短編小話「ネット記事などで見るインタビュー的なやつ」
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STYLE
ELITE
9月号
by.ekkusii
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『おはスタ』の放送は皆の通る道であった。通学前の癒しとして学生に大きな効果をもたらした。小学生達はその番組を各々それなりに楽しんでいて、かといって見逃してもそれといった後悔も無い、程よいものであるのではないだろうか。
番組から数々のキャラクター達が生まれ、そして消えていく。その中でもサッカーといった題材をわずか1分で教えてくれる『トム・バイヤー』氏。今回の取材では、そんな少年少女達のサッカーの生きる教則本ともいえるトム氏に話をお伺いする事になった。
◢◤トム・バイヤー氏の基本情報
ーまず、お仕事される上で何が重要なのかお聞かせ下さい。アメリカ合衆国ニューヨーク州出身との事ですが、日本での活躍にはやはりこだわりがあったりするのでしょうか。
トム:こだわりはやはり、うまぶる事デスネ。
ーうまぶる、ですか。
トム:それっぽく見せる事で、何か凄いってなるじゃないデスカ。
ーなるほど。
トム:ぷよぷよやってて、無駄に両端に積み上げると「こいつ何も考えて無いな」って見えるケド、縦に同色を3つ横一列にずらーって綺麗に並べると「え、うまない?」ってなるからネ。
ーそこで適当に消して連鎖になったら「な?」って表情をすれば確かに効果ありそうですね。
トム:ソウヤネン。
ー随所にこだわりを見せるトムさんですが、やはりトムさんを語る上で『おはスタ』は欠かせないものだと思います。『おはスタ』に出演しているのは読者の皆も知っている事でしょう。差し支え無い程度にここだけの苦労話などあればお聞きしたいです。
トム:時給制。
ーえ、それは大変ですね。出演時間は1分ですよね?
トム:時給1000円。
ー合計2000本程の出演とお聞きしています。という事は3万3千円前後の生涯収入ってところですか……。年間180本の出演と考えても年収は3千円、厳しい世界ですね。
トム:米食いたいヨ……。
ー米だけあってもその収入だとかなり辛いかと思うんですが、他に何か収入でもあるのですか?
トム:普段はおはスタ以外に2つの業務に就いているヨ。
ーやはりそうでしたか。そのお仕事とはどのようなものなのでしょう?
トム:大体日中は駅構内の便器をペロペロ舐める業務に従事してますネ。
ーは?
トム:あとはレストラン勤務。
ーじゃあ普段はレストランで働いてらっしゃるんですね。
トム:ソウネ。エビフライ専門だから大変だヨ。
ーえ、そんな担当あるんですか?エビフライだけ調理となるとそこまで大変とも思いませんが……。
トム:調理?調理なんてする訳ないダロォ~。
ー調理しない……とは。
トム:レストランの入り口付近で待機して、客がエビフライ頼むのを待つんですネ。
ーへぇ、エビフライオーダー専門とは、珍しいお仕事ですね。
トム:そこでかなりの確率で客はエビの尻尾を残すから、あとは土下座して尻尾を貰う。基本毎日勤務していてそれがメインのお仕事になりますヨ。
ーえーっと、それは仕事とは言えないんじゃないですかね……。エビフライの尻尾専門の乞食という事にも驚いているのですが……。
トム:だから大変なんだヨ。
ーそうですか……。
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声優と
いう仕事
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ーここでいきなりなんですが、ゲストをもう1人お呼び致しまして、ここからはお二人含めての対談となります。
トム:え、そうなの。
ーまったくお二人との縁も関係性も無いのですが、何となくお呼び致しました。トムさんも引き続き宜しくお願い致します。
トム:誰。
ーおまたせ致しました。田村ゆかりさん、どうぞこちらまで。
ゆかり:あ、どうも、こんにちは。
トム:こ、こんにちは。
ーでは仕切り直しまして、まず、ゆかりさんに簡単ではありますがいくつか随所書きで質問させて頂きます。どんどん聞いていきますので1つずつ答えて頂ければと思います。
ゆかり:はい。
ーそれでは、まず、ご趣味は?
ゆかり:胡麻和え。
ー特技は?
ゆかり:胡麻和え。
ー休日の過ごし方は?
ゆかり:味噌和え。
ー好きな食べ物は?
ゆかり:空気。
ー嫌いなものは?
ゆかり:深呼吸。
ー将来の夢は?
ゆかり:エラ呼吸。
ーでは、最後に、座右の銘を教えて下さい。
ゆかり:おばあちゃんのぽたぽた焼きの袋の裏の知恵袋でも見とけ。
ーありがとうございました。えーと、ゆかりさんから差し入れを頂いております。これは……かなりの量がありますが、スルメか何かですか?
ゆかり:それは缶詰の蓋で手を切った時にできたカサブタです。不器用なもんで。
ーええぇ……汚な。と、あっ、失礼致しました。……これ軽く5キロはあると思うんですけど。
ゆかり:不器用なもんで。
ー一体何回缶詰開けたらこんなにも手を切れるんですか?
ゆかり:2回。
ー……いや、さすがに不器用過ぎませんか?
ゆかり:ごめんね。でもそれ以上言ったら泣くよ?
ーいやいや、メンタルも弱すぎませんか?
ゆかり:えーん。
ーえ……泣き真似下手過ぎでしょ……。
ゆかり:ごめんね。
ーでも人は良さそうなんだよなぁ……。
ゆかり:ありがとう。でもね……。
ーあれ、どうかしましたか?
ゆかり:実は……。
ーはい。
ゆかり:俺、田村ゆかりじゃないから。
ー知っとるわ!
トム:知っとるわんなもん!
ゆかり:ごめんね。
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塗ると
いう行為
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ーゆかりさん、こちらからお呼びしておいて何ですが、本名をお教え頂けませんか?この際『田村ゆかり』さんのお名前をお借りしてる状態を維持するのもいいとは思いますが、このままだと色々見た目における言動などが少々複雑になってしまいますので、教えて頂ければ助かるのですが。
ゆかり:え?えーっと、あー……、名前、だよね?
ーはい。
ゆかり:その、えーと、ア、アフ……。
ーアフ?
ゆかり:アフリカ……。
ーアフリカ!?
ゆかり:アフリカの……アフリカの蕎麦です。
ーそ、蕎麦!?
ゆかり:はい、アフリカの蕎麦です。
ーアフリカの蕎麦!?
トム:名付け親コワスギデスネ。
アフリカの蕎麦:おかんが蕎麦好きらしくて。
ーだとしてもアフリカの部分の説明つきませんが。……まあ、見た目的に言えばアフリカ要素はあるとは思いますね、その、肌感ですとか。
アフリカの蕎麦:これチョコ塗ってるんで。
ーチョコ!?溶けませんか?……何かこう、少々激しく動いたりした後や暖かい場所などに入ったとき、そういったときに溶けたりしませんか?
トム:ヌルヒツヨウセイ。
アフリカの蕎麦:去年のバレンタインに初めて好きな人から貰ったから食べるのもったいなくて。
ーそうなんですね。かといって塗ってそれを1年キープしてる愛情の歪み方も凄いかと思うんですが……。
トム:メチャクチャ好きデスネそいつの事。どんな人からモラッタ?
アフリカの蕎麦:おかんから。
ーお母様からですか……。
アフリカの蕎麦:ごめん、おとんやった。
ーええぇ……。
トム:色々コワ。
ー貰った人、間違える程度のものを1年も継続したんですか……。
アフリカの蕎麦:どっちかというと、おかんの方が好き。
ーまあ、間違えて名前を出すぐらいですからね。
トム:ていうかアフリカの蕎麦とかいうフザケタ名前付けたおかんの事好きなお前が凄いネ。
ーじゃあ、お母様からはチョコを頂いたりしなかったんですか?
アフリカの蕎麦:毎日くれる。
ーいやそれ塗れよ!
トム:それ塗らんかい!
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結局これ
何なん
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ーえーここから、もうお一方お呼び致しまして……。
トム:えっ?また?もうイランイランイラン。
アフリカの蕎麦:なあなあ今更やけどさ、何で俺だけSNSのTLみたいな表現なん?
ーそれでは早速来て頂きましょう。perfumeの西脇綾香さんです。どうぞ。
アフリカの蕎麦:なあて、何で俺だけなん?なあて~。
西脇:・・・・・・。(座りからの腕組み)
トム:……え?
アフリカの蕎麦:ゴ、ゴリ……。
ーこれは、ゴリ……ラ、ですね。
西脇:・・・・・・。
アフリカの蕎麦:BGMから察するにゴリラかどうかを鑑定しろってことじゃない?
ー鑑定も何もこれゴリラで確定してるかと思いますが。
トム:東西南北どっから見てもゴリラヤンカ。
西脇:・・・・・・。(無言で1枚の写真をトムに手渡す)
トム:何かクレタ。
ーえ?
アフリカの蕎麦:君ゴリラ受けよさそうではあるもんな。何基準か聞かれても知らんけど。
トム:!?……見てクレ。ゴリラクレタヤツ。
ーえ、何でしょうか?
アフリカの蕎麦:人間2人と……、ゴ、ゴリ……。
ーこの写真を見るに、人間2人に自然に混じろうとしている、……ゴリラがいますね。
トム:コレハ、……ゴリラ。
西脇:・・・・・・ドッ。(写真を指差し軽く1ドラミング)
ーひょっとしてこの写真に写っているのは自分であると伝えているのでしょうか?
トム:まあ、同じ種類ではあるカモネ。詳しくはシランケド。
アフリカの蕎麦:あっ、こいつまた何か出したぞ。
西脇:・・・・・・ウッ。(床に放り投げる)
ーあ、バナナですね。
アフリカの蕎麦:バナナやな。
トム:マチガイナクバナナ。
ーじゃあ、トムさん、これはトムさんが責任をもって食べるべきじゃないですか?
トム:何で食わなアカン、何で俺ヤネン。
アフリカの蕎麦:君好かれてる感じするしいいんちゃうか。
トム:好かれてるとかドウトカ、ソノ理由で俺食う必要もアルカ?
ーでも1本しかないですし、トムさん向きかと思います。
トム:いや、1本しか無いとか関係ナイヤン。その、怖いヤン、……衛生面的に。
アフリカの蕎麦:便器ペロペロするより栄養あるぞこれ。
トム:その設定忘れてタヨ……。
ーじゃあ、決まりですね。
トム:ナンデヤネン!
西脇:・・・・・・。
ーほら、トムさんがそんなものの言い方するからゴリラさん悲しんでますよ。
トム:人間チャウネンから、今悲しんでるかどうかもわかりようナイヤロ!
アフリカの蕎麦:顔で笑って心で泣いてってやつやな、これは。
トム:お前にゴリラの何がワカンネン!そもそも笑ってナイヤン?こいつずっと無表情ヤデ?
西脇:・・・・・・。
トム:ほら、もうこれ平常心ダロ、なっ?だからここはもう平等にジャンケンで決め……。
ーあっ、またなんかゴソゴソしだしましたね。
トム:えっ……。
西脇:・・・・・・ウウッ。(机に放り投げる)
ーうわっ、黒っ……。
アフリカの蕎麦:1本端の方破れてるな。
トム:2本もアルゾ……。
ーてことは、合わせて3本ですか。
記者:トム:アフリカの蕎麦:・・・・・。
西脇:・・・・・・ウッ。
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勝敗の
行方
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幾度と無く続く『あいこ』。その熱戦を征したのは『アフリカの蕎麦』であった。蕎麦は床にある綺麗目なバナナを手に取り、続き『記者』が勝ち抜き、真っ黒に熟れたバナナを選択。最後に敗れた『トム・バイヤー』が余り物の破れた黒バナナを手にしたのであった。
ーまあよしとしておきましょう。
トム:くっそ!あの時食っとけば良カタネ……。
ーえ、それは、私他の人のも全部食べます表明という事で宜しいですか?
トム:違うヨ!床にあるヤツダネ!オウジョウギワのワルサ!
西脇:・・・・・・。
アフリカの蕎麦:はよ食えよって顔してるな。
ーもうここまで来たらせーので一気に行きませんか?
トム:頼むから、謎の病気だけは勘弁シテヨ~、せめて腹痛程度でオネガイヨ~。
アフリカの蕎麦:あれ見てみ……。
ーうわっ……。
西脇:・・・・・・ドドドドドドッ!(高速ドラミング)
ー早く食べないと危険ですね、これは。
アフリカの蕎麦:まじかよ。まだ覚悟決まってへんで。
トム:お前ソレイウナ!俺なんか破れてんネン!端の方が!
ー皆さん、皮を剥きましょう。
アフリカの蕎麦:もうしゃあないか。
ー準備は、いいですか?
トム:アーモウ、イイヨモウ。
アフリカの蕎麦:行けるで。
ー3秒カウントダウンで行きますよ?『0』で食べて下さい。それでは……。
3
2
1
記者:トム:蕎麦:ぬるっ!
それは3名がバナナを口に含み「ぬるい」と叫んだ瞬間の出来事であった。『西脇』こと『ゴリラ』が突如暴れ始めた。テーブルは中央から二つに割られ、イスは無残にも斜めに引き千切られる。
逃げ惑う記者、蕎麦、トム。
逃げ遅れたトムがゴリラに捕まり、足を捕まれたかと思うとグルグルとその場で円を描く様にスイングされる。ジャイアントスイングの要領である。そのスイングの巻き添えを食らう蕎麦。トムと蕎麦が互いに絡み合い、ゴリラが手を離すと開放された衝撃で転がるようにして2人は扉を突き破った。
記者は察した、これは逃げられない、殺られる前に殺るしかない。
ウオオオオォオウゥッ!
咆哮をあげるゴリラ。
手には引き千切られたイス。
鋭利に先が尖ったパイプが廃材と化しナイフのように突出している。
それで刺されれば即座に死ぬ、確実に。当たり所が悪ければといった要素は無い、”当たれば”死ぬ。
ゴリラに向かって一気に走る。
自然と記者は笑みを浮かべていた。
この自身の正気でない行動を客観視する冷静さがあった。勝機はまったく無い。が、行くしかないのである。
距離にして1m。
眼前まで迫った。
腕を上げた。その動きに魅入られるように顔を上げる。振り下ろされた。待ちわびた恋人を受け入れるかの様にゴリラの腕をじっと見つめる。
次の瞬間……。
血に染まった物体が背後から記者を前方に押し出した。蕎麦である。蕎麦の左の肩口にゴリラが打ち下ろしたパイプが突き刺さる。記者はゴリラの足元まで飛ばされ、そのまましがみつくようにして左足を両手で掴んだ。
背後から声がした。
声というにはあまりに大きく、それは雄たけびだった。
聞き取れなかったが、その言葉に意味など必要なかった。
トムだ!トムが叫んでいる!
記者はゴリラの足を両手で掴んだまま自身の肩口を左に振る。次に胴を、そして右足へとその動きを連動させていく。記者の右足は天高く上がった。
黒い革靴のつま先が発光ダイオードの光を反射し、辺りに舞った埃が虹色に輝く。
そこから一気に右に回転、全身を全てその回転に捧げた。
身を回転に委ねた。
ドラゴンスクリュー。
ゴリラは天地が返り、一瞬にして身体の左側面を地面に叩きつけられる。
その後ゴリラの目に映った光景は、影。
大きな影。
記者の体が飛んでくる。
記者がゴリラに覆いかぶさる。テーブルクロスの様に綺麗にとはいかないが、十分だった。
背後に佇む蕎麦の血が記者の背を染め、脇腹をつたって地面にしたたる。
その血がゴリラの体を染めていった。血を染めるのはゴリラだけで良かった。
例えるなら赤のボルドー。
クリスマスに騒いだディナーのあとのテーブルかの様に、薄汚れている、赤く。
トムが叫んだ。
「1!」
蕎麦が叫んだ。
「2!」
記者もトムも蕎麦も叫んだ。
咆哮。魂の叫び。
その声は地を揺るがした。
「3!」
鳴り響くゴングの音、カンカンカンと小気味よく響いた。
止まない声援に飛び交うテープロープ。7色に放射線状に広がる。
白髪の男が記者に駆け寄るとマイクを近づけた。
記者は後日このインタビューの記憶が無かった事を明かしている。
白髪の男からチャンピオンベルトが記者の手に渡った。
駆け寄るトム。トムが記者の持つベルトを手に取ると、記者の背後に回り腰にベルトを巻いてあげた。力強く、そして優しく。そこに蕎麦も向かう。血に染まりながらもゆっくりと記者の元へと。
だが、あと一歩のところで膝から崩れ落ちる。
それをすかさず記者が肩を持ち支えた。蕎麦は優しく微笑んだ。記者への惜しみない笑顔だった。
左からトム、記者、蕎麦、横一列に並ぶ。やがて輪になった。
記者が蕎麦の手を、蕎麦がトムの手を、トムが記者の手を掴む。皆泣いていた。男泣きである。
そう、勝ったのだ。
ゴリラに。
それは人類の勝利を意味していた。
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