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赤﨑暁のやる気。

東京マラソン2025のプレスカンファレンス。いつもならネット中継で済ませるところだが、今回はどうしても知りたいことが二つあった。一つは、5000mと10000mの世界記録保持者、ジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)がキャリア2度目となるマラソンでどれくらいのタイムを狙っているのか、ということ。もう一つは、九電工の赤﨑暁選手の「やる気」についてだ。

午前中、西新宿の東京マラソン財団事務局で取材パスを受け取り、会場である京王プラザホテルに向かう途中、東京マラソンの中継を担当する旧知の日本テレビスタッフとばったり出会った。「昨日チェプテゲイを取材したんだけど、まだマラソン転向の段階だから、今回は2時間4分台で走れればいいと話していたよ」と教えてくれた。直後に友人からも、「チェプテゲイの代理人も2時間4分台を目標にしていると言っている」とLINEで連絡が入る。さらに招聘に関わった関係者からも「今回の東京マラソンは確実に次のステップへの位置づけ。そのうち驚異的なタイムを狙うつもりだ」という話を聞いてしまった。プレスカンファレンスが始まる前に、聞きたいことの一つはすでに解決してしまったのだった(笑)。2時間4分台なら、先頭集団ではなくセカンドグループ付近でレースを進めることになるのだろうか。

チェプテゲイは世界陸上の男子10000mで3連覇中(2019ドーハ、2022ユージーン、2023ブダペスト)であり、パリ五輪でも同種目の金メダリスト。東京で開催される世界陸上(2025)の出場権は事実上手にしているはずで、「もうトラックには未練がない」と話してはいるが、果たしてどうなるだろう。

さて、残る興味はただ一つ、赤﨑暁の「やる気」だけになった。もちろん他の選手に興味がないわけではない。ベルリン・マラソンで日本記録更新を目前の走りをした花王の池田耀平は、セカンドグループで自己ベスト(2時間05分12秒日本歴代2位)超えを狙う走りをすれば必然的に日本記録(鈴木健吾・2時間4分56秒)にたどり着くだろうし、そういう練習は積めているだろう。細田あいや安藤友香も「2時間19分台で東京世界陸上代表を狙う」という見方でおそらく間違いない。その中で僕には赤﨑だけが少し浮いた存在に見えていた。

昨年12月、日体大長距離記録会を走り終えた帰り道、東急田園都市線の車内で赤﨑と一緒になった時、彼は「世界陸上、どうなんでしょうねぇ…」とぽつりと口にした。赤﨑はパリ五輪男子マラソンで、2時間07分32秒の自己ベストで走り堂々6位入賞を果たしたばかり。


自身も手応えがあっただけに、自国開催とはいえ、すぐに東京世界陸上へと気持ちを切り替えるのは難しかったのだろう。周囲からは「次は当然、世界陸上でしょう?」という期待を受け、モチベーションとのギャップに悩んでいるように見えた。「そこに本当に自分の意志があるのか?」と自問自答の末、東京マラソンの出走を辞退した大迫傑選手とも似た心境だったはずだ。

年末時点で赤﨑は「東京マラソンは走るけれど、何のために走るのか分からない」と迷っている様子だった。実際、その直後のニューイヤー駅伝では五輪入賞者として注目されつつも、精彩を欠いた走り。つまり、走る意義が見出せないまま東京マラソンに出れば、当然、気持ちが入らないレースになってしまう。だから僕は、この数ヶ月で彼が何を見出したのかを知りたかった。

プレスカンファレンスが始まった。パリ五輪男子マラソン6位入賞という実績がある赤﨑には、多数の記者が鈴なりになって囲み取材をしている。パリから半年、取材に慣れた様子で、見出しになるような言葉を求めるマスコミの質問を冗談を交えながら、するりするりと受け流していた。やがて時間になり、記者たちが引き上げると、それまでのよそ行きの表情を崩し、赤﨑は笑顔でこちらに駆け寄ってきた。

「やる気はどう?」と水を向けると、赤﨑は先日行われた大阪マラソンで、三菱重工の近藤亮太が2時間5分39秒(初マラソン日本最高記録・日本歴代5位)を記録したことに衝撃を受け、「同じ九州勢にやられた!」と思ったそうだ(笑)。

そんな軽い雑談の途中で、彼は急に真顔になり、こう続けた。「でも、本当に刺激を受けたのは大阪国際女子マラソンの鈴木優花選手です。五輪後の難しい状況で、終始、攻め続けてパリ五輪での自己ベストを、さらに2分30秒縮めて2時間21分33秒。あの姿を見て、本当にやる気が出ました」。赤﨑は「だから僕もパリ五輪で出した自己ベストを2分30秒縮めます」と笑った。

彼の現在の自己ベストはパリ五輪での2時間07分32秒。もしこれを2分30秒縮めると2時間05分02秒。現日本記録(2時間04分56秒)にも迫る驚異的なタイムだ。ということは。。。。「もしかしたら日本記録出ちゃうかもね!」と二人で顔を見合わせて笑った。

このやりとりを横で見ていたタイのジャーナリストが、「パリ五輪でのEKIDEN NEWSの赤﨑の写真が素晴らしかった」とわざわざ伝えに来てくれた。彼が撮ったこのやりとりの写真は、少しぶれていたけれど、とても楽しげだ。この感じは日本中がノーマークだったMGCファイナルのときと良く似ている。

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