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箱根からのシン青学メソッド
今年の別府大分毎日マラソンを見ていて、「もしかすると」と感じたことがあります。これまで青学は箱根駅伝優勝を目指して1年を通してトレーニングとピーキング(調整)を行ってきましたが、近年、それが箱根終了後の2~3月のマラソンにも対応する形で進化しているように思えるのです。
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そのきっかけは2023年12月に多くの選手が怪我や病気に見舞われたことでした。結果的に従来どおりの「青学メソッド」に沿ったピーキングが十分にできなかったにもかかわらず、箱根駅伝では大会新記録で優勝してしまった。単純に練習量を減らしたほうが良かったのか、それとも脚力・心肺機能が落ちた代わりに苦肉の策で取り入れたトレーニングが効果を発揮したのか――おそらく両方の要因が重なったのでしょう。そのデータを検証したうえで、2024年の12月には健康な土台の上に同様の効果を“狙って”再現した結果、さらなる大会新記録が生まれたのではないか、と推察しています。
青学の箱根後マラソン挑戦の歴史を振り返ると、2012年3月のびわ湖毎日マラソンで当時3年生だった出岐雄大選手が始まりです。そのころはマラソンのノウハウが乏しく、レース中の補給もスポーツドリンクを入れたボトルに飴を貼り付けておくといった、素朴な工夫をする程度でした。これが“青学のマラソンチャレンジ”の始まりでしたが、2016年の東京マラソンで下田裕太選手が2時間11分34秒(日本人2位)、2020年の別府大分毎日マラソンでは吉田祐也選手が2時間8分30秒(日本人トップ)と、徐々に好結果が生まれるようになってきました。
とはいえ、これまで現地でフィニッシュを見届けてきた印象では、大半の青学選手が「ヘロヘロになって撃沈」することが多かったのも事実です。「マラソンとは、やはり壁が高いものなのか」と感じさせられたものですが、今年は少し様子が違います。別府大分毎日マラソンを走った若林・白石、熊日30Kを走った鶴川、いずれも「きっちり走りきっている」姿が非常に印象的でした。
ここで特に注目したいのは、箱根駅伝を走ったあと、都道府県対抗駅伝に出場し、それを経てマラソンや30kmレースにつなげているという点です。つまり、箱根駅伝までに仕上げた「青学メソッド」を見直すことでスピードと疲労度に変化をもたらし、都道府県駅伝ではハーフより短い距離をスピード重視で走る。そこで得たスピード余裕度をもとに、さらに長い30kmやマラソンを走りきるというわけです。要するに、都道府県駅伝がちょうど良い“ポイント練習”になっているようなのです。
実際、箱根駅伝・都道府県駅伝の両方を走り、さらに別の大会でも走る(走る予定の)選手を見てみると、例えば以下のようになります(ほかにも該当者はいると思われます)。
青山学院大学
• 若林 宏樹:箱根5区 → 都道府県3区 → 別府大分
• 鶴川 正也:箱根3区 → 都道府県3区 → 熊本城マラソン30K(熊日)
• 田中 悠登:箱根9区 → 都道府県7区 → ふくい桜マラソン
• 黒田 朝日:箱根2区 → 都道府県7区 → 宮古島駅伝 → 大阪マラソン
• 白石 光星:箱根7区 → 都道府県7区 → 別府大分
駒澤大学
• 谷中 晴:箱根3区 → 都道府県3区 → 丸亀ハーフ
國學院大学
• 野中 恒亨:箱根1区 → 都道府県3区 → 丸亀ハーフ
• 山本 歩夢:箱根3区 → 都道府県3区 → 丸亀ハーフ
中央大学
• 岡田 開成:箱根7区 → 都道府県3区 → 丸亀ハーフ
• 吉中 祐太:箱根9区 → 都道府県7区 → 丸亀ハーフ
中学大
• 市川 大世:箱根3区 → 都道府県3区 → 丸亀ハーフ
多くの大学では、箱根後は都道府県駅伝まで走り、最長でもハーフで終わるケースが目立ちます。しかし青学は、さらに長い距離(30kmやマラソン)のレースにエントリーしている点が特徴的です。箱根駅伝に合わせたピークを作り、都道府県駅伝を“ポイント練習がわり”としてつなぎに使い、必要以上に距離を踏ませることはせず(原監督も別府大分の解説で「30km以降は未知の距離」と表現)、箱根のトレーニングで培った土台を最大限生かしている。しかもハーフほどのスピードは要求されず、それ以上の距離でも十分に結果につなげられる。そこがいかにも“シン青学メソッド”だと感じるのです。
つまり、過剰に距離を踏む(結果的に故障や疲労の蓄積につながる)代わりに、「強い出力と心肺への負荷」をしっかりかけることで、練習量が多少落ちても走力は落ちにくいのではないか。これが、いわば“シン青学メソッド”の正体ではないかというわけです。その流れを受けて臨むのが、箱根から間をおいた大阪マラソンです。出走予定の黒田選手は、箱根→都道府県→宮古島大学駅伝ワイドー・ズミを経て大阪マラソンに挑みます。宮古島の駅伝では最短区間ながら延々と登る10kmの4区を圧倒的区間記録(10kmを29分29秒 キロ2分56秒ペース 区間2位に1分20秒差)で走破。距離を短くしながらも登りでしっかり“出力”と“心肺”を追い込み、最終調整を図っていると見られます。
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