うそつき……「英語のそこのところ」第57回
【前書き】
今回、投稿するエッセイは7年前の2014年12月25日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
Native Japanese Speaker にとって嘘を吐くことは最大の罪悪ですが、それでも嘘を吐くことがあります。今回はそんなお話です。(著者)
【本文】
変わった男だった。
身長は180センチくらい。スタイルのいいアフリカ系アメリカ人で、頭は短髪、きちんとスーツを着て毎日オフィスに現れる。
徳田の勤める英会話スクールには二つの部門がある。一つは、通常よくある教室に受講生が通うタイプの部門。サクセス・コースと名付けられている。サクセスには、二つの意味が込められていて、一つはよく知られた「成功する」の意味、もう一つは「継承する」の意味だ。Native English Speakerの講師がレッスンをした後、日本人が英文法の解説や宿題のチェックをするという二段構えになっているので、「継承」というわけだ。
もう一つは、カフェでのコースだ。受講生に講師の連絡先を紹介し、お互いの都合のいいカフェでレッスンを受ける。こちらは、会社本体がレッスンに関わらないのでレッスンオンリーコースと呼ばれている。実質は講師紹介コースというべきなのだろうが、聞こえが悪いということでそういう名称を使っていた。
この男Willieは、レッスンオンリーコースの講師だ。なので、オフィスに来る必要はない。まったくない。受講生からこの地区(駅)に講師がいるか? という問い合わせがあれば、本部のスタッフがデータベースから適切な講師を見つけ、電話で連絡を取るからだ。
だが、Willieはほぼ毎日3時を過ぎるとオフィスに顔を出す。もちろん、身近にいるので受講生を紹介される確率は高いが、それでも限度がある。毎日受講生を紹介されるわけではない。3時に来てオフィスを閉める9時まで、受講生の紹介もなく、ただメールチェックとネットサーフィン、サクセスコースのNative English Speakerたちと会話するだけということもよくある。
机とPCは余っているから特に問題はないし、サクセスコースのバックアップティーチャーも頼めばやってくれるので、助かるのは間違いないのだが、無給でずっとオフィスにいるというのは変な話だった。
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