《JR北上線 無料で乗ろう!キャンペーン》に踊ったカフェの話
JR北上線、無料で乗れるってよ。
2023年11月9日から11日の4日間、岩手県の北上駅と秋田県の横手駅を結ぶJR北上線が無料で乗車できるキャンペーンが企画された。JR各社での初の試みで、目的は赤字ローカル路線の利用促進だという。
私たちは、北上駅と横手駅の中間あたり、県境のほっとゆだ駅から徒歩2分の場所でカフェを営んでいる。1日50人も来れば結構忙しい、その程度の弱小カフェだ。ほっとゆだ駅前に飲食店は2軒しかなく、このキャンペーンの影響を受けることは間違いないと予想された。
キャンペーン前夜の戦々恐々
最初の報道では、無料チケットは2万枚配布するという話だった。
1車両を2車両にして運行するというが、日に片道数本しかない路線である。
「インドの電車みたいになるのかな?」夫が言った。
「満員で景色が見えない北上線なんて、何が楽しいんだろ?」私は思った。
その後、いろいろあって配布枚数は6500枚に落ち着いた。
単純計算で1日に1625人乗ることになる。
チケットは1乗車で1枚使うので、往復を考えると、実質800人強。
そのうち何人がほっとゆだ駅で降りるかわからないが、
町では、11,12日にほっとゆだ駅で降りた500人/日に1000円のお買い物券を配るらしい。
(え!このチャンスに外貨稼がなくてどーするの!?)
いまになって冷静に振り返れば、この時点で客数をもうちょっとシビアに読むべきだった。が、当初の「無料!」「2万枚!」の衝撃がずっと心に残ってしまい、数組で満席になる小さなカフェは震え上がった。
折しも、キャンペーン前週は、1年で1番のハイシーズン。
1時間待ちという事態も発生し、お待たせしたお客様に大変申し訳ない気持ちになったばかり。
ここに北上線無料開放が加わったら??
ぎゃああああああああ😱😱😱!!!
そして、無料開放期間がスタート。タダより高いものはなかった・・・。
とにかく、待ち時間のストレスと、オーダー待ち・テイクアウト待ち・テラス席待ち、など、お客様の導線の混乱を避けることを最優先に、以下の対応を決行した。
・全品テイクアウト容器に統一して、提供時間を短縮
・テラス席にチャージ料を設け、来店客数を制限すること
加えて、
前週の客数を参考にテイクアウト容器を発注し、
大量にケーキを仕込んで準備し
ランチ需要に応えるべく、軽食の食材やらいろいろ買い込んだ、
けれど
初日の9日は客数・売上ともに11月で一番低い結果に。
(ちなみに初日はチャージ料を500円にしていた)
無料電車でくるお客様はさすが堅実というか財布の口もかたく・・・
おまけに、席料の存在によって、車で来るであろう通常のお客様を遠ざけてしまったので、晴れて良いお日柄なのに、・・・ヒマ・・・。
翌10日は、天候に恵まれず、さらにふるわず。
そんな日でも、車でわざわざ来てくださるお客様もいて、
あらためて
自分達が満足度を高める努力すべきはこちらの方々に向けてだな、と。
無料キャンペーンのブルー
北上線が無料になることで、どの程度人が乗るのか?
乗るのは、どんな人たちなのか?
それが全くわからなかった今回の無料キャンペーン。
想定顧客の大切さをあらためて思い知った。
あれこれ予想して準備した割に、客数は少なく
数少ない来店者に対しても満足してもらえたか自信がなく
神経がすり減るばかりの3日間だった(まだあと1日ある)。
これが、もっと駅前に店の多い町なら
私たちのカフェは通常営業を貫くという選択肢もあったけど、
駅前に2軒しかない飲食店のうちの1軒というプレッシャーに負けた。
しかし、勉強にはなった。
トライアルができて、気づきも多かった。
それにしても、この無料キャンペーンは、JRの利用促進になっているのだろうか?赤字路線がやるべきことは、お金を払って乗ってくれる人を増やす努力なのに、真逆のことしてない?発想が謎すぎる。
さいごに、北上線を褒めまくる。
いろいろ書いたけど、北上線はとっても魅力的な路線です。
だからちゃんと、その魅力をPRしてこの記事を終わりにしたいと思います。
(沿線3市町村が全力でおもてなしする1席1万円プランとか作った方が、よほど可能性が広がる気がする。)
さて、個人的に思う北上線の魅力は、
・北上駅0番線(0って何?🤣)から乗ること
・錦秋湖の崖沿いを走るスリリングさ
・冬にはトンネルを抜けるたびに雪が深くなり、この先に待つ雪国は一体どんなだろうと、異世界に向かうドキドキ感があるところ
・湖の向こうに現れる町並みとシンボル的な存在感を放つ銀河ホール
何度乗ってもワクワクするし、これを読んでくださってる貴方にもぜひ北上線の旅をオススメしたい。
沿線に住む一人としても、
・朝の散歩やカヌーで見かけて手を振ると警笛で応えてくれる
・吹雪の日にライトを光らせて走る健気な姿
・電車好きな息子と一駅往復乗車の冒険ができる
・北上線で来る友人を出迎えたり見送ったり‥‥出会いと別れの場
・線路で東京の実家につながっている安心感
・ライトアップ錦秋湖大滝が見えてくると「おお〜」ってなる
などなど、日常の中で強い親しみを抱いている。
乗って楽しい、見て楽しい。大好きな北上線。
みんなー!北上線、乗ってね!
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