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小説「実在人間、架空人間 完結編」第四話

「どうしたん、急に黙ったりして、さっきまで二人で仲良く話してたやん」

 私と先崎の顔を交互に見ては、しっかりと目を合わせてくる。これはアイコンタクトなのだろう、あの松葉のことだ、感覚的に私達の考えがどういうものなのかを理解している。

 この世界での短いやり取りの中で、松葉だけは妙に知っている風・・・・・・だった。感覚で生きているようにみえて、予めプログラミングされているかのような感情のある離散数学的な雰囲気がある。

 これはあくまでイメージだが、自然体の動を微的な人との動と衝突を通じて自分や人とし、それを独自のスケールでの挙動に変換するアプローチを取っている、そのように感じられる。

 軽薄のようでそうでない、無邪気にみえてそうでない、天然を気取っているようで策は持っていて掴み所がない。恐らくは知識に極端に興味が無いのに脳の左右の知能が高いのだろう、そんな印象がある。

 松葉は知識に対して価値が無いと考えているのかもしれない。

 知というのは実際のところ、概ね他者との関わりにおいて、自身はこれを知っているんだぞというアピールのような性的なアプローチ、体系が現れてくる。これは無意識に現れたり大袈裟に現れたりし、だからこそあなたは劣っているとか、私は評価されるべき人間であるとか、そういうくだらない要素が見え隠れする。

 それは自分の考えの証明と他者の考えの否定が入り込む。

 これは集団での生活においてとても重要で、切っては切り離せない愚鈍な細い通常の考え。人との競争において勝利したい、だから知を欲する。本を大量に読み、どうにか他者より優れている状態に入りたい、程々ではなく突出したい、恥をかきたくない、そういった考えが入る訳だ。

 この競争に参加しない松葉を一言で表すなら『調和・・』を望んでいる。

 彼の中にある哲学は恐らく出来上がっていて、好奇心は高く、知識にだけ興味がない。知は無くとも差別が無いから倫理観が高く、間違いを間違いであると誰よりも早く理解し、弱きを挫き、間違いを犯す者に怯えない、そして強者におくしない。

 通常、知を得てから時間をかけてこの考えに至るのだが、それは見下す要素にもなりかねない。倫理観が正しくあることでその知覚や感覚のずれを正せられるのだが、松葉は知がないのに知能、知覚がある。この純な要素が好奇心はあれども知能、知覚、感覚に優れている要素に入る。

 私はどこかで松葉を信頼してしまっているのかわからないが、彼のその発言や行動、裏表が無い様子から常に関心せざるを得ない。本質的な欲はあっても不必要な欲もあっても争いがない、そんな印象だ。

 私は無意識に先崎を見た、先崎も私を見、注意深く見ないとわからない程度に先崎は首を縦に振る。私はそれを見て同じように振る舞った。松葉を見やると「うんうん」と声に出しては二度頷き、ハクの元へと戻っていった。

 それからしばらく先崎と筆談をした。

『私はガクの一人称に違和感を感じている。普段は俺と言っているのに、杉原と揉めたとき、銃を投げ捨てては僕という一人称を使っていた。これは自身を幼く見せるための演技だと思う』

『それは俺も気づいていた、俺の場合は会話の履歴を読み返しているときにわかったね』

『私も似たようなもので初めは気付かなかったが、妙に命乞いのように行動的になり、その割には堂々としていて疑いが私の中で生まれ、ガクの言葉を思い出していったときに俺と言ったり僕と言ったりしたことを思い出し、さらにさかのぼって一人称がどうだったかと、このゲームが始まってからを脳内で整理していくことで気が付いた』

『なるほどな』

『少々話はずれるが、このやり取りにガクも警戒していると思う。ただ複数なことで架空側も即座に対応できないだろう。警戒すべき相手が私と先崎と松葉、この3人をくぐってどうにか行動するのは現段階では不可能だと思われるがどう考える?』

『そうだな、俺も同意見で、一度実在側でチームが出来てしまうと架空側は脆いかもな。架空人間は2人で実在側が数値で勝るからこそチーム戦になると行動が制限されるから、だからこそ制限時間があるんだろうな』

『確かにそう考えて自然だな、あとひとつ聞きたい、もう一人の架空人間は誰だと思う?』

『正直わからん』

『恐らく混じっているか目立ってないかのどちらかだろう』

『俺もそう思う。あとここにトラップを用意したい、俺はこのメモ内にそれっぽい暗号や、このやり取りの一部分をわざと消し損なうように残して乗っ取られるのを待とうと思ってる』

『良い考えだ』

『あとこのメモは松葉とも共有したい、柊さんはどう思う?』

『私は問題ないと思う、ガクの情報をリークしてくれたし、これは私達の考えとも一致する、このことからも実在側と捉えて間違いないだろう』

『了解、また何かあれば連絡する』

 ここで先崎は私とのメモでのやり取りを一旦やめ、松葉の元へ向かっては二人で筆談を始めた。

 私は暫く他の者に意識した。

 この私達の行動から誰が焦ってその挙動にその内面が表面化するおかしさが表れるか注目した。

 私、ハク、松葉、先崎が実在側確定で、ガクが架空人間であることはまず間違いない。そうなれば残る伊東、下地、有本、この3人の内の誰かが架空人間であることを意味する訳だ。

 これは私と先崎と松葉が、伊東、下地、有本をひとりずつ撃てば必ず架空人間のひとりに命中することを意味する。このことからあとひとり、この3人の中から実在側が誰であるかを知れれば実在側の勝利は確定する。

 あとひとつ、ひとつの進展で勝敗が決する。

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