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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第四話
……うーん。
そうして少し、ほんの少し数秒思考してすぐにその考えは否定された。
いや、違うね、運に任せて撃つ事が出来るってことはさ、時間切れはこちらの必勝ではないね。
この世界のルール、つまりルールブックにある内容の項目3の『この世界の銃』、これの初期設定の値が結構厄介だね。
3、この世界の銃
(3)『70デシベル以上で対象者の名前をフルネームで発声する事、これは銃の引き金の根元から測定された数値に起因する』『(3)達成から1秒以内にトリガーを引く事』
という2点の内容から1秒の誤差なら同時に撃てるんだ。
つまり9人居て架空側2人、ここで弾数が9発あるから「せーのっ」て同時に実在側が予め決定しておいた9人に対して名前を叫んで撃つ。この時架空側も強制参加になるんだけど実質撃てるのは実在側の7発、7発撃てばかなりの確率でこちらが負けちゃう。仮に8人居てこちらが1人でも弾は8発残ってるからね、この実在側の人数が多ければ多いほど実在側が全員が撃つ決意をしたら高確率でこちらが負けるね。
ルール上、他人の持ち物である銃は全員共通で使えるからさ、持ち物として指定されていない以上、この世界の銃全てを皆が撃てるんだ。勿論架空側は乗っ取った場合でしか銃を撃てないけどね、これもルール。
これってさ、例えばバーチャルな世界、ネトゲとか対戦ゲームとか、そういった世界なら成り立たないバランスで出来ていて、実在側が撃てば必勝に近いんだよね、でも簡単に撃てないのは人間という生き物の生死が関わっているから成り立ってる。
コンテニューやリセットからの再スタートが存在しない世界でしか遊べないシステムになってる。
これの面白いところは人数が減るとこちらの有利となってるところかな、通常人数が減れば実在側からすれば架空側を絞りやすくなっていくように感じるんだけど、このゲームは逆で4人いて4発弾があって2ー2で分かれたときの方がまだましかなー。
この段階で乗っ取りを消費してなくて且つこちらが架空人間が誰であるかを知っていれば勝ちも確定する。
2人の内、例えば僕だけが架空人間を把握していて、実在側を1人乗っ取る、そうして銃が発射され実在側か架空側の誰かひとりが死ぬ、それとは別で僕が実在側をひとり撃つ、乗っ取っている僕は実在側なんだから、そのまま時間制限まで乗っ取り続ければ架空側の勝利。
また初めに戻って考えて、9人いて7人が撃てる状態なら撃つ瞬間に乗っ取りを使ったとすれば、架空側と架空側が互いに乗っ取る確率が低いことからほんの少しだけ生存率を上げることも出来る。でもこれって机上の理論でさ、乗っ取った後に生きている実在側にその乗っ取りを解除したらばれちゃう。
でもこれは架空側からすると架空人間が誰であるかを把握していた場合に限ってはこちらの必勝になってる。だから僕らが初めに考えるべきことは架空人間の把握なんだ。
これに気づかれる前に早く架空人間が誰かを知る、あるいは架空人間に僕が架空側であることを悟らせたい、他の実在人間にばれないようね……。
ん?
ちょっとまって……何かあるねこれ……。
えーと……。
そうやって思考していると、ある穴を2つ、このルールにある説明文のおかしさに2つ気がついた。
……え?これって。
さっきまで考えてた、
『また初めに戻って考えて、9人いて7人が撃てる状態なら撃つ瞬間に乗っ取りを使ったとすれば、”架空側と架空側が互いに乗っ取る確率が低い”ことから』
この部分の、
『架空側と架空側が互いに乗っ取る確率が低い』
架空側と架空側が互いに乗っ取る……。
……うーん?
まって、これは。
…………。
………………あっ!
そうか、わかったぞ、こんな単純なことも今まで気づかなかったなんて、僕という知能、つまりこいつらの知能がいかに低いかわかるねこれ、結局人間なんてそんなものだね。
ルールの穴1つ目。
6、架空側の能力付与。
『架空側両名共に一度だけ乗っ取る事ができ、実在側を乗っ取る事で消費され、同時に乗っ取る事はできない、乗っ取っている間はその場で元の架空側の者は身体の全てが発動時のまま固定され、その場で停止する、なお発動時の固定が始まる最低値は0.01秒』
これってさ、つまり『架空側両名共に一度だけ乗っ取る事ができ、実在側を乗っ取る事で消費され』この部分、この『実在側を乗っ取る事で消費され』という一文、これはつまりは架空側が架空側を乗っ取っても乗っ取りは消費されないんだ。
通常乗っ取りは1回しか行えないんだけど、それは架空側を乗っ取った場合の話、だから僕らは僕ら同士乗っ取るのは何回でも可能ってこと。
これは架空側は架空陣営をつくることが可能なんだ、例えば僕が架空人間に対して乗っ取ってもらえる状況をつくり、そうして架空人間にだけわかるように何かしらのメッセージ、それを残せば互いに意思の疎通が出来る。
こうすればほぼ必勝の形を取れる。
9人いて2人こちらが残っていて全員が撃つ予定に入った場合、実在側があらかじめ撃つと決めていた人に僕ら側の名前が入っていれば、それを否定して別の人間に誘導出来る。このとき、多数決なりでどうせ決めるんだろうから、その数値はこちらの2名は確保できることからも、その組織票によって7人の実在側がこちらの架空側と実在側の割合が3ー4で分かれた場合、ここに僕らの2票が追加されることから4側が僕らに対する票だったとしても、3側に+2をつけれる僕ら2名の票があることである程度数値を調整出来る。
こうやって細かい取り決めの票を2名という組織票である程度操作できちゃう、これは実在側の人数が減れば減る程に効果的。
2-2なら間違いなく負けないし2-5とかそういった大きな偏りでしか負けることは無いことからも、そもそもがこういった票を集めるときというのは数値が拮抗しているから投票システムに向かうんだからさ、そういった大差で開く事は可能性として低いんだ。
だからこの2票の確保はまず僕らの勝ちに近い数値。
そして、2つ目のこのルールの穴、これがかなりおいしい。
3、この世界の銃。
『ただし架空側は乗っ取った状態でしかこの世界の銃を撃つことが出来ない、この時、実在側と同条件で撃つ事ができる、乗っ取りに関しては下記にある項目6から『架空側の能力付与』を参照。』
これの『ただし架空側は乗っ取った状態でしかこの世界の銃を撃つことが出来ない、この時、実在側と同条件で撃つ事ができる』という初期設定、ここに乗っ取った対象が書かれていない、つまりは実在側にも架空側にも同様に銃が用意されているんだから、その架空側を乗っ取れば架空側でも銃が撃てちゃう。
仮に僕をもうひとりの架空人間が乗っ取ったとして、本来架空側は銃を撃てないんだけどその乗っ取られた状態なら架空側でも銃が撃てるんだよね。
これに気づかれていなければ銃を撃ったことで実在側と勝手に勘違いもしてくれる。
やはり架空側は誰が架空人間かを知る必要がある、自ずとまず架空側のやるべきことは架空人間の把握となるんだから、これが最も優先されるべきことだね。
なーんだ、結局は実在側とやること変わんないじゃん。