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「マラソンやるなら三菱重工です!」〜伸び盛りの学生vs実業団の底力
フィニッシュ地点での写真を取り終え、暖をとるためにプレスルームに向かうと、ちょうど記者会見を終えて出てきた初マラソン2時間5分39秒で2位で走った三菱重工近藤亮太選手と出くわしました。彼はにっこり笑いながらベンチコートの中から「2位」の札を取り出し、「マラソンやるなら三菱重工です!」と一言。今回の大阪マラソンはこの一言に凝縮されていたと感じました。それは単なる言葉以上の意味を持ち、この日のレース全体を象徴する一言だったのです。
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この日の大阪は「伸び盛りの学生 vs 実業団の底力」というムードがテレビ中継でも、そして選手からも漂ってきていました。箱根駅伝以降、青学大の原監督の「実業団批判」ともとられかねないコメントが賑わせたこと。言うなれば、「原軍団からの刺客」が別大マラソンには若林宏樹、大阪には黒田朝日、そして次なる東京には太田蒼生。一の矢、二の矢、三の矢と続く挑戦に対し、実業団勢がどう跳ね返すか?そういう図式が産まれていたからにほかなりません。近藤選手の「マラソンやるなら三菱重工です!」という言葉には「実業団は強いんです!」という誇りみたいなものが含まれているようにも思えました。
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2025年の大阪マラソンは、日が高くなるほど気温が上がるどころか、むしろ下がっていくという“異例の展開”でした。スタート時点(9:15)で気温約5℃と低めではありましたが、風は弱く、序盤は走りやすい条件。ところが、正午を過ぎるころには気温3℃ほどに低下し、一時は雪が舞う吹雪のようなコンディションに。体感温度もさらに下がり、多くの選手が終盤に向けて体力を奪われる過酷なマラソンとなりました。それでも上位33名が2時間10分を切るという、近年まれに見るハイレベルな展開。フラット高速コースという利点は活かされつつも、気象条件の厳しさに打ち勝った選手たちの底力が光るレースに。
■ 序盤〜中盤:ペースメーカーの安定感
スタート時の気温は約5℃と低めでしたが風は弱く、ペースメーカーが牽引する形で5kmを14分50秒前後、10kmを29分44秒前後で通過。ハーフは1時間02分30秒ほどで突き進むハイペースにもかかわらず、20〜30名の大集団がまとまって進みました。日本記録保持者の鈴木健吾選手は先頭からやや下がった8位集団付近で力を温存し、初フルマラソンの黒田朝日選手や菊地駿弥選手も集団の中ほどで淡々とペースを刻みます。細谷恭平選手も25kmまで一貫して14分台の5kmラップで粘り、集団の前方をキープしていました。経験豊富な選手たちだけでなく、若手や学生も積極的に先頭近くに加わっていたのが印象的でした。この安定感を支えたのは、間違いなくペースメーカー。日本人をひっぱることには一日の長のあるビダン・カロキ(トヨタ)に加え、ハーフ1時間0分台の吉田礼志(中央学院大)。この二人の効果は大きかった。フラットでありながらも、折り返しが多い大阪マラソン。ストップアンドゴーが続くなかでも、彼らが日本人のピッチやリズムに合わせた集団を作り上げたことが、序盤のハイペースを可能にしました。
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■ 30km付近〜アップダウン区間での動き
勝負どころの30km付近では、折り返し地点を数十メートル行き過ぎるアクシデントも発生。ペースメーカーが離脱したタイミングとも重なり、集団の雰囲気が一変。31km過ぎ、レースを動かしたのは青学大黒田朝日でした。昨年の國學院大平林同様、下寺町を折れ、千日前通りの登りを利用してスルスルと前に出ます。昨年の平林の再来か?!一気に突き放すかと思われた瞬間でしたが、その後の長い下りでリズムを崩し、ペースアップには至らず。ここからはアップダウンと風の影響を受けながらも全てのランナーが粘る展開へ。下寺町からの「登り」はこれまでも昨年も一昨年もレースが動いた場所。全体的にフラットなコースである大阪マラソンではレース終盤でのきついところでも長い登りと下りをセットにして走り抜ける準備が必要であるようです。
■ 終盤〜ゴール:吹雪の中での終盤
正午過ぎには気温が約3度まで下がり、さらに吹雪のような向かい風の影響で、35kmを過ぎてから多くの選手のラップが15分台前半~中盤に落ち込みます。そうした中、優勝争いはエチオピアのアダネ選手とトーラ選手に絞られたように思われたとき、近藤亮太選手怒涛の追い上げで一気に先頭へロングスパートを決行します。ラスト200mを切ったところでアダネ選手とのスパート勝負。スプリントに分があったアダネ選手が2時間5分37秒の大会新記録で優勝し、近藤選手はわずか2秒差の2時間5分39秒という驚異的な初マラソン日本最高記録で2位に飛び込みました。トーラ選手が3位、そして一度は集団から大きく遅れた細谷選手も4位(2時間5分58秒)と粘りに粘って健闘し、旧大会記録(2時間6分01秒)をさらに塗り替えるトップ4の高速決着に。
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■別大・大阪・東京とターゲットタイムが明確に
別大・大阪の優勝タイムから、それぞれの大会が狙うレベルが浮かんできたように思えます。
1. 別大マラソン:まずはサブ10から2時間6分台を狙う登竜門的レース
2. 大阪マラソン:フラットな高速コースで2時間5分台を目指す
3. 東京マラソン:世界と戦うための2時間3〜4分台を狙う大舞台
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