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■ 其の271 ■ 呉の土着な空気感
8月15日、瀬戸内海沿いを走る電車に乗って呉に行きました。
呉出身者は口では何と言おうと、呉のことが好きです。
それは呉という街の、成り立ち、歴史、エピソードの独自性と、かつて日本で十番目の都市だったとは思えぬ土着感と生々しい人間臭さにあるのだろうと思います。 そんな街は今、衰退していく日本を最も肌感覚で知ることのできる場所の一つかもしれません。
わたしは年に数回、車で呉を訪れます。
ですが今回は、なんとなく電車で行きたいと思いました。
遡ること一週間ほど前。のどの調子が悪くて、病院で診てもらおうと思ったのですが、あいにく日曜、祝日、お盆が続いたため、仕方なくドラッグストアーに行きました。
そこで目に留まったのが、【 のどがはれて痛み、ときにせきがでる、扁桃炎に 】という、自分の症状にドンピシャな文句の書かれた漢方系の薬です。10包入りで、一日2回の服用とありましたが、数回飲んですぐに症状が良くなりました。
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千円ほどの薬にしては随分効果があるものだと感心し、どこのメーカーなのか見てみると、二反田薬品工業、住所は呉市吉浦新町と書いてあります。
えっ、広島か。
道路地図で確認すると、海沿いの線路から見えそうな場所にありました。
これも何かの縁、どんな所か車窓から眺めてみようと思いました。
長々と説明しましたが、そういうわけで電車で行くことにしました。
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11時、わたしは呉駅を降りると北口に出ました。そこで、「あッ、なくなってる」と思ったのは、西側にあった建物です。
閉店後何年も放置されていた呉そごうのビルが解体されていました。
ここ何年、各地で百貨店が閉店したというニュースを聞くようになりました。
時代が変わり、商業形態が変わったとはいえ、人口20万の都市ではもうデパートひとつ維持できないようです。
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ちなみに、現在の呉のにぎわいは駅をはさんだ南側のエリアです。
ショッピングモール、大和ミュージアム、四国へのフェリーも出ている呉港界隈は活気があります。
今回わたしは、そことは真逆の、アーケードのある古い商店街へ向かいました。
目指すはモリスの中華そばです。出汁の透きとおったスープは他店では味わえない旨みです。
去年の秋のことですが、広島市内の和食店のおまかせメニューで鯛の出汁のそばが出てきました。透きとおった上品な出汁です。わたしがそこの店主に「呉のモリスを思い出す」と話したら、その方は呉の出身でモリスの中華そばを何度も食べていたと言うのです。まさかの味でつながりでした。
なお、モリスの周辺には呉の食文化を生み出した名店がいくつもあります。
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モリスを出て少し歩くと、数件先の和菓子店で何かの取材をしていました。
ちらっとのぞくと、女性店主らしき人が「岸田総理 総裁選不出馬」の新聞を手に持って広げた状態で、インタビューを受けていました。
奇妙な光景です。
想像ですが、以前 岸田総理がここを訪れたか、ここの和菓子を買い求めたのでしょう。この度の急な発表を受け、縁のある人にコメントを求めたのだろうと思いました。
そのあとは映画を見ると決めていましたが、しばらく時間があったので、涼しい場所を求めて散策しました。
お盆が平日の場合、役所や金融機関は通常通り開いています。
アーケードを出た先に呉市役所があるので、図書室などが併設されているかもしれないと期待して行ってみました。ですが、涼むような場所はありませんでした。
ところで、その場に行って初めて気付くことがあります。
わたしは、呉市の庁舎は立派すぎて、この街の生活感とは乖離している気がしました。音楽ホールのような1階ロビーの吹き抜け天井と、そこに来ている人たちの雰囲気がアンバランスに思えたのです。わたしには、ゼネコンとお金の匂いがしました。
市民の人たちが、この立派な庁舎を誇りに思っているのなら良いですが。
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そんなこんなでぶらついた後、喫茶店に入り、パフェを注文し、新聞を読みながら、映画がはじまる1時半まで時間をつぶしました。
映画の主演は河合優実、「あんのこと」という心が痛くなる話です。
以前広島市内で上演していたときは、あまり気が進まずに観ていませんでした。
そして今回、呉で観たことは、結果的にはとてもよかったです。
というのも、
この映画館は古い商業ビルの4階にあるのですが、場末感のあるうらぶれた雰囲気で、「あんのこと」を見るのにふさわしい佇まいをしていました。(この作品とは直接関係はありませんが、エレベーター前の机に、故三浦春馬さんのエピソードや資料、ファンから贈られた品々が並べられていました)
映画は痛々しくて、やり切れない終わり方をします。
しかし考えようによっては、主人公の杏(あん)は短いけれども確かに生きた時間を持てたともいえます。高齢者施設で働いてお金を得たこと、夜間学校に通ったこと、突然隣人から預かることになった幼い男の子を育てたこと。それらを救いとすることもできます。
あと気になったのは、河合優実さんがこの役を実生活にも引きずり、こころのバランスに影響しなかっただろうかという事です。イメージですが、女優でも綾瀬はるか、高畑充希、永野芽衣あたりは何を演じても大丈夫そうだけど、沢尻エリカは‥‥と思ってしまうのです。 それでいうと、先日観た「アディクトを待ちながら」の美容師役のひとの表情が迫真すぎて、同様の気持ちになりました。
また佐藤二朗と稲垣吾郎の二人は、「タレントの顔」と「個人の顔」があれだけ知られているのに、それを全く感じさせず、「役が100%」になっているのは凄いなと思いました。
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映画のあとに行ったのは、昔ながらの銭湯です。
歩いて5分ほど、赤ビル温泉という真っ赤なビルの3階にある町中の銭湯です。
「スーパー銭湯」と「町の銭湯」は似て非なるものです。
施設の規模と内容、料金、集客の範囲と人数、そして、刺青・タトゥーを黙認しているか否かです。
浴場に入ると全身和彫りの人がひとりいました。はじめは正直緊張しましたが、別になにも起きるわけはありません。
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思うに、町の銭湯に似合うのはタトゥーよりも刺青です。
ここは「仁義なき戦い」発祥の地、呉です。
仁義なき戦いは、映画も、モデルとなった実際の抗争も、呉からはじまり広島市内へと波及していきました。戦後の混乱期の生々しい人間を描いた話は、時代がすすんでも忘れられることはないでしょう。
そしてまた、近年制作された映画「孤狼の血」も、ほとんどが呉でロケが行われています。
なお、町の銭湯の魅力に水風呂があります。
浴槽が小さいので、入れるのは1人か、せいぜい2人。なので、サウナに入っている段階で、順番や人の流れを考えます。自分がどのタイミングで水風呂に入るかや、自分の次にこの人が入るだろうという暗黙の配慮をするのです。
人と人が、裸でそういう気配りをする機会なんて、銭湯の水風呂くらいです。
銭湯を出てから、夕食の場所を探しながら呉駅へ向かいました。歩いていると、目に入るものから、その街の様子をうかがい知ることがあります。
今年の春、少子化の流れで呉の公立高校が廃校になりましたが、その同窓会のポスターが貼られていました。
「41年間ありがとう」の言葉の裏には、母校がなくなる無念さや切なさもあることでしょう。40年余りということは、「昭和」後期に開校し、ほぼ平成時代の学校だったということですね。
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また、お盆で店は休みでしたが、これぞ地元の食堂!を見つけました。
外に、 女優:のんさんが訪れたときの写真が貼ってありました。
映画「この世界の片隅に」で、主人公の声を演じた際、呉にやって来たときのものです。 呉って、どんだけ映画の舞台になるんだ!という感じです。
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さいごは、駅の近くでお好み焼きにビールを頼み、夏の一日を〆ました。