バーチャレとボランティアツーリズム
「今年は小さいのをいっぱいやればいいんじゃない?」
と、出雲駅伝中止のニュースを見ながら考えている。
出雲市長定例会見での「出雲駅伝中止」について説明をじっくり聞くと、中止決定に至った、大きな理由のひとつが「運営スタッフの高年齢化」にあったようだ。(17分50秒あたりから出雲駅伝関連)
日本陸連からロードレース再開へのガイドラインとして以下のような項目が入っている。
「参加ランナー・チーム関係者、競技役員、大会役員、ボランティアなどが65歳以上の方、基礎疾患を有する方の場合、重症化するリスクが高い旨を認識した上で参加いただく」
2500人にも及ぶ地元運営ボランティア。その大半が65歳以上という内訳であることもネックとなった。レース運営に関わるボランティアの方々は一般的に高年齢化することが多い。一度にたくさんの人々を集めようとすると、個別に声がけするよりも、地域の団体に声がけをしたほうが効率的だからだ。安全に運営するためには、オトナの存在が必要になる。ただでさえ、少子化傾向にあるわけだから、まとまった数のボランティアを集めようと思ったら、シニア層が中心となるのは当然だ。これは日本全国的にそういう傾向にあるはずだし、そういうシニア層ボランティアをとりまとめる団体もあることも知っている。
とはいえ、年齢だけの問題ではない。出場者をいくら減らしたとしても、運営スタッフだけで2500人もいるのだ。選手同様にこの方々にもどうようのケアを行う必要がある。体調管理チェックシートだけでも、2500枚をチェック管理して、さらに当日の検温も行わなければならない。
一方で、田母神一喜選手の知り合いを総動員して行われたバーチャレ福島は総勢30人ほどの陸上が好きなひとたちが手弁当で集まった。その大半は20代の若者と、地元陸協のみなさん。これまで陸上競技を運営してきたノウハウと(分刻みで進行していく結果報告とアナウンスは見事だった)、若手たちが考えた演出が見事に組み合わさり、会場に来たあらゆる人たちが最後まで笑顔で楽しめるエンタテイメントになっていた。この模様は現地テレビ局でも「新たなスタイルの陸上競技大会」として報じられた。
たぶん、いつもは「シャツを中に入れて!」と、ピリッとした運営をされているであろう地元陸協のみなさんも、この日は久しぶりの競技運営を楽しんでいるのが手にとるようにわかった。
バーチャレ福島は400人の出場者を集めたが、出雲駅伝のボランティア2500人にくらべたら、「たかだか400人」だ。ただし、その内容が面白ければ、より多くの人々に伝わっていく。
メディアでこのことを知り、いまは無理だろうけど、そのうち県外からボランティアとしても参加したいという人は出てくるに違いない。OTTでもボランティアのために九州や北海道からも東京に人が集まってきているが、これからは地方でもバーチャレ福島のような大会が行われて、東京から地方の大会にボランティアをやりにいくという流れもうまれていくはずだ。こういうのはボランティアツーリズムというのかな。
バーチャレ福島の大成功を知って、多くの人たちがレースや記録会に「出る」だけでなく、「観る」だけでもない、一緒に「作る」楽しみに気づいたはずだ。ボランティアの楽しさは、観客席ではなく、グラウンドレベルで臨場感あふれる瞬間を味わえることでもある。ただし、少人数で行うがゆえに、やることがたくさんあって、レースをぼーっと観てる余裕はないけれども、選手が耳にするのと同じ、スタンドからの声援を味わってしまったら、たまらないと思う。ボランティアこそが選手から一番近い観客でもあるからだ。
今年はこのまま感染予防のために、多くの人たちを集めることはできないだろう。だったら、それを逆手にとって、まずは小さくはじめてみる。2020年はそんな陸上スタートアップな年になるんじゃないか。いろんな地域でバーチャレがポコポコポコポコ産まれてくることを楽しみにしている。
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月刊 EKIDEN NEWS
月刊といいながら、一日に何度も更新する日もあります。「いつかビジュアルがたくさんある陸上雑誌ができるといいなあ」と仲間と話していたんですが…
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