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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第九話

 僕はまず本から皆の名前の名簿を見ながら今ある策を再確認した。

 この策は一見すると愚策なんだ、だからこそ僕という存在によって肯定される。その策は『判別であるという嘘』これを使用する。

 これだけみると愚策でなんともありがちで滑稽こっけいなんだけど、ありがちだからこそ通りやすく誤解させやすい、そしてここに3つのトリックが入ってる。

 まずひとつ目。

 僕が判別だと申告したときに本物の判別がそれはおかしいと指摘する可能性がある。

 これは実に単純で且つ最も想像しやすいね、僕が判別だと申告すれば本物が自分こそが判別だと問いただす、そうなればそいつは実在側ということになる、そこに3人目が現れてもやはりそいつも実在側である可能性が高いんだ。

 次にふたつ目。

 有本、柊、先崎らは知能派、ここでこいつらはこう解釈しやすい。

『愚者であるガクによる愚策だ』

 これによってまずこの策で僕が追い詰められることは少ないとみていい。有本、柊、先崎らはここで惑わすようにして判別だと嘘をつくこともまず無い、何故ならこの策はありきたりが故に愚策だからね、ここに参加しない。

 架空側もその知能の高さからこれに参加しない。

 ついでに松葉も参加しないね、こいつはゲームをやってないから、ただこいつはもし自分が判別なら申告する可能性が高い、正直者だしそういうプレイングをしがちだ。

 次にみっつ目。

 これがスペシャルムーブ、運の要素が入るけどこれが真の狙い。

 この僕の判別が出来るという嘘に誰も名乗り出なかった場合、かなりの確率でハクが判別だとわかるんだ。

 ハクは銃を撃ったから実在側であることはわかってる、撃ったあとの反応からしてもそれは確実なんだ、だからこそあのバカみたいに泣いたのもハクそのものの知能の低さから来てる、策なんて一切無いとわかる明らかな愚者なんだ。

 あそこまで疲弊していてはゲームに参加する意思なんてない、更には僕が島津学しまづがくであるという事実からハクは僕を追い詰めることをしない、それぐらいの知能なんだハクは。つまりはこの2点の理由から誰も判別だと申告しなければハクが判別だと教えてくれているようなもの。

 そうなれば周りはこう思うんだ。

『ガクが愚策で自分から判別だと言っているのに嘘は無い』

 という事実が更に最もらしく確固たるものとして形成される。

 嘘がまことになる瞬間だね。

 この条件が揃った場合だけ、架空人間をあぶり出すことが出来る、まず僕は得体の知れない松葉と何もしない下地を架空側だと思ってる、だからこそこのふたりに対して確認したい。

 でも、松葉はあの性格だから自分が判別だった場合は申告するだろうから、申告しなかった松葉という存在が確保されたこの時点で僕が判別したい相手は自ずと下地になる。下地のプレンイングからも架空人間である可能性が高く、それが明確じゃないから確実にしたい、だから下地を指名する。

 そうして容疑をかけられると必ず下地は行動しなきゃいけない。

 ここで判別されると自分が架空人間だとばれちゃう、どうせ死ぬなら生き残る可能性を考えて下地は自分こそが判別出来るんだと主張せざるを得なくなっちゃう、その行動は余りに僕からすれば不自然、だってそれなら僕が初めに判別できると申告したときにその主張をするのが自然だからね、あとからのその主張は周りからみて自然だけど僕からみればかなり不自然だよね。

 これにより下地は架空人間だとわかる。

 これが僕のスペシャルムーブ、愚策にして奇策、でも正攻法。

 ここから下地が架空人間だとほぼ確実になったんだから僕が下地を二回乗っ取れば良い、実在側に対して1回で乗っ取りが消費されるというルールから、乗っ取りが消費されずに2回目の乗っ取りが可能となれば下地は架空人間ということになる、これで判別だと主張が遅れた下地を、9割がた架空だと認識している下地を100%架空人間だと断定できる。

 あとは3回目の乗っ取りから下地のノートに僕が架空人間だとするメモを残すなりすれば良い、これで僕と下地という架空陣営の出来上がり。

 この策にはまったく隙が無い、最低でも馬鹿だと思われるか実在人間のひとり以上の確保、最高で判別と架空人間の確保が行える最高のムーブ、ひとつの行動からあらゆる情報が手に入る、これ以上の策は無いね。

 さっきの場は有本にいいようにやられちゃったけど、この引き返しが逆に功をそうすね、島津学しまづがくという愚者が変に考えてこじらせてまた何か始めたと周りから認識されやすくなった。

『よし、次こそは……』

 そう自分の脳に決意を喋らせた。

 僕らの勝利は近い、勝ちはすぐそこまで来てる。

 その決意を胸に僕は本を閉じて立ち上がった。

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