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フィンランド生涯教育研究家の現地視察滞在レポート2022年夏[前編]〜コロナ禍と世界情勢に影響を受けた3年間の変化〜

こんにちは。エラマプロジェクト代表の石原侑美(いしはら ゆみ)です。
わたしはフィンランド生涯教育研究家として活動していますが、新型コロナ感染拡大の影響で2019年8月を最後にフィンランドに足を運べていませんでした。

現地に行けないという想像もしていなかった状況になりましたが、日本にいながらなんとか研究を続けていました。

そして今年の夏、ついに、わたしはひさびさにフィンランドの土を踏んだのです!
2022年7月26日から50日間に渡る視察でわたしが感じたことを中心に、フィンランドの今をみなさんにお伝えできればと思います。

前編の本記事では、フィンランドの街の様子と人々の生活についてお伝えします。

3年間の変化

さて、フィンランドへの旅路は、3年前の2019年と同じ条件とはいきませんでした。みなさんもきっとすぐに頭に浮かんだと思いますが、ウクライナ・ロシア情勢の影響は免れませんでした。

わたしはどうしてもフィンエアー(フィンランド航空)の便に乗りたかったので必然的に成田発着便を選択しました。(以前は日本でもいくつもの空港からフィンエアーを利用できましたが、2022年7月時点で成田のみとなっていました)

ヨーロッパへの航路は北回りと南回りがあるのですが、わたしは往復とも北回りルートでした。ロシア領空を通過しないルートのため以前に比べて飛行時間が約3時間長くなっています。

飛行時間は約12〜13時間。以前より長時間になった機内生活は予想より耐えることができましたが、そのあと襲ってくる時差ぼけが今まで以上に大変でした。
日本は深夜出発、フィンランドには早朝に到着するという、本来活動しない時間に移動するので、2〜3日は眠気と頭痛との闘いでした。
(あくまでもわたしの個人的な体験談です)

ひさびさのフィンランドでの目的のひとつであった街歩きを通して気づいた大きな変化もご紹介します。

変化のひとつめは電動キックボードの増加です。
街の至るところ電動キックボードだらけで、わたしも実際に乗ってみました!

乗る方法はアプリひとつで可能で、クレジットカードなどの情報を登録して利用します。
Googleマップを使いながらカーナビのように案内をしてくれるので道順も分かります。

最高速度は20km/h。実際乗ってみて感じるのは、数字以上にすごく速い!スピード感に慣れるまでとても時間がかかりました。電動キックボードの利用者は多く、最寄りのバス停や駅から徒歩15分〜20分とちょっと不便な場所へ行く時にとても便利でした。普及して数年程度なので、交通事故のニュースが後を絶ちません。使用の安全性については、まだまだ議論の最中といった様子でした。

そして、フィンランドは以前からですが駅に改札というものが存在しません。券売機は一応ありますが乗車券はアプリで購入できるというのも相まって、未来都市に来たような感覚になりました。
ホテルのチェックインも無人でやるところがけっこう増えていますし、いろんな面でその雰囲気を味わえます。

変化の二つ目は地方都市へ移住する人が増えていることです。これは日本でも同じ現象が起こっていますね。2019年頃までフィンランド南部の首都ヘルシンキへの一都市集中が進んでいたのですが、新型コロナ感染拡大がきっかけでヘルシンキは居心地が良くない、リモートワークになるならヘルシンキに住む必要はないのでは?と考え、地方都市に移住する人が増えたようです。

縁もゆかりもないけれど、たまたまのご縁があってその街へ来たという人の話をうかがうこともできました。

そして一番大きな変化は、3年前と比べて物価が上がっていることです。
ウクライナとロシアの件が起こる前から物価は上がりつつありましたが、上がり幅はやはりこの情勢の影響が大きいです。
一番高くなっているのはガソリン代。2022年8月時点でのレギュラーガソリンは1リットル2.2ユーロ(約300円)で、これでも一時の最大値より少し下がったようです。

人件費についても、フィンランド経済月報(在フィンランド日本大使館経済班、2021年発行)でも記載されている通り、建設業や多くの業界で人件費が高騰していて、この数年で大きく変化していることがあります。

保育士さんなども去年、前例のない大規模なストライキを起こしたり、今日(2022年9月17日時点)のニュースでも医療関係の人たちの大きなストライキがあったというのを見ました。
労働賃金に関しては、フィンランドはここ数年、大規模なストライキと世界情勢の影響を受けているようです。

10ヶ所の図書館に足を運びました

図書館の視察は今回の大きな目的のひとつでした。ヘルシンキ内や地方都市合わせて10ヶ所ほど訪れました。

場所によって事情は違うと思いますが、わたしが行ったところは比較的新しい図書館が多く、地方都市でさえも1年前にオープンしたばかりというところもありました。

日本の図書館のイメージは固定化された印象がありますが、フィンランドの図書館は公立であっても各々の世界観が全部違っていました。

例えば、ある図書館は木材を使って洗練された新しい建築だったり、別の図書館はすごく現代的だったり、また別の図書館はアアルトのデザインをベースにしていたりと、世界観の違いが明白でした。芸術的で心地よくて、どこも飲食できるスペースが広かったです。

フィンランド東部のサヴォンリンナ図書館は1年前に改築され、壁には現代的なアートが並ぶ

家具へのこだわりもすごかった!人がダメになるような椅子が多かったり(笑)、作業効率をあげるための居心地のよさにこだわった椅子やデスク、気分転換がしやすいように部屋や空間のゾーン分け(ゾーニング)が徹底されているなど、一流のデザイナーが入って照明や家具のデザインがなされていたりするところが多い印象でした。

足を運んだ図書館の中で一番心惹かれたのは、Vallila(ヴァッリラ)図書館というヘルシンキにある図書館です。すごく小規模なのですが、とても天井が高くてゾーンも区切ってあって、図書館って大きければいいというものでもないんだなとそこで感じました。

最近話題のヘルシンキ中央図書館Oodiのような大きい図書館も良さがあるのですが、コミュニティは程よい小ささが重要だなと思ったんです。

小さいからこそ目の届く範囲に人がちゃんといるという、全体把握ができる安心感。そして照明に関しても、それほど有名ではないけれど地元では名が知られているデザイナーさんがデザインを担当していたり。ゴージャス過ぎないデザインが空間を邪魔していなくて、それがすごく心地よかったです。

大きい図書館は多種多様な人たちが集まり、欲しい本をいつでも手にすることができる、機能的に重要な図書館です。
けれど、小さくてもテーマ性や世界観(ポリシーのようなもの)がある近所の図書館は、安心感と心地よさを感じます。今回のフィンランドの図書館訪問で、その心地よさを肌で感じました。
エラマ図書館も小さいけれど身近で安心感のある図書館にしたいなとあらためて思ったのです。

湖水地方のご家庭にも滞在

エラマプロジェクトのイベントにも出てくださったことがある保育の専門家のピリヨ・サレルヴォさんがご夫婦でリタイアライフを過ごされているお家に3日間お世話になりました。

ピリヨさんの夫タネリさんはほとんど毎日セカンドハウスであるロッジの近くにある湖に手漕ぎボートを出し、パイク(北半球の高い緯度のエリアに生息する淡水魚)釣りをしているそうです。それもほぼ一日中(笑)。以前、自分の身長くらいある大きいパイクを釣ったこともあるのだとか!

ピリヨさんは湖で泳いでサウナに入るのがコテージ生活の楽しみで、それをしないときはお菓子を作っているそうです。とても豊かな生活だなというのが率直な感想でした(笑)。

もちろん、それは経済力があるからこそだとは思います。でもそれでもモノはとても少ないですし、一方でデザインに関しては家具やクッションカバーなど、フィンランドのとてもいいブランドのものをこだわって使っているというバランスでした。生活自体はとても質素なんです。

サレルヴォご夫婦とお話をしていると、コロナ禍とはいえフィンランドの人たちの休み方が前と変わった様子はないようで、唯一変わったと言えば、夏に他のヨーロッパの国に旅行しなくなったことだそうです。

おふたりもイタリアが好きでアパートを借りて定期的にフィンランドとイタリアを往復していたそうですが、このコロナ禍でサマーバケーションでもなかなか行けなくなったそうです。

コロナ禍をきっかけにあらためてフィンランドの良さを見直したともおっしゃっていました。

フィンランドの森にももちろん行ってきましたよ!

前回フィンランドを訪れたあとの大きな変化として、わたしは住む場所を変えました。東京生活から飛騨高山という、とても自然が身近な環境で過ごすようになったことで、今回森に足を踏み入れると些細な自然の違い、例えば生えている木の種類などが分かるようになっていました。

自然に対する認識や見方は、3年前のわたしと比べるとかなり変わった実感があります。

フィンランドと言えば世界幸福度ランキング1位、だけれども

フィンランドは、2018年〜2022年の5年間、SDSN(国連機関)の調査で世界幸福度ランキングで1位を獲得し、世界中からそのライフスタイルや福祉制度に注目が集まっています。

今回の滞在中、フィンランドの人たちに幸福度世界一の話題を振ったときの反応は「あぁ~」「そうだね」といった感じで、実はすごく歓迎しているわけでもないような様子が見て取れました。

人によって解釈が違うというのは大前提ですが、幸せのイメージについてはフィンランド国内とそのほかの地域では違いがあるんですよね。

久しぶりに現地に行ってみて、北欧は世界から注目されているというのを肌で感じました。

日本だけではなくアメリカの人もウクライナの人も、なんでフィンランドの人は幸せなのか?というのを探りたくて来ている人たちもいました。でも「幸せを定義しなくてもいいんじゃない?」と思っている人がフィンランドには多いようにわたしは感じました。

幸福度ランキング自体は、政治やメディアへの信頼度や、国民一人当たりの所得がどれくらいかなど、暮らしやすさに関する項目がメインです。

それらは幸せに直結するものでもないですし、幸せと感じるのは理屈だけではありません。論文や科学的なものを積み重ねたところで普遍的な幸せを感じるポイントは人によって違いますよね。
今回の滞在で、「自分の生活スタイルに満足している」という見方であれば、フィンランドの人たちはそこを目指している人が非常に多いという印象を持ちました。

結論として「幸せの定義って何やねん……」とわたしは迷い始めたわけです。

世界一幸せな国と言われるフィンランドに50日間滞在して、幸せの定義がわからなくなったわたしの滞在レポートの後編は、そんな「フィンランドの人たちと幸せの価値観」についてぐるぐる思考していきます。

後編もお楽しみに!

リアルでの報告会もやります!

リアルでの報告会も10月8日(土)に東京の町田で開催します。午前と午後、それぞれ違う内容でお届けしますよ!

午前 https://elama-finreport2210-01.peatix.com/view
 午後 https://elama-finreport-2210-02.peatix.com/view

詳しくはこちらをご覧ください。
フィンランドの今が気になるあなたにお会いできるのを楽しみにしています!

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)


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