現代思想を修めた人間から見た「星の王子さま」 なぜ名作? 意味がよく判らない! という人に贈るちょっとした補助線です。ついでに、ヨーロッパ近代文明≒現代文明の基盤も解説ちゃいます。
前書き
え~、わたくし徳田孝一郎と申します。
英語・英会話をご指導させていただいたり、Yahoo!でYahoo!ニュースエキスパートとして英語雑学エッセイを連載させていただいたり、SF小説を書かせていただいたりして、活計(たつき)としている者です。
英語・英会話、エッセイを活計にはさせていただいているんですが、実はわたしは語学系統の学部出身ではなくて、出身は法学部。ただ解釈法じゃなくて、基礎法学。いわゆる哲学や現代思想です。ここで、哲学者で恩師の中村雄二郎教授から習ったことを、英語に応用している。
哲学、現代思想なんて、役に立たないなんて言う人もいるけど、物は使いようなんですよ。英語・英会話の教授法だって、現代思想を使って独自の方法を編み出して、英語が好きになった、昇進できたのは、合格できたのは英語が伸びたおかげです、なんて嬉しいことを言われたりする。ありがたいことです(英語・英会話の方にご興味を持たれた方はこちら)。
それに、この現代思想の思考法は、どうもいろんなところに影響を与えているらしくて、例えば、流行ってるアニメ、小説、映画なんかの感想や解釈が、ぜんぜん人と違ったりする。
そういうのを発表したり、また、友人たちの意見や感想を聞く場として、1、2ヶ月に一度「読書会」というのをやっています。畑違いの人が本をプレゼンしてくれて、その面白さを伝えてくれる会で、すごい勉強になる。絶対に自分では手に取らない本を紹介してもらえる贅沢な会なんです。
このあいだ紹介された本なんて「ブロックチェーンの仕組みと開発がしっかりわかる教科書」って本で現代思想・英語とはまるで異世界で、プレゼン聞かなきゃぜんぜん面白味が判らなかった本。いや~プレゼンターのSさん、ありがとうございます。
そんな読書会で、ある参加者の方が「星の王子さま」って、何で名著とされているかわかんないんですよねぇ~とポツリ。
それはいけません、人生損してますとお節介心が湧いてしまって、プレゼンすることになりました。推参で申し訳ないですが。
今回は読書会のプレゼンを下敷きにしてお送りする「現代思想を修めた人間から見た〇〇」シリーズ、「星の王子さま」編です。
「星の王子さま」の概略
星の王子さまは、2022年までに初版(1943年)以来、200以上の国と地域の言葉に翻訳されている世界的名著とされ、その内容は「大切なものは、目に見えない」を初めとした名言によって、生命・愛とは何かといった人生の重要な問題に答えるものとして広く知られている。
(from Wikipedia 徳田編抜粋)
という作品ですが、実際に読むと何を言っているのか判らないという声がよくあります。たしかに、「大切なものは、目に見えない」ということは判るような気がする。でも、それがなぜなのか、なぜ重要なのか? については、詳しく説明されてない。でも、多くの人が名著だと言っている、しかも、感動して涙が止まらないという人までいる。
何かあるに違いないんですが、それはなにか? それを読み解いていきたいと思います。
背景
出版年 1943年
出版国 USA
フランスは1940年の「ダンケルクの戦い」に敗北しており、
フランス国内での出版は不可能な状態だった。
出版が43年ということは、執筆されたのはおそらく41~42年の間です。なぜなら、サン=テグジュペリは40年12月31日にUSに亡命し、43年6月にパイロットとして北アフリカ戦線に赴いているため、USにいる間に執筆されたと考えるのが妥当。
ということは、第1次世界大戦を反省して、パリ不戦条約まで作っているのにまた戦争を始めてしまったヨーロッパ人、ヨーロッパ文明に対しての批判の書だとみることができます。
なぜって、サン=テグジュペリはリヨンの伯爵の子で、バリバリの貴族で文学者。ノウブレスオブリージュ(noblesse oblige)の意識がしっかりあるのが当然の人です。そういう人なら、あれ? 今のヨーロッパ文明はなにかがおかしいのでは? と感じていたはずだからです。
そして、18世紀から始まるヨーロッパ近代文明は、近代化した今の世界のご先祖様。その流れで、今、近代社会で生きる我々の心にも刺さるというわけです。
これが、名著と言われる理由の一つ。
じゃあ、「星の王子さま」を理解するには、近代文明≒ヨーロッパ近代文明って、どんな文明なのかを言語化する必要があります。そこを見ていきましょう。
ヨーロッパ文明 とくに18世紀以降の近代文明の思想的源泉とはプラトン・アリストテレス哲学!
プラトンから始めるとちょっと長くなるので、アリストテレスの解説からにします。プラトンに関して知りたい方はニーチェなどに当たってください。
さて、アリストテレスの名前は聞いたことがある、また、外形的な情報(プラトンの弟子で、アレクサンドロス大王の家庭教師など)、は知っている人は多いと思いますが、いったいどんな思想を唱えた人かということを知ってらっしゃいますか? これ、けっこう、ヨーロッパの知識層にとっては常識なんです。
それは、
ある一つ以外の全ては「~のためのもの」であるという思想
ちょっと意味わかんない? ですよね?
わかりゃあ、大学でわざわざ研究する必要はないわけですが、なんとかまとめて説明してみます。
アリストテレスは、
見えてくる〈あるもの〉を
まず、形相(エイドス)を可能性として含んでいる質料(ヒュレー)=可能態(デュナーミス)と見る。
そして、可能性が現実化された状態=現実態(エネルゲイア)とする。
知識持ってる感じがしていいでしょう? 呑み屋なんかで、それはデュナーミスとエネルゲイアの関係だね、なんて言ってちょっとカッコつけられます。まぁ、それが効果的かどうかはわかりませんが。
そんな与太話はともかく、デュナーミスというのは、例を挙げると、卵です。卵は鳥になるという可能性を含んでいるので、可能態と規定されます。
そして、卵にとってのエネルゲイアは、鳥。可能性が現実化しているので現実態と規定されます。
ん? それって、鳥が死んで土に帰って、そこから、植物が育って、その植物を鳥が食べて、また卵を産むとそれぞれがデュナーミスで、エネルゲイアってことじゃね?
とちょっと考えれば気づきますね。
そう、アリストテレスはそうやって世界は円環していくのが世界だと言ったんです。ただ、この円環には最終目標があります。
それが、ある一つの存在「純粋形相(エンテレケイア)」!
さまざまな円環のさきには、エンテレケイアがある。そのために、それを創出するためにすべてのものは存在する。
これがアリストテレス哲学の神髄です。
まぁ、このエンテレケイアはプラトンの言うイデアに近いもので、イデアの言い換えと言ってもいいんじゃないかと思われます。
つまり、さっきの鳥の例を挙げれば、卵は鳥のためのもの、鳥は土のためのもの、土は植物のためのもの、植物は鳥のためのもの、鳥は卵のためのもの ということになります。
あれ? 円環してるだけで、エンテレケイアに行かないじゃん? と思われると思いますが、ここに世界開示性(ハイデガーを読んでね)を持った人間が、関わることでエンテレケイアにいたる、というか、人間は閉ざされた世界にいる存在を世界に開示してエンテレケイアに至らせなければならないんですね。
この考え方は18世紀にキリスト教の頸木を緩め、そのために絶大な効果を発揮します。
それは、
全質料(ヒュレー)は、純粋形相(エンテレケイア)のためのものであるなら、そのためにならすべてを利用していいじゃん!
それまで、神の摂理に従って生きていくのが大切と思われていた社会に、エンテレケイアにいたるためなら、モノを利用物として見て、それを利用していい。自然は人間が利用するべきもの、いや、むしろ、自然を利用しないなんて人間としてあり得ない! という欲望の爆発が起こるんです。
で、生まれるのが、
蒸気機関・化学記号・電磁誘導・ダイナマイト・ラジオ波の検出・ガソリンエンジンの発明・X線の発見・特殊相対性理論・飛行機
といった、自然科学による文明の利器たち。
人々はそれを諸手を挙げて歓迎し、生活レベルの向上に感謝する。より便利に、より快適にと世界や良くなって行く。
イギリスでは産業革命が起こり、ヨーロッパはどんどん豊かになって行く。この文明を世界に広げなきゃならないというお節介がアジアの近代化にもつながっていきます。
おれらは正しい! みんな、おれたちに続けってわけです。
でも、それは20世紀になって大きな問題にぶち当たります。
さて、20世紀になってぶつかった大きな問題や、それをサン=テグジュペリがどう批判したかという「星の王子さま」が名著と言われるひとつめの理由の詳細、また、批判しただけでなく、では、どう考えるべきか? を提示した名著と言われるふたつめの理由を知りたい方は、申し訳ないですが、ご購入下さい。あ、もちろん、「星の王子さま」を読んでいただくのもいいですね。だいぶ補助線を引いたと思いますので。
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