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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第三話

 撃ったのは先崎、人に向けて撃たずに適当な場所に打ち込んでその場をしずめたいようだった。

「俺には杉原てめえとは別にもう一丁これを持ってるからな、お前もお前だハク、二人共いい加減暴走するのはやめろ、ここまで敵を作ってしまったら杉原こいつはもう逃げられねえ、杉原はそれを覚悟して一旦落ち着け、ハクもだ」

「ふん、五月蝿うるさいわね、わかったわよ」

 そう言って柊達と距離を空けるようにしてテーブルの端にある椅子に座った、ハクは怯えた様子で泣いているのか目が潤んでいた。

 いいね、いい感じ。

 時間は浪費されるし馬鹿がこの場を荒らしてくれるしで出足はかなり順調だね、幸先良いスタート。

「それじゃあ、俺らも座ろうか」

 先崎がそう促した、この流れからしても拒否するのは不自然だろうから僕はそれに従った、皆も同様に着席していく。

 少なくとも僕が疑われるとしても今すぐにはそれは無いみたいなもので、杉原との件を終えてからようやくこいつらが探っていく段階に入るんだもんね、この件が終わるまでは誰ひとり架空側僕らは撃たれない、杉原をどうにかしようとする時間がまず消費されていって、そうしてそれは杉原が死ぬまで続くんだ。

 こいつが死ねば弾はひとつ無駄に消費されてさ、時間も消費されてさ、そうしてから僕らを探す時間もかかるんだから、もう笑いを堪えきれなくなっちゃう、もはや笑っちゃいそうになるのを耐えるゲームだよねこれ。

 そうやって考えていたら「皆聞いてくれ」と言って柊がルールの確認をしようと提案してきた。

 僕はパラパラとページをめくった。こうしている内にも時間はどんどん過ぎていく。皆も本を開いて終始無言で目に通してる様子、自然をゆっくりと楽しみながら過ごすパブリックな図書館みたいで面白いね、どうせならこのまま時間まで読むふけってくれればいいのに。

 ルールをひとつひとつ確認するふりをしながらひとりひとりを軽く見やった。だってルールなんてさっき確認済みだもん、だからこそここで皆の様子をチェックしないと損だからね。

 ……んー、有本と先崎は理、柊は知、松葉は縁、下地と伊東、このふたりは絶妙なポジションで強いていうなら怯、他は情。理は情をかき乱すし情は理をかき乱す、その情を縁が取り戻してはそれとは別で知が生き続けるから……。

 えーっと……。

 ……うん、ネックは先崎と柊、このふたり。

 先崎にはぎりぎりまで生きて欲しいんだ、だってこいつはここの銃とは別にもうひとつ銃を持ってるから。これってさ、先崎を乗っ取って撃ちまくれば二人か三人は殺せる訳だからさ、先崎はこちらからすれば最終兵器みたいなものだね。なるべくなら乗っ取りは使わずに先崎を優先して乗っ取りたい。だからこそ先崎はその時が来るまで生かしておきたいけど逆にいえばそのかん他を乗っ取りづらい。

 先崎に死なれては困るけど生きている間は他を積極的に乗っ取れない、乗っ取りは一回しか使えないから、この制限から先崎の存在、これが面倒くさい。

 いざとなれば僕の身体能力で先崎を殴って銃を奪うという手段に出るにしても、先崎も体力的な分野ではこの中でも上位、恐らく僕よりは強いね、結構隙も見せない用心さもある。

 これらを考えたときにまず思いつくのが、先崎をこの世界の銃で殺す、そうしてこの世界とは別の先崎の銃を奪う、これも視野に入れる必要があって、だとしても先崎は行動とか話が理に適ってるから架空側だとしておとしめるのは難しい。だからといって強引に適当なやつを乗っ取って銃で殺すとしても乗っ取ってからの僕は静止するし、乗っ取った側で撃つときの声の動作までもあるからかなり目立っちゃうから結構厳しいね。

 どうにか向こうの世界の銃を手に入れて仮に架空人間を撃ってもこのゲームのルール上死なないから、やっぱりその銃はこちら側からすると相当便利だから欲しいんだよね。

 柊は知を持ってる、この中でも知識の幅と量が多いから、これってその知識からあらゆる発想が生まれる偶を呼ぶ可能性があって、その偶発的な要素はこちらにとって一番厄介で予測がつかない。

 柊の厄介なところはボロを出さないとこなんだ、これは柊を撃つチャンスが少ないということでもあるからね、これが面倒くさい。

 変にバトロワ的なゲームじゃないから厄介、説得したり納得させたりしないとこちらから実在側を殺すことが難しい。冤罪をかけれるのは明らかな愚者にしか通用しないからね、情タイプならめるのは簡単なんだけど知と理のタイプは話の整合性が取れていてどうにも出来ない。それと引き換え逆に向こうは向こうで誰でも適当に撃つことも出来ちゃうんだから、いざとなれば運に任せて撃ってくることも考えれちゃう。

 やっぱり時間制限まで粘るのが得策かな……。

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