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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第十一話 

「ここで皆に聞きたいんだけど、誰を判別したらいいかな?」

 聞くといってもすでにもう決めてるんだけどね、これは皆の発言を集める為の手段、指名数に意味は無いし、誰に指名された数が集まろうとも僕は下地か松葉のどちらかを乗っ取るよと決めてるからね。

 これはそのどちらかに絞る為の策でもあるんだ。

 そしてここでのキーパーソンは先崎、皆が先崎にどう思うかでいくつかの解がある。

「投票制にしてさ、3番目までの候補を教えて欲しいな」

 ここで数値化して皆の知能を測る。

 まず先崎をAとする、僕と有本と柊をB、伊東はC、松葉と下地は架空側の疑いがあるからX、ハクは人間(human)の頭文字を取ってHとする。

 まずHは銃を消費、人間側で確定だから不要、-5。

 Aはこのゲームに最も貢献している、+2。

 Bは行動的だから必要、+1。

 Cはゲームに参加はするものの愚者か傍観しているかのどちらか、±0。

 Xはゲームに参加していない、-1。

 -に票を入れるのか+に票を入れるのか、これを見る。ーに投票した場合は不要な相手に入れたという矛盾が発生するからその数値を引く、+に投票した場合はこのゲームに参加している要素として高いので判別したい、だから数値を足す。

 そうして投票数をまとめていって各々の総合点を見る。

 通常、僕が感じてる違和感、松葉と下地のふたりを調べる必要性は実在側からしたら低いんだ、それはこのゲームに関わっていないのだから調べても進展しづらいと考えて自然だから。

 ゲームに参加している人を判別した方が得られる情報量が多い、例えば『あの会話はこういう意味だったのでは』とか『あの行動はこういう意味だったのでは』と思考出来るから情報量が通常より多いんだ、だからこそ点数が多ければ多い程に理に適ってるからそいつの知能レベルは高いってことになる。

 これは理の測定値、感覚的な思考であればあるほど点数が低くなるようになってる。

 そしてこの数値化の面白いところが、中間点に位置した場合、自ずとそいつは架空側である可能性が高くなる。

 中間点というのは0点に近い位置、±1点までの位置に入った場合はかなり不自然になってる、これの理由は僕が何故下地と松葉を疑っているのかという意味合いと一致する、だってこれは架空側の思考だから。

 通常、架空側の立ち回りは逃げや守備にあるから、時間制限で勝ちが獲得できるというこのゲーム性においては攻める理由が乏しい、なのでゲームに不参加が一番怪しいんだ。

 勿論実在側もそれをわかってはいる、けどもまだゲームとして進展が殆どない状況、大きな事故のみがあって、それ以外はまったく進展してないんだ、だからこそこの状況下でのその判断は非効率、博打に近い要素だもん。おとなしいから疑わしい、でもそいつに使うには判別は一度しか使えないのにサイコロを転がすみたいに運の要素でその何もない人を図ることになっちゃう、だったらどうせなら情報量の多さを重視しよう、そうなって初めて理に適ってるって言えるんだよね。

 この数値化でバカと理、そして架空側も炙り出せる。

 だからこそ1~3位まで教えて欲しいとしてる、そうなると必ずその理に沿った投票になるからね。

 まず一番怪しいと思ってる人に投票して、第二候補からは単純に二~三番目に怪しいのかそうでないのかで分かれる。つまり怪しい以外の理由が入りやすいから理に適った選択をするんだよね、この人を調べれば情報量が多そうだ、といった具合にね。

 通常投票ってその投票数に意味があるんだけど、僕の狙いは別にあるから、この投票は表向きの目的とは別のところにある、投票数がどれだけ他にあっても僕は下地か松葉のどちらかを指名するんだから。

 そして最も単純で且つ明白な要素として先崎に投票をしないやつは架空側とみてまず間違いないね、そんなの実在側のムーブじゃない。架空側は知能が高いという初期設定の値があるから、理に反した投票はしないからね。

 架空側は時間制限で勝てるんだ、だからこそ先崎には疑いをかけたくない、別世界の銃を持っていてデータもある、そんなやつが実在側だと周知されたらどうしようもない、その銃もデータも乗っ取って架空側のものにしたいし。

 この理屈から先崎に対してどう思っているかで解が決まるんだ、先崎に投票すれば実在側、逆なら架空側、そうして数値化して理に適ってるやつなら+が多い、博打をする感覚的なやつなら+が少ない、この投票というシステムでここにいるやつらのその知能、敵か味方かを把握することが出来る。

 この値と先崎に対する票の集まりかたから判断して僕は下地か松葉に判別を行うか決める、といっても勿論判別自体は出来ないんだけどね、だって判別が出来るのはハクなんだから、これはさっきの僕の判別アピールから確定してるようなもの、皆の無反応な様子からハクが判別だって確定したんだから。

 あくまで僕は判別すると脅して架空側を炙り出すのが目的、もはや僕は今この中では判別が出来る愚者として存在してるんだから、架空人間が指名されちゃったら反応するしかない。

 ここまでが策、僕のスペシャルムーブ。

 判別も一回しか使えないように、乗っ取りだって失敗は許されないんだ、だからこそこの投票が重要で、ましてこの段階までくれば誰も拒否出来ない。

 架空人間の把握は勝利に近い、互いに連携を取りながら時間まで粘るだけでも勝てるし、最悪先崎を乗っ取ればデータも銃も手に入るんだから、ここぞってときの切り札まで揃っちゃう。今は格ゲーでいうところのコンボ始動技が決まった瞬間、あとはトレモで練習したコンボを完走するだけ。このコンボが決まれば起き攻めのセットプレイまであるから相手はゲージを払うリスクを管理しながら無敵技をぶっぱなすかの選択を余儀なくされる。

 しかもこのセットプレイは安全に拓を迫れる要素までついてるんだ、格ゲー用語でいう詐欺飛びってやつ。

 つまりはこの投票が行われた瞬間から僕らの勝ちはより一層強固なものとなる、勝ちはすぐそこまで来てる。

 そう思考して僕は鏡の上にあるタイマーを確認した、残り時間は一時間と3秒。

 3。

 2。

 1。

 残り時間一時間を切った、ここからは後半戦、ここからも僕に抜かりはない。

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