、在任中から政敵を激しく攻撃してきましたが、その対象は大きく変わっています。
当初は、民主党のクリントン元国務長官やオバマ元大統領など共和党にとって共通の敵でしたが、最近ではペンス前副大統領やデサンティス知事など、共和党内の保守派であってもトランプ氏の気に食わない相手であれば、誰でも攻撃の対象となっています。
このような態度は、共和党の結束や利益を損なっているという指摘が上がっていて、トランプ氏への逆風となっています。
選挙結果は“バイデンの信任”でない
政権与党に厳しい結果となる中間選挙で善戦した民主党ですが、この結果からバイデン大統領が信任されたということはできないと考えています。
バイデン大統領の支持率は、次のように低い水準に留まっています。
この水準は、オバマ元大統領(1期目が約45%、2期目が約42%)よりも低く、トランプ前大統領(約40%~43%)と同じ水準です。バイデン大統領の支持率は、中間選挙で敗北した大統領と同様に低く、決して「信任を受けた」いう状況ではありません。
それでは、民主党の善戦は何によってもたらされたのでしょうか。筆者は「バイデン大統領の2期目はない」というアメリカ国民の意識にあると考えています。
まず、中間選挙における民主党・共和党の得票率を見ていきます。2022年についてはまだ開票は全て終わっていませんが、2010年からの推移は次のようになっています。
2022年以外の結果を見ると、大統領が1期目だった2010年、2018年は与党の得票率が45%を下回っています。これに対し、大統領が2期目だった2014年は、与党の得票率が45%を上回っています。
これは、大統領の任期が終盤に入ると、与党でも次の大統領候補選びに関心が移るため「現職大統領=与党」のラベリングが弱くなり、大統領の支持率が低くても、結果に与える影響が小さくなるからだと考えられます。
2022年の結果は、民主党の得票率が47.1%に達していて、2014年の結果に近いといえます。このことから、中間選挙で民主党がバイデン大統領の低支持率に反して善戦したことのは、有権者が「バイデン大統領と民主党の評価を切り分けているから」だった可能性が示唆されます。
もちろん、民主党の支持率が中絶問題で回復したことや、トランプ氏への反発などで党の支持層が結集した効果も考えられますが、「バイデン大統領の支持率と対応していない」という点に注目しています。
したがって、今回の中間選挙はバイデン大統領を信任したものではないというのが筆者の見解です。
民主・共和は新しい候補を出せるか
民主党のバイデン大統領、共和党のトランプ前大統領ともに今回の選挙では勝者といえないなか、両党では2024年に向けたレースが始まります。
民主党の予備選は、バイデン大統領が再選出馬するかを判断するタイミングに左右されます。仮にバイデン大統領が出馬しない場合でも、政権の求心力を保つためには不出馬表明の時期を遅らせたほうが得策です。
しかし、民主党予備選が開始されるタイミングも遅れてしまうため、先に予備選がスタートしている共和党に比べて盛り上がりを欠いたり、候補者の知名度が上がらないといったデメリットも想定されます。
バイデン大統領は高齢であり、再選出馬を望む声が大きくないことを考えると、出馬しない可能性が高いと思われます。バイデン氏の後継については、ハリス副大統領やニューサム知事(カリフォルニア州)が有力です。
“バイデン後継”については、次の記事で詳しく分析しています。
共和党の予備選は、トランプ氏の出馬によって正式に始まりました。中間選挙後の世論調査では、フロリダ州のデサンティス知事がトランプ氏との差を縮め、既に逆転している世論調査もあります。
保守系のメディアやジャーナリストでも、トランプ氏の責任論を唱える論調が強まっていて、トランプ氏は2016年予備選以来の逆風にさらされています。
ただ、11月15日に行われた出馬表明では、不正選挙などの陰謀論と共和党内の身内攻撃は抑制され、民主党やバイデン政権の批判、そしてトランプ政権の実績に主眼が置かれていました。
トランプ氏としては、中間選挙での敗北を受けて一定の軌道修正を図った形です。
2024年の大統領選に向けた動きについては、note記事やTwitterでも引き続き分析していきます。