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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第七話

「これ何かのいたずらとかじゃないの!?」

「うるせえ、静かにしろ、認めるしかない」

 先崎が僕をなだめるようにして誰を見るでも無く、本と会話するみたいにしてメモを取りながら言った。

「認めるって何を?」

「ハクが撃った、そうして杉原が死んだ、これを認めろ」

「認めるって言ったって、まだわかんないじゃん、この人だって死んだフリしてるだけかも知んないし」

「なら確認しな」

 そう言って先崎は煙草に火をつけて口にし、煙を吐いた。

「確認って……」

 ははっ、と先崎が笑い、椅子を引いて立ち上がると、くわえ煙草のまま杉原を「よっ」と声をあげながら腹から抱えあげた。

「こう、やるんだよっ」

 そう言って杉原の死体を仰向けに投げるようにして寝かせた。先崎は手を合わせてから一呼吸つくと、脈拍、心拍、呼吸、ひとつひとつ確認する。

「こいつは死んでるよ、ガク、俺も認められねえなら、お前が自分で確認しな」

 いちいちうるさいな、それぐらいわかってるよ。

「……やだよ」

「そうか、ならこいつは死んでねえよ」

「え?」

「嘘だよ嘘、息もしてるし脈もある」

「どういうこと?」

「お前が確認しねえ限り、お前は何も知る事はできねえって事だ、今のお前ではな」

 ここまで自然な形で会話が出来てる、だって本当にそう思ってるもんね、これはこのゲーム性の素晴らしさでもあるんだよね、オリジナルの本体そのものの思考や感情、様々な体験や経験がこの体内と脳にしっかりと残りながらもうひとりのフィクテイシャスという種が存在してる。

 初期設定の値がしっかりしていないとこうはいかない。

 取り合えず恐れを演出しなきゃいけない、そう意識しながら僕はゆっくりと死体に向かって歩いた。

 時折目を背けながら演じる、杉原の死体に対して先崎と同じように手を合わせた。屈んで手を取って脈を取る、胸に耳を当てて心音を確認、鼻付近まで耳を近づけて呼吸を確認。

 僕は今死んだことを理解した愚者を演じる為にまず無言のまま立ち上がり、その場で立ちっぱなしでいることで放心状態かのように振る舞った。

『よし、そろそろもういいかな』

 何秒だろう、20秒かそれぐらい、そこに居たけどそろそろ立ち去らないとこれからの計画を考える間が無くなっちゃう、一旦はメモを取ろう、考えを整理したい。

 ぐずぐずしてらんない、僕らはまだ架空同士繋がってないから負けちゃう可能性が高まっちゃう、向こうは時間いっぱいとなったら無作為に撃てちゃうんだから、そうなればこちらの敗北する率が高まっちゃう、なるべくならその負ける率を下げる行動をいち早く行いたいね。

 そう考えて僕は元居たところに油断せずゆっくり歩いて戻った、ここで不自然な動きはできない、あくまで僕は怯えている怯者を演じ切らなきゃいけない。

 そこに着いてゆっくりと屈み、ゆっくりと腰を下ろして木にもたれかかる、そうして本を手に取って開いた、そうして背表紙裏に差し込まれていたペンを取り出した。

 まず実在側の把握からしよう。

 この一例の流れから行動的だったのはハク、先崎、松葉、柊。消極的だったのは伊東、有本、下地。この中でも開幕最も早く行動したのが有本、このことからも有本はウェットな存在じゃない、ドライな性格をしていて理を重く捉えるタイプ。

 伊東は自発的なタイプじゃないけどぼろを出さないように振る舞いながら何もしてない、もし僕と同種の架空人間だったら僕が思考した流れをある程度行えると仮定しても、この失敗を恐れる行動は少し消極的過ぎるね。

 下地はまったくの傍観者って感じで、根の人間の設定からこう振る舞わざるを得ないと思うとどちらともいえないかな。

 伊東は元の人間性を込みにしても、あまりにも失敗をしないようにする行動から見ても実在側に近い立ち回りで、生き残りたいけどゲームに参戦出来る程には至らないところを見ると、人間社会でいうところの派遣社員のような立ち回り、言われた指示に従いながらそれ以外は出来ないタイプ。

 積極的なハク、先崎、松葉、柊の4人の内の3人、先崎と柊とハクは実在側のように振る舞ってる、ハクは愚者としての立ち位置から銃を撃ったことで乗っ取りから撃ったとしたらあまりにも条件が揃って無さすぎる。

 ハクは実在側で確定。

 中間点としての立ち回りをしているのが松葉、伊東はその次点辺りに位置してる、そして不明なのが下地。

 先崎がデータマンであることから乗っ取ってほしいとしている可能性を考慮しても、架空人間である可能性もありながら結局はどっちにしろ一度は僕ら側の内1人だけでも先崎を乗っ取りたい、そのデータがどういうものなのかを知りたいからね。

 確認を行いたいという理由から先崎、松葉、下地、この辺りから絞りたいね。実在側を乗っ取らない限りは乗っ取りが消費されないことからも、この3人の内、誰を乗っ取るかを決めようかなって感じ。

 これの意味するところが同じ人間を2回乗っ取ればそれで判明するから、一瞬乗っ取ってすぐ解除してまたすぐ試す、これだけで確認は取れちゃう。2回連続で乗っ取れないなら消費されたから実在側、2回連続で乗っ取れれば架空人間。

 得体が知れないから確認したいのが松葉、まったく参加してないから知りたいのが下地、データも込みで考えて架空かどうかも知れるから一石二鳥と捉えれる先崎、僕以外の架空人間もこれを思いついてたとしたら先崎は逆に選択肢から外れるんだ。

 先崎を僕が乗っ取る前にもうひとりの架空人間が乗っ取ってたら無駄に消費されてそれだけで厳しいからね、てことで残るのが松葉と下地か。

 うーん、だとしてもこちらからアクションを取るのは危ういね、失敗のリスクを考えても乗っ取りは最後の切り札として先崎の銃を利用したいことからも持っておきたい。

 ここから導き出される解は……。

 ……うーん。

 まあ、これしかないか。

 これは賭けでありながらも僕自身が殺されない、一見して妙で奇策なんだけどそれが真っ当な策、正攻法になるある特殊な状況っていうのがある。

 それはハクのポジションをなぞること。

 互いに双子であることでその愚者の振る舞いは印象によって許される、架空側からするとここでもうひとり死ねばかなりおいしいんだ、何故なら次実在側がひとり死ねば実質向こうはそこから一回たりとも失敗できないからね。

 まず実在側が今からふたり減ったとして合計6人、そこに架空側が2人居て実在側を2人乗っ取ったとする、そうすると乗っ取られていない実在側が2名、乗っ取っている実在側が2名、残りの架空側が静止している状態で2名いることになる。

 ここで架空側が乗っ取った状態で実在側を2人撃ち殺す、この時点で全員合わせて4人残る、そうすると乗っ取っている実在側が2名居て、静止している架空側の2名が残るから、そのまま時間切れまで待機したら僕らの勝ちなんだ。

 そして何よりも先崎の銃がある、その銃で2人を殺すのは不確定要素が大きいからそれは最終手段として残しておくとして、でも不意に殺すなら1人は確実にれる。2人なら片方がそれに気づいて逃げちゃうこともあって難しい、だからこそ今ここが勝負どころ。

 ここか次、それでこのゲームの勝者が決まる。

 あとひとり殺せばこちらの勝ちは確定すると思っていいね、でもその第一条件として架空側同士まずは繋がらなくちゃいけない。その条件を揃えるのに最も効率が良い方法は僕にかかってる、それが今までとっていたハクの愚の行動をこれから僕が沿うことにあるんだよね。

 僕が愚者を演じることで架空側が繋がれる。

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