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寝ころんでまなべない??セントラルドグマ-2 DNA編

前回はタンパク質のお話で、遺伝子という情報とタンパク質という物質をつなぐRNA、DNAというところまでだった。

ここでタイトルのセントラルドグマについて説明しておこう。
セントラルドグマ - 中心教条、は大袈裟な名前がついているが、何のことはない、遺伝子の情報は、DNA→mRNA→タンパク質の順に伝達される、という分子生物学の中心原理のことだ。
単純だがとても重要で、なおかつ名前からも分かるように、基礎中の基礎である。
だから、mRNAワクチンがヒトの遺伝情報を書き換える!!遺伝子組換え技術だ!!というのは、この原理原則を無視しているので、生物学を少しでも分かっている人からすると、一笑に付されてしまう。

今回のClubhouseの企画は、タンパク質側からという、セントラルドグマを逆行する構造になっていて、非常にやりづらいのだが、司会からの次の質問はこれだった。

2)DNAとはどこにあるのか、何でできているのか。

ここで逆行していたのが順行に戻って安堵する。

実はこれ、膨らませようと思えばまたいかようにも膨らませられる「キケンな」質問で、少しだけその脇道の入り口を見てみよう。
生物は原核生物と真核生物に二分される。前者は細胞の中に核がなく、後者はある。前者の代表は細菌、後者は多細胞生物なんでもだ(単細胞生物もある)。
ここから、「古細菌(archaea)って知ってるかい(僕はCRISPR-Cas9を知るまで知らなかったよ)」とか、「ウイルスってどちらに入るんだい(そもそも生物じゃないってことになってるんだよなあ)」とか、どこにでも向かうことができる入り口なんだが、今回は私たち真核生物の話に限ろう。
真核生物では、細胞の中に核という小部屋があって、DNAはそこに大事にしまわれている。
DNAがずーっと繋がったものを折りたたんだのが染色体で、ヒトではこれが46本ある。ちなみにこの46本は対になっていて、お父ちゃんからもらったのが23本、お母ちゃんからもらったのが23本で、23対と数える。このペアに対して番号がついているが、22対 + 性染色体1対(これがXXかXYかの違いで、生物学的な性が決まる)が通常の形で、この数が違ったりする人がたまにいて、病気の原因になる。
細胞が分裂する時には、この46本の染色体を全部1部ずつコピーを取って、新しい細胞と分けあう。

ここで、前回「ゲノム」の単語が出てきたので、ゲノムについても一応触れておこう。
DNAは物質、染色体も物質。DNA全部が染色体。
これに対して、遺伝子は情報と言った。ゲノムも情報だ。ゲノムは細胞がもつ遺伝情報全てを指す。
しかし、ここで変なことを言いだす。遺伝子全部だけではゲノムにはならない。どういうことだろうか。
遺伝子はタンパク質の設計情報が書いてある部分だけのことをいう。これをタンパク質をコードする(コード = 暗号、要はコドンの暗号として持っているということだ)、という。
しかし、タンパク質をコードしているのは、ゲノムのなかのごく一部にすぎない。
ヒトゲノムは約30億文字(塩基対)あるが、その中で「意味のある情報(タンパク質をコードしている部分)」は、ほんの数%しかない。
要はすっかすかなのだ。意味不明な文字列がほとんどの中に、意味のあるところがとびとびに出てくる。

と、思われていた。ジャンクDNA(要はゴミ)とか言われて居たくらいだ。
しかし、この意味不明に見える部分に、タンパク質を直接コードする以外の働きがあることが次々にわかってきている。
これ以上を知りたいひとは non-coding DNA などで調べると、「ヤバい扉」を開いて幸せになれる。

DNAが核の中にあると答えるのにどれだけ文字数を費やしているのかと言う感じだが(それこそジャンク段落だ)、次の質問に答えよう。

DNAは何でできているのか。これはとても大事なことだ。
ところで、DNAが何の略か答えられるだろうか。
医療の世界ではバカじゃないかというくらい略語を使うが、略語を用いるならば、それが何の略かを言えないならやめなさいと後輩には指導している。
村上龍の「五分後の世界」では、アメリカと戦い続ける世界最強のゲリラ/傭兵集団と化した日本軍の話が出てくるのだが、アメリカ人はオレンジジュースすらO・Jと略し、本質を見失う、というくだりがあって、略語の内容を答えられない後輩を前にすると、僕はいつもこのことを思いだす。*1

DNA: DeoxyriboNucleic Acid、デオキシリボ核酸だ。
この名前を分解していくと、DNAが何からできているのかがわかる。メンタンピンみたいなものだ。
ちょっと順番が前後するが、分解していこう。

ribo: ribose(リボース): 五炭糖、要は炭素が5個で輪っかになった糖。
ブドウ糖-グルコースは、炭素6個の六炭糖だ(化学で習ったハズ)。

deoxy: oxy(酸素)をde(除く): リボースの炭素5個のうち、3つに水酸基(-OH)が付いている(-CH2OHのOHはおいておく)。このうち、1か所が-OHでなく-Hになっている(酸素が1個なくなっている)ので、deoxyのriboseとなる。

nucleic acid: 核酸: DNAの発見の最初の部分に繋がった、核を取り出して中身を抽出した人がいる(フリードリヒ・ミーシャー)。その人はリン塩が沢山含まれるその成分をnucleinと呼んだのだが、これが後にnucleic acidと改名(解明?)されることになる。DNAとRNAをまとめて核酸という。今回のワクチンも遺伝子ワクチンでなく、核酸ワクチンといった方がよいと思う。

というわけで、質問の答えが(ほぼ)出る。DNAは、リボースという糖にリン酸と塩基がくっついてできている。塩基が急に出てくるのは僕のせいではないので許して欲しい。
遺伝情報を司っているのは、この塩基の部分だ。DNAではアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類、RNAではA、G、Cが同じで、Tのかわりにウラシル(U)を使う。

この、リボースにリン酸と塩基がくっついたものが、どんどんと一直線に繋がって情報を保持することになる。AのついたDNA、TのついたDNA、GのついたDNA、GのついたDNA、TのついたDNA、CのついたDNA…が順に連結していたら、ATGGTCという情報になるわけだ。
これがヒトでは30億文字繋がって(染色体に分かれているので1本に繋がっているわけではないが)ヒトゲノムとなる。

ところで、よく見るDNAの二重らせん、あの形はどこへいった??
そう、DNAは基本的には2本で1個セットになっている。
DNAは、長い紐に、塩基がぴょこぴょこ生えているような構造になっているのだが、こういうのが2本向かい合って、塩基同士が繋がっている。
はしごのような形が想像できているだろうか。これをねじると、「例の」二重らせんになる。

というわけでひとまずDNAの話はここまで。

RNAでは何故チミンでなくウリジンを使うのか、というヤバい話をするかどうか悩みつつ、次回に続く。

*1 「略語で呼ぶようになって、それに慣れてしまうと、本来の意味が失われることがある、必ず若いうちはフルネームでいいなさい、アメリカ軍の兵士は、O・Jなどという略語を使う、O・Jが何かわかるか?」「オレンジジュースのことだ」「敵が略語を使うからといって、われわれも真似していると、意味を見失うことがある、国連軍の公用語は英語だ、われわれは彼らよりも英語の意味をしっかりと掴む必要があるのだ」
…うーむ、飯が3杯は食える名文だ。肝に銘じよう。

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