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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第十二話

「それはつまり一位から三位まで順位づけて投票のような形で皆の意見を聞きたい、ということか」

 柊が腕を組み、視線を右上に持っていきながらひとりごとのようにして僕の趣旨の確認をしてきた。

「そうだね、そこから判断してだれを判別するか決めたいんだ」

 僕の目を見た。

「それは匿名制にするのか、それとも実名制にするのかどちらかな?」

「うーん、どっちでもいいんだけど、別に匿名じゃなくていいと思うな、ひとりひとり僕が聞いていくから答えてもらって僕がメモしていくからさ、それをまとめてから判断したいな」

「そうか、ガクはもう誰にするか決めているのか?」

「ある程度はね、でもまだわかんないや」

 そう言って僕は本を開いてペンを取り出した。

 しかしここまで思い通りにいくのは流石に変だな、何というか先崎にしろこいつにしろ察しが良すぎる。勿論予想はついているとは思う、この流れというかそういう部分に対しての察しが良いのは当然なんだ。

 そこじゃなくて、その僕の投票の主旨に関することじゃなくて、何というか柊のあのひとこと、『ガクはもう誰にするのか決めているのか』の問いは、こちらの意図をある程度予測していたかのような言い回しだ。

 つまりは『お前はもう決めていて、今から投票を行うのはフェイクじゃないのか』と言っているような違和感がある、僕の考え過ぎかもしれないけどね。

 まあいいや、もし疑ってるんだったら恐らくは何処かのタイミングで僕に疑いをかけていて、だからこそあの質問をしたんだと思うんだけど、これはある意味では仕方ないことなんだ。

 僕という存在、島津学しまづがくという存在は愚者じゃなきゃいけない、その存在そのものが控えめだと変だし、かといって存在のアピールとして行動的だとこういった疑いをかけられるのは必然だからね。

 まあまだ疑いという範疇だと思う、確信のようなものじゃないでしょ。

「じゃあ、ひとりひとり聞いていくよ、みんなはそれでいい?」

 その質問に対して皆各々問題ないと返答し、「それじゃあ始めるよ」と僕はひとりずつ聞いていき、メモしていった。

 まずは柊から。

 結果は一位有本、二位先崎、三位伊東という振り分けになった。有本はBグループだから+1で先崎がAグループだから+2、続く伊東はCグループだから±0、合計3点。

 次に先崎。

 一位柊、二位有本、三位伊東。柊と有本はBで合わせて+2、伊東はCで±0、合計2点。先崎はAグループ本人だからポイントの意味合いは少々薄れるけど、概ね好成績。

 次は有本。

 有本は一位を僕に、二位に先崎、三位に柊。僕と柊がB、先崎がAだから合計4点。

 ここまでの結果は予想通りで、柊と先崎は1点差が離れてるけどここに大きな差は無いと思う。先崎自身がAという最高得点でもある2点の存在なんだから自分に投票できないんだし、当然点数は下がる、だから知能ポイントとして柊と同等かそれ以上の存在とみていいね。

 有本は意思表示として僕を疑ってるよってアピールしてるのがこの票から感じられるね、同時に先崎を二位に置いてる辺り抜かりないって感じ。

 ただ柊が僕に票を入れていないのが気になるね、さっき感じた違和感は僕の気にしすぎだったのか、あるいは柊がわざと僕を避けて投票したのかがわかんない。

 次に下地。

 下地は一位に松葉、二位を伊東、三位に柊。松葉はXで-1点、伊東はCグルだから±0、柊はAで1点、つまり合計は最低ポイントである0点という結果。勿論ハクに投票したらもっとポイントは下がるんだけど、ここでハクに投票するとそいつは嘘をついているのと同じ意味になっちゃうからある程度そこは考えなくていい、現実的に考えて通常ハクに投票なんてしないんだ、だから合計0点は最低ポイント、つまり下地は最低ポイントをマークしたということ。

 有本は知に長けてる、次点で柊と先崎が続いた、そうして下地が偏りをみせてそのポイントからその存在を明らかにしてくれてる。

 あーいい感じ、この投票ポイントシステムは我ながら名案だなー。

 やっぱり下地は怪しいね、この下地のポイントの傾向としては架空人間に近い、特に一位を松葉にして先崎に票を入れていない辺りほぼ確定とみていいんじゃないかな。

 あとは松葉がどんな票になるのかによって決まるけど、これはほぼ下地で決まりかな。

 まあ確認ついでに聞いて確認しよう、伊東も残ってるけどまあ最後でいいや。

「じゃあ次は松葉さん、松葉さんも投票お願い」

「どうでもええ」

 松葉は悩む様子も無く間髪入れずに答える。

 今はそれどころじゃないとでも言いたげなそんな感じ、様子というか言葉のせかしかたがそんな感じがする。

「どうでもいい?」

「うん、どうでもいい、そんなんどうでもいいやん、誰って言われてもようわからんしさ」

 もうなに。

 こいつまじで思うようにやらせてくれないなー、何というか面倒臭いというかよくわかんないというか。

「それは誰が架空人間かって予想もつかないってこと?」

「うん、そやね」

 そう言って松葉は周りを見渡すようにして話始めた。

「ていうかこんな投票に何の意味あるん、架空側が嘘いう可能性あるし、誰がどうとか把握できてない状況で投票したって意味ないやんか、それがどんな結果になったってただの印象やんそれって」

 うわぁ、痛いとこ突くな、馬鹿なふりして実は知能レベルがこの中で一番高いんじゃないのこいつ。

「うーん、じゃあさ、おおよそで良いからさ、この人怪しいなーっての教えてよ」

「え」

 松葉は戸惑いをみせながらも一切の迷いもなく二人を指名した。

「じゃあ、この子とこの子で」

 そう言って僕に指さし次に下地に指さした。

 そうして松葉は言った傍から「こんなん意味ないやんな?」とハクにたいして気遣いの言葉を入れては取り留めのない世間話を始める。漫画がどうとかその漫画がゲーム化されたとか映画化されたとかどうとか。

 ……ほんとこいつまじでやばい。

 適当なのか何なのかまったくわかんない、てか正解じゃん、架空側のふたりをこいつだけが言い当てちゃってるよ。

 こわ、得体が知れない、何考えてるのかさっぱりわからない。

「……じゃあさ、三位は誰なの、まだふたりしか指名してないからさ」

「三位?そんなんおらんよ、どうでもええやんそんなん」

「え、いないの?」

「おらんおらん、伊東さんもそう思うやんな?」

 唐突に伊東に同意を求めた。

「……そうですね、松葉さんが言うようにこの投票?みたいなものはあまり意味がないのかもしれないです」

「じゃあ伊東さんも松葉さんと同じでこれといって特に無い感じなのかな?」

「うーん、……うん、そうなりますね」

「……ふーん、そっか」

 まあ、いいけどね、どのみち下地で決まりなんだから。

 あとは判別するのを下地にすると言って反応を見る、下地がそれに反発するようなら乗っ取るし、そうじゃなくても乗っ取りは中止するけども架空人間であるとして認識する感じだね。

「じゃあ、ちょっと考える時間を頂戴」

 そう言って僕はその場で今取ったメモを眺めながら考えるふりをした。

 この時間さえも経過していくんだから、ひとつひとつの動作をスムーズに行う必要なんてない、時間いっぱいになれば僕らの勝ちだからね。

「早くしろよガク、残り時間はもう一時間切ってんだから」

 先崎がそう促しながら煙草の箱を上に揺らすようにして一本取り出し、口にくわえた。

「3分だ、3分以内に結論を出せ」

 くわえていた煙草にライターで火をつけて吸うと先端が赤くいこる、そうしてため息をするようにして煙を吐いた。

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