見出し画像

■ 其の309 ■ 高階秀爾さんが教えてくれた「そり」の意味

■今日のNHKニュースで、美術評論家の高階秀爾たかしなしゅうじさんが亡くなられたと報じられました。  〈ニュースの内容は最後に〉

高階さんは以前、講談社の小雑誌「本」に、現代アートの現場からというタイトルの文章を書いておられました。この本の表紙の、絵・デザイン・写真などについての解説文です。

その中で印象に残っているのが、彫刻家の澄川喜一すみかわきいちさんの作品について書いた解説文です。

 余計なものすべてを削ぎ落した鋭利な刀物のような硬質のけやきの木片がふたつ、不即不離、微妙に組み合わされて、すくっと立ち上がる。周囲には、緊張感に満ちた静謐せいひつな空間が拡がる。強烈な磁場にも似たその空間の変貌をもたらしたものは、極度に洗練された確かな形態感覚、特に輪郭線に見られる精妙なそり﹅﹅の感覚である。澄川喜一は、このそり﹅﹅の魅力にかれてさまざまな変奏を試みてきた。本作品はその「そりのあるかたち」シリーズ中の逸品である。
 
  澄川喜一は、ニューヨークで個展をした時、「そりのあるかたち」の説明がアメリカ人にはなかなか通じなくて苦労したと語っている。それは、英語に訳すとすれば「カーヴィング・フォーム」だろうが、それでは日本語のニュアンスがよく伝わらないという。おそらくその背後には、「カーヴ」(曲線) と直線は本質的に別物だという西洋的思考法がある。事実、直線には直線定規、曲線にはコンパスというまったく別の道具を用いる。だが日本では必ずしもそうではない。直線と曲線は自然につながっている。

 関西のある民家の実測調査で、軒のそり﹅﹅はピンと張った糸をわずかにたるませた線と一致するという報告もある。自然の重力の作用であるたわみやたるみを、純化させ洗練されたものが日本的そり﹅﹅の美意識に他ならない。

 澄川喜一は、先頃開業した東京スカイツリーのデザイン監修者でもある。その横断面が基底部の三角形から上方に徐々に円形へと変化して行く斬新な形態には、まさしく澄川芸術のそり﹅﹅の美学が生かされているのであろう。 

本  2012  7月号


澄川喜一の作品


東京スカイツリー


【ニュースの内容】

西洋美術研究の第一人者として知られ、文化勲章を受章した美術評論家の高階秀爾さんが今月17日、心不全のため亡くなりました。92歳でした。
高階さんは東京出身で、東京大学大学院に在学中の1954年、フランスに留学して西洋美術を本格的に学びました。

帰国後は国立西洋美術館の主任研究官を経て東京大学の教授になり、主にイタリアのルネサンスからフランス近代にかけての西洋美術の研究を進め、「ルネッサンスの光と闇」や「近代絵画史」など数多くの著書を出版しました。

また、テレビ番組にも出演し、西洋美術の歴史や鑑賞法について分かりやすく解説してきました。

高階さんは長年、美術館の運営にも携わり、国立西洋美術館や、岡山県倉敷市の大原美術館の館長を務めたほか、功績のある芸術家を顕彰する国の機関「日本芸術院」の院長を務めるなど、文化行政にも力を尽くしました。

こうした功績が評価され、2012年には文化勲章を受章しています。

10月24日 NHKニューズ

いいなと思ったら応援しよう!