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大病院での初診日【子宮体がん記録②】
この世の終わりのような正月を過ごした。
ほんの少しの希望(生理復活)と多分悪い方向だろうという予感を抱えたまま、2025年正月を迎えた私は、つくづく友人の存在に支えられた。
30年来の年上の友人がずっと寄り添ってくれた。
一緒にお寺や神社を巡って、厄落としやお参りをした。
余計なことを考えないようにしてくれていた。
終始楽しそうにしてくれていた。
根拠のない「大丈夫だよ」の言葉に苛立ちはしなかった。有り難かった。
その時だけは、大丈夫だと信じるようにしていた。
そしてやっと1月6日になり、訪れた大病院はめちゃくちゃ混み合っていた。
年明け一発目、もともとの通院患者と私のような初診でごった返している。料金を払えば紹介無しでも見てもらえるところではなく、完全に紹介制な病院なので、あちこちから問題を抱え、それこそ遠くから来ている人もたくさんいるのだろう。
私と同じように不安いっぱいで正月どころではなかった人たちもいるのだろう。なんだか同士がいっばいだと感じた。
手続きを済ませ、産婦人科(ここは産科の婦人科も同じ)へ。
問診票を書いて紹介状も渡し、ひたすら待つ。待つ。
予約時間を2時間過ぎたあたりで順番が来た。
担当の先生はグレイヘアのショートが素敵な女医さんだった。さっぱりきっぱりとした口調で、大きな力のある目が印象的な人で、「あ、このひとは信頼できる人だ」と感じた。
事情を説明し、紹介状の内容と照合し、体がん検査は痛くて出来なかった旨を告げると「よし、そっからだ」とさっそく内診台へ。とにかく前のクリニックは内診が痛すぎて辛かったので今回も覚悟した。
最初は「痛くて出来なかった」の申告を気遣ってくれたのだろう、直腸からの超音波から始まった。
ここで「ああ厚ぼったいね、確かに」と言われた。
「あーやっぱりかー戻らなかったかー」と内心がっかりもしたが、「そうだろうな」とも同時にわかっていた。
「ちょっと頑張ってね、組織を取らせてね」と膣へのアプローチに移る。
これがびっくりしたことに、出来た。痛いは痛かったけど、前の痛みが10ならば今回の痛みは5以下で、ぜんぜん耐えられるレベルだったのだ。
これが腕前なのか。え、ということは前の先生の手技は、と呆然としている間に、ぐりぐりと内膜をえぐっている感覚がした。それでも相当短時間だったので、あっという間に終わった。
あとから診療明細を見て知ったが、この短時間に細胞診と組織片をぐるっと取っていたらしい。痛みはほぼ感じなかった。すごい。
看護師さんに出血するのでつけてねと、ナプキンを渡される。
着替え直して、診察室へ。
相対して先生の顔を見て、年末のレディースクリニツクとの既視感が蘇る。
表情と口調が硬い。はい、もう本当にわかった。そうですよね。
これは、【がん】だと。
組織片を切り取ったので、しばらく痛みと出血があるから抗生剤を出すと説明され、手術になると思っていて欲しい、と告げられる。
そして「さっき明日にMRIのキャンセルが出たので押さえましたが、来れますか」と聞かれ、もちろん頷いた。
大病院ともなれば、検査だけでもとにかく時間がかかる。何ヶ月も先なんてザラに聞く。
それが翌日受けられるなんて幸運でしかない。
その後、MRIの予約と次回の予約を取った。
先生はなるべく早い方がいいよね、と手元の手帳に睨み合って「このへんならば結果が揃うはずなので、うーんと、ああダメか、いやこの日⋯」と唸りつつ、10日後の17日に予約を入れてくれた。ねじ込んで、と言ったほうがしっくりくる感じで。
とてもとても助かった。
一日でも分からない不安な状態は短いほうがいいに決まっている。
この日は血液検査まで済ませた。
朝9時に来院し、会計の自動精算機にたどり着いたのは午後2時を回っていた。
精算機に表示された金額に目を剥いた。一気に目が覚めた。
3割で15000円強。
クレカを差し込む手が別の意味で震える。
出てきた明細書を見ると、細胞診断、組織編診断、腫瘍マーカー、血液検査、などなど、ズラリと並んでおり、A4の広い欄が2/3くらい埋まっていた。
どっと疲れが背中に伸し掛かり、ふらふら歩いて家に、は戻らなかった。
一人になってしまうと駄目だと思った。
最寄りの駅前まで歩き、スタバでラテを飲んで、友人にLINEした。
友人はまだ結果出るまで分からないよと言ってくれたし、私も「そうだよね」と答えたが、ちゃんともう分かっていた。認める認めないは別として。
その後用を足しにトイレに行くと、どっぱと血が出てビビった。真っ赤に染まった便器を見て、うっわぁ⋯と血の気が引いたし胃も痛かった。
血を見た途端、お腹も痛くなってきた。少しずつ緊張が解けてきたのだろう。
胃も痛いし気持ち悪いのに、急にお腹が空いた。ぐーっと鳴った。
朝から何も食べていない。元気な胃である。
さぁて、また不安に宙吊り(ただし前回よりもステップの進んだ)期間が始まる。
つづく