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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第十話
立ち上がるという行為は皆の目に付く、これは今から話す内容からして都合がいい。条件さえ整えばここから一気に蹴りがつく可能性が高い、ここが勝負どころ、だからこそ慎重に、かといって愚者として演じるのだから大胆に。
まずは本題に入る前に準備しておく必要がある、まあといっても僕という存在、島津学による演説なんだから内容はとってもくだらない、だからこそ重要なんだ。
「皆に話があるんだけど……」
僕はそう言って更に視線を集めた、そうしてゆっくりと首を回して視線を左から右に動かし、皆を確認した。
先崎は僕の喋った内容をメモに取っている様子だ、有本はやはり冷静で視線が僕にだけという訳では無く周りにも向いていた、柊は訝し気に右上を見ている。
右目は左脳を動かすから、柊が右上を見ているというのは僕の意図を理で判断しようと思考してるんだろうね。
それは寧ろ好都合、理に適ってないのが僕だから、それは僕という存在をこの場に馴染ませてくれるからね、だからこそ柊のように理を重んじてくれた方が僕の都合と柊の思考がぴったりと符合することになる。
伊東はそんな柊に一度視線を向け、次に僕の目を見た。そうかと思えば子供に対する哀れみのような形で視線を落とした、もう余計なことはしないで欲しいといった様子だった。
松葉は相変わらずハクを励ましている、下地は下を向いている様子で俯き加減ながらも上目遣いで僕を見ている。
僕は話を続けた。
「ずっと言おう言おうと思ってたんだけどね、でもそれを言う前にひとつ先にはっきりさせなきゃいけないことがあるんだ」
次に言うこの言葉こそが必要、それが大事。
「俺は架空人間じゃない」
これをくどいぐらい言わないといけない、僕は死にたくないとしている愚者だからこの言葉は絶対に必要なんだ、だからこそここから展開させていく必要がある。
「そうか、で、何が言いたいんだ?」
メモを取りながら先崎が促してくる。
「……俺はね、実は」
ここで多少の間をあけた、これは言いにくい内容である筈、だからこそもどかしさを見せなきゃ変なんだ。そうして自分の足元を見て地面の砂を掘るように右足のつま先で何度か小突いた、土を掘るようにして小さな穴をつくった。
「実はね……俺」
その穴を2つ程つくった、話を続けた。
「あのね」
一気に視線が集まっていると感じた、ただひとりだけ、松葉だけを除いて。
「……俺、判別できるんだ実は」
更につま先で2つだった穴を広げてひとつにしていく。
「だから皆と相談したいんだ、誰を判別しようかって、俺ってこういうのよくわかんないからさ、だったらもう早いこと使っちゃってさ、誰かひとりに判別を使って確定させた方がいいんじゃないかなって思って……」
ここで皆の視線がひとつひとつ外れていったのが確認出来た、それは本当にどうでもいいといった様子のように見えて、僕が欲しい反応そのものだった。
そこからは皆、終始無言でどうしたらいいのかといった妙な一体感、何も喋らずとも意思の疎通が取れているような形、それはある種、僕とも意思の疎通が取れているのと同じだ。
そうして喋り始めた僕に再度視線が戻っていった。
「俺ずっと考えてたんだ、誰を判別しようかなって、一度しか使えないしさ、だったら一番よくわかんない人か一番目立ってる人にしようって、それをさっきまで考えてた」
「……そうか、ただそれは今使う必要があるかどうか」
先崎は僕の提案に異存があるようだ。
「一回しか使えないとお前が言ってる通り、判別という能力はここぞという場で使う方がいいんじゃないか?」
「でも使わないで殺されちゃったら意味ないじゃん」
「まあ、それもそうだが、通常はそういった大事な話はこのような場面で話しちゃ駄目だ、お前が自分で判別だとばらすその行為そのものが架空側にとって攻撃の対象となることは理解できるな?」
「それは考え過ぎだよ、寧ろ逆じゃない?」
「逆?」
「だって何も悪くないハクが殺されそうだったじゃん、何もしない方が損じゃない?」
「まあ、少なくとも判別だとお前が言っているのにお前を撃ったら、撃ったやつが乗っ取られたと確定はするからな、それを損と取るか得と取るかの話な訳だが、それはお前が死ぬということでもあるんだがな」
「そんなことよりも架空側と誤解されて撃たれる方が多いと思うけど、俺は少なくとも判別ができるんだから実在側だもん、撃たれないよ」
「……はあ、まあいい、そもそもがその権利はお前にしかない、皆の意見を聞きたいのなら誰を判別するか、いつするのか、その話にお前は持っていきたいという訳だな」
「うん、その通り」
よし、かかった。
先崎の言い回しだと僕は判別で確定ということになってる、この時点でおおよそのこれからの僕の言い分の辻褄合わせに正当性と整合性が取れることになる。
皆も無言で承知してるのもかなりいい感じ、これはこの先誰を判別するかを決めようという意識が入ってるのと同じ意味。
まずは第一段階クリア。