小さな希望がたくさん集まったフィンランドツアー〜石原侑美の秋のおたより〜
こんにちは。エラマプロジェクト代表の石原侑美です。
みなさんいかがお過ごしですか。
わたしは8月10日に日本を出発し、フィンランドにやってきました。1年ぶりのフィンランドですが、到着した瞬間、実家に帰ってきたような気持ちになりました。
研究等を通じて日本にいても普段からフィンランドに触れている、フィンランドの人たちといつも話をしている、そしてフィンランドの土地も勝手知ったるところが多いのでホームに戻ってきた感覚になったのだと思います。
今年の8月は半袖で過ごせる日もあれば、それだと寒い日もあり、気温差に翻弄される日が多かったです。
フィンランドにも四季があって、秋には森が紅葉するんですよ。
そんな秋の入り口の8月下旬にエラマプロジェクトではフィンランドツアーを開催しました。
総勢19人で7日間を共にする
1週間の日程のツアーで、総勢19人が参加してくださいました。
これまでのツアーでは1人で参加という方がほとんどだったのですが、今年はご夫婦やお子様と一緒に参加された方が増えたので、今までとは違った雰囲気になりました。
8月開催ということでお子様と一緒に参加しやすかったというのもあったようです。
わたしにとっては「実家感」のあるフィンランド。その地元をみなさんにご紹介するような気持ちも込めたツアーの簡単な日程は以下のようなものです。
(参加者のみなさんには「旅のしおり」と「旅のきろく」をお渡ししました)
1日目:ヘルシンキ集合。学校見学等のプログラムの後に特急列車でタンペレに移動。
2日目:ムーミン美術館訪問。街をご案内した後は自由行動。
3日目:チャーターバスでサイマー湖水地方へ。途中のコウボラという街でランチ&散歩。サイマー湖水地方に到着後、スーパーで4日分の朝食用食材などを各自で買い出し(地元住民であるライフスタイルメディア「saimaaLife」代表のマリによる案内付き!)。ここから4日間はコテージに宿泊。
4日目:森を歩きながらマリによるナチュラルウェルビーイングワークショップやコテージオーナーのお母様によるかぎ編みワークショップ。そしてフィンランド伝統サウナ体験など。
5日目:バスで地方都市のプンカハリュへ。学校見学、街歩き、一般家庭訪問など。夜にはオプション企画もあり。
6日目:プンカハリュでフィンランドアートに触れる。森林博物館LUSTOのレストランでランチ&ガイドツアー参加など。
7日目:ヘルシンキへ。中央駅で解散。
サイマー湖水地方では毎朝、森と湖をゆったり楽しんでいただく時間も設けました。
ツアー内容にはわたしがフィンランドで経験したことを追体験していただきたいという思いも詰まっていました。
ツアーのプログラムでは初めて訪れるムーミン美術館でしたが、日本出身のガイドの方による解説もあり、ムーミンの世界観をみなさんに深く知っていただく機会になりました。
ムーミンにまったく興味がなかったという参加者さんからは「こんなに深い話だとは思っていなかった」という感想もありました。
また、個人旅行で訪れたことがあった方からは、「ガイドによる詳細なお話は聞いたことがなかったため、今回は見え方が違った」といった感想もあり、解説を依頼できることもツアーの良さだなと思いました。
そして何より、期待通りにこのムーミン美術館でのガイドツアーがこの後の森でのプログラムの実感度を大きく変えてくれたのです。
フィンランドの人たちはなぜ森と対話するのか?なぜ悩んだときには森に向かうと良いと言うのか?ムーミンの世界観を最初に知ることで全部筋が通ったというフィードバックをたくさんいただきました。
サイマー湖水地方では森の中で各自マットを広げて苔の上に寝転がる体験をしました。日本ではなかなか難しいですし、初体験の方が多かったのではないかと思います。
また、エラマプロジェクトのフィンランドツアーでは学校見学が必ずあります。ヘルシンキでは参加者の人数が多かったため2グループに分かれました。
プンカハリュでも学校見学をおこない、首都にある学校と地方都市にある学校との違いも感じながら子どもたちの日常に触れていただきました。
ヘルシンキで訪れた学校は見学の受け入れが多いので、視察慣れしています。一方でプンカハリュの学校は滅多にないらしく、とてもあたたかく迎え入れてくれました。見学というより交流といった状況になり、それはそれでお互い貴重な体験でした。
校長先生からも「こういう機会を得られたのは生徒たちにとってすごく良いことなので、ぜひ来年も来てほしい!と」熱い歓迎ぶりでした。
どの学校が印象的だったかは参加者さんそれぞれだと思いますが、ツアーのハイライトに学校見学を挙げられた方もいらっしゃいます。
そして、実は上記とは別で予定外の学校見学もあったのです。
タンペレの図書館のロビーで集合したときのこと。なんと現地の高校生が「日本の方ですか…?」と、日本語で話しかけてくれたのです!まだそれほど日本語は話せないということで以後は英語で会話したのですが、「日本は憧れの国で日本人に会えてうれしい」と震えて泣くほど感動してくれてびっくりしました。
お金を貯めて来年日本に行く予定があるという話も聞かせてくれ、さらには自分が通う学校を今から案内するよ!と。そこで、希望者のみで行ってみることにしました。
ツアーであっても、偶然のステキな、そして参加者さんそれぞれの日常の「当たり前」を揺さぶるような出会いがあり、急な出来事にもかかわらず参加者さんは柔軟に対応してくださいました。
また、元々の予定を希望する方は自分のやりたいことをきちんと選択するという、無理をしない過ごし方を実践していただけました。
想定外のとても印象深い出会いが今回のツアーの思い出のひとつとして刻まれました。
1年にも感じられるゆっくりとした7日間
みなさんそれぞれの思いを持ってフィンランドツアーに申し込んでいただいたと思います。ただ、旅の1週間という短い期間であっても参加者自身が思いもよらない事態が起きてしまうこともありえます。
そのひとつが体調不良です。今回のツアーでも体調不良で一部日程に参加できなくなった方がいました。お子さんと一緒に参加されていたので、ご自身の体調不良のケア以外にも気を配る必要がたくさん発生したと思います。
海外が初めてでフィンランドに来るだけでも冒険だったそうですが、それに加え体調を崩して参加できないプログラムもあったので、「何のためにここ来たのか、自分は何がしたいのか」と問われるような気持ちになったと話してくれました。
その後体調が回復し、森の中でゆっくり過ごしたとき、「森の景色が見えた」と教えてくれました。それまでは景色が見えていなかったことに気づいたそうです。
森の景色を認識できたときに、自分の中で希望や穏やかさが見えたともおっしゃっていました。
同じプログラムを提供していても人によって経験が違ったり、見えていたものが違っていたりしたのだと知ることができました。
ツアーの日程は7日間でしたが、1日1日が濃すぎて1ヶ月、1年のようにも感じたとおっしゃる方が多かったです。
そんな中で人生の大きな決断ができたという参加者さんもいました。個人的なことなので詳しい内容を伺うことはしていませんが、言葉の端々から容易な決断ではなさそうだと感じました。
ただ海外に行く、フィンランドに行くことで新しい自分に出会えるわけではないですし、人生がすぐに大きく変わるわけでもないんですよね。
ツアー日程の一見何気ない体験を通し、濃い時間を過ごすことでいつもより多くの変化を感じられるのだと思います。その積み重ねが「何かが整った旅だった」とか、「ウェルビーイングとはとても身近なものだったんだ」という気付きにつながっているんです。
エラマプロジェクトが開催するツアーの特徴として、フィンランドの人とたくさん出会い、話をし、濃厚な時間を過ごすことでその人たちの人生に触れるという点が挙げられます。
それが自分の人生を本当に見つめることにもつながるのでしょう。大げさなワークショップをしなくても、エラマプロジェクトがツアーをつくると自然にそうなるのだと、あらためて感じました。
ツアー後半のサイマー湖水地方では森にある4つのコテージに分かれて宿泊したのですが、お酒やコーヒーを飲みながら参加メンバーそれぞれでいろんな話をしたようです。ディープな話もしたくなるようなプログラムだったんじゃないかなと思います。
子どもたちは手漕ぎボートで遊びながら交流する様子も見られました。
日程をこなすことで体は疲れて頭もパンパンになっているはずなのですが、話をするのが楽しくてついつい話し込んでしまうとみなさんおっしゃっていました。
そういう時間も大きな決断やいろんな人の人生に触れたことを整理するには大切な時間になったのだと思います。
エラマ=人生、生き方、命を体感するということ
フィンランド語の「エラマ」は「人生、生き方、命」という意味で、「エラマ」という言葉を説明するとき、「生き方」のほうをどうしても強調することが多くなりがちです。ただ、生き方を考えるには人生の最期について考えるのも大事ですし、死を考えることで自分の「生きる」が見えてくることもたぶんあると思うんです。
そう思うと「生」と「死」の両方によって形作られている「命」そのものを考えないではいられません。そのため、みなさんにも「エラマ」を多角的に見ていただけるよう、訳には「命」という言葉も常に入れるようにしているんです。
ある日、真っ裸でサウナから出て湖に飛び込むというアクティビティをやった日がありました。参加者のひとりに小学5年生の女の子がいたのですが、彼女はあまりの水の冷たさに「やだ!やだ!怖い!」とずっと怖がっていました。
わたしが水に顔をつけて自由に泳ぎ出すと周りの大人たちは同じように泳ぎ始めたのですが、彼女にとっては最後まで難しいことでした。
そこでわたしは「ミナ オレン シスカスナイネン!(わたしは根性ある女性です)」と、ツアー中に合言葉になっていたフィンランド語で声をかけ続けました。すると、彼女は実際に顔をつけて泳ぎ出したのです!
湖から上がったらとても楽しかったらしく、そこからは「このまま泳ぐ!」とずっと泳いでいました。
それをきっかけに、彼女は勇気を持って行動できるようになったんです。躊躇しなくなったり、フィンランドの人に話しかけられてもちゃんと受け答えができるようになりました。
その姿はすごく美しかったです。
若さゆえに変化が大きかったということもあるかもしれませんが、彼女は全身で恐れと楽しさを感じ、命=エラマを体感したのではないかと思います。
「大きな希望」ではなく、「小さな希望」の集合体がある
ツアー終了後にアンケートをいただいていたのですが、その中にこんな声がありました。
「器を広げる旅は想像以上に過酷で、ずっと向き合わなかった自分と向き合えた瞬間があった気がする。苦く美しい旅」
自分と向き合うことは必要なことで豊かさにつながりますが、決してラクではないタフなことなんですよね。
みなさんからいただいた感想からも大きな変化というより小さな希望が集まった旅だったなと感じました。
それぞれが自分の責任において選択をしたその先にあるのは「新しい自分になれる!」というような大きな希望ではなく、「徐々に自分の意外な一面を発見する」といった小さな希望の集合体なんだと思います。
そしてその小さな希望を少しずつ拾っていくのが人生であり、ツアーであり、エラマプロジェクトでの体験なのだということを、より強く実感した旅でした。
この秋には東京、大阪、名古屋、三重、飛騨高山でこのツアーも含めたフィンランド滞在報告会をおこないます。
ここでは詳しく語れなかったお話もたくさんしますのでぜひご参加くださいね。
詳細が決まりましたらWebサイトやSNSなどでお知らせいたしますのでお楽しみに!
By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)