Flog_kerokero

#環境課CC シナリオライター

Flog_kerokero

#環境課CC シナリオライター

マガジン

  • 【アントシアンの礎石】

    環境課中編SS 椛重工と環境課の関係の始まりのストーリー。 #環境課CC

  • 【カーボンコピー】

    ブロック連各地で発生する、個々人の目的や機序にそれぞれ関係性のない類似の連続殺傷事件“カーボンコピー” 新簗を皮切りに環境課員は真相を追い奔走する。 総監督:イドクロイ ライター:詠羅 監修:-1CH1、四次元

  • 【Answer Your Justice】

    #環境課CC 創作 長編6

  • 【Memento Mori】

    #環境課CC 創作 【フローロ・ケローロ】キャラクターエピソード

  • 【子祖回胎】

    #環境課CC 創作 長編5

記事一覧

【情熱を再編する為の心得】

見上げる程に大きな樹木と頭上を覆う葉の影に目を細める。 遠くから聞こえる鳴き声は耳馴染みのないものばかりで、どこか現実感の薄い足元を二度踏み鳴らした。 「皆様、…

Flog_kerokero
7日前

【晩餐を楽しむ為の心得】

「空村さーん?」 マンションの警備を任されている男性が、部屋のチャイムを二度鳴らす。 先日オーナー宛に住人の一人が勤める会社から無断欠勤の連絡が入ったという。 ス…

Flog_kerokero
13日前

【平穏を享受する為の心得】

「ここが、ホテル・カデシュ……」 青年――エイル・アーデンの眼前には一見すると豪奢な高級ホテルが聳え立っている。 ニューヨークの街中に溶け込みながら、理解してい…

Flog_kerokero
3週間前
5

【人生を謳歌する為の心得】

ある出版社のデスクにて、一人の青年が壮年の男性と向かい合っていた。 青年はここに所属する作家であり、先日送付した原稿を読み終えた担当編集との打ち合わせの為に出社…

Flog_kerokero
3週間前
7

【Who is Liar?//後日談】

グラスの中で氷が揺れる。 ゆっくりと溶けながらも味わいを微塵も損ねない調和のとれた一つの世界。 口に含めば広がる香りに満足げな気配がマスクの裏側に浮かぶ。 「随分…

Flog_kerokero
2か月前
5

【Who is Liar?】

雨の降る夜。 コンクリートに染み込んでいく水滴は普段の喧噪を覆い隠し、高架下に燻る紫煙は音を立てずに下へ下へと流れていった。 それらを横目に眺めながらネオン街から…

Flog_kerokero
3か月前
7

【静寂の周波数】

高速道路を環境課の公用車が走る。 窓の外を流れていく景色に飽きを感じ始めた夜八はサービスエリアで買っていたサンドイッチの封を切った。 「このフルーツサンド当たり…

Flog_kerokero
2年前
6

【白日の表裏】

D案件—―ド取による環境課襲撃から暫く経った頃。 破壊された建造物の撤去や修繕など、おおよそインフラ復旧に関する業務の進捗は一通りの落ち着きを見せていた。 課員の…

Flog_kerokero
2年前
7

【鳴らない首輪】

「いい天気だねぇ」 「そうッスねぇ」 穏やかな陽光を浴びながらR1-N地区の巡回業務をこなす二人の環境課員。 山形とラパウィラの腕にネオンイエローの腕章が無ければ、…

Flog_kerokero
2年前
6

【頂に飾る】

『全項目のチェックが完了いたしました。お疲れ様でした』 電子音声の呼びかけに瞼を開き、青い瞳には平常通りに蜃気楼の格子が映し出されている。 そのまま数秒が過ぎて…

Flog_kerokero
2年前
5

【頂に触れる】

「失礼します――」 会議室に入った風炉はフローロの姿を見つけて、そして他に誰もいない事に気がついた。 「お疲れ様です、風炉さん」 「……お疲れ様です」 報告レポ…

Flog_kerokero
2年前
4

【頂に開く】

「おなか……くるし……」 唐揚げ定食を食べて、ポテトフライも追加して、締めにバニラアイスのメープルシロップがけをチョイス。 「食べ過ぎですって」 夜八は割とこう…

Flog_kerokero
2年前
4

【頂に閃る】

喫煙者の肩身が狭い昨今。 庁舎内には喫煙所が備え付けられているがその場所はどこか辺鄙だ。 エレベーターで上層階に向かい、屋上へと続くバルコニーの片隅は課員のみが利…

Flog_kerokero
2年前
7

【アントシアンの礎石】 Cp.2

「お待たせしました」 椛重工の役員用会議室に最後の一人が到着した。 祇園寺ローレルを含めた五人が集まり、環境課から提供された情報と自社の調査によって得られた情報…

Flog_kerokero
2年前
7

【アントシアンの礎石】 Cp.1

皇純香。 胸元から下げているIDに刻まれている名前。 椛重工の応接室に招かれた彼女は、調印された書類を見比べている男性の言葉をじっと待つ。 時折向けられる視線を意に…

Flog_kerokero
2年前
9

【頂に浮かぶ】

「かわいいでしょ?」 軋ヶ谷は頭上に浮かぶ輪を指差しながら、どこかぼんやりと視線を彷徨わせているフローロに向けて言った。 「天使の輪みたいですよね」 これは比喩…

Flog_kerokero
2年前
4
【情熱を再編する為の心得】

【情熱を再編する為の心得】

見上げる程に大きな樹木と頭上を覆う葉の影に目を細める。
遠くから聞こえる鳴き声は耳馴染みのないものばかりで、どこか現実感の薄い足元を二度踏み鳴らした。

「皆様、ダイナソー!本日はダイノダイナーにお越しいただき、まことにありがとうございます!」

案内人の明るい呼びかけに全員が視線を向けた。
笑顔の裏に注目を浴びた事への微かな怯みを隠し、注意書きを読む様に促す。

「……――以上の事にお気を付けく

もっとみる

【晩餐を楽しむ為の心得】

「空村さーん?」

マンションの警備を任されている男性が、部屋のチャイムを二度鳴らす。
先日オーナー宛に住人の一人が勤める会社から無断欠勤の連絡が入ったという。
スマートフォンは電源が切られているのか連絡がつかず、電話口では責め立てる様な言葉が何度も繰り返されていたらしい。

「逃げたとかじゃないんかね」

ぼそりと呟く。
数分待っても反応は無く、借りていたマスターキーを差し込んで――鍵は掛かって

もっとみる

【平穏を享受する為の心得】

「ここが、ホテル・カデシュ……」

青年――エイル・アーデンの眼前には一見すると豪奢な高級ホテルが聳え立っている。
ニューヨークの街中に溶け込みながら、理解していれば確かにどこか雰囲気が違っている様な。
伝えられていた時間より早く到着していた自分の後に続いて、何台ものタクシーが入り口前に並び始める。
車から降りてきた人々は、明らかに異様だった。
これから宿泊をするとは到底思えない風貌、身に纏う雰囲

もっとみる
【人生を謳歌する為の心得】

【人生を謳歌する為の心得】

ある出版社のデスクにて、一人の青年が壮年の男性と向かい合っていた。
青年はここに所属する作家であり、先日送付した原稿を読み終えた担当編集との打ち合わせの為に出社したのが昼前である。
300ページに及ぶ一通りを読み、それぞれのシーンの意味合いの確認や会話の調整、誤字脱字などの指摘が二時間ほど行われた。
彼の言い分は自分の好みや感情論ではなく理屈や根拠に乗っ取ったものが多く、青年はそういったところを好

もっとみる

【Who is Liar?//後日談】

グラスの中で氷が揺れる。
ゆっくりと溶けながらも味わいを微塵も損ねない調和のとれた一つの世界。
口に含めば広がる香りに満足げな気配がマスクの裏側に浮かぶ。

「随分上機嫌だな」

「そりゃ美味い酒を飲めばね」

「どうも」

マスターの寡黙な眉が僅かに動いたのを見た。
元々小さなバーだが、今日は客の数が少なくは無い。
自分の相手もそこそこに注文を受ければボトルが開く音がする。

「お?珍しい奴がい

もっとみる
【Who is Liar?】

【Who is Liar?】

雨の降る夜。
コンクリートに染み込んでいく水滴は普段の喧噪を覆い隠し、高架下に燻る紫煙は音を立てずに下へ下へと流れていった。
それらを横目に眺めながらネオン街から路地を三つ跨ぎ、テナント募集中の看板がぶら下げられたビルとビルの間の扉を潜る。

「いらっしゃい」

旧式の義体が僅かに軋む。
剥き出しの目がぎょろりと来店者に向けられるが、男は慣れたものでカウンター席の真ん中に座った。

「空いてんだか

もっとみる
【静寂の周波数】

【静寂の周波数】

高速道路を環境課の公用車が走る。
窓の外を流れていく景色に飽きを感じ始めた夜八はサービスエリアで買っていたサンドイッチの封を切った。

「このフルーツサンド当たりかも!」

新鮮な果物を使用しているという宣伝看板は虚偽ではなく、表情を見るに割高だった分の価値はありそうだ。

「次のインターで降ります。そこから15分程で現地に到着予定です」

ウアス・ウェルニッケの呼びかけにネロニカと、少し遅れて夜

もっとみる

【白日の表裏】

D案件—―ド取による環境課襲撃から暫く経った頃。
破壊された建造物の撤去や修繕など、おおよそインフラ復旧に関する業務の進捗は一通りの落ち着きを見せていた。
課員の出勤スケジュールに【休み】の文字が書かれるようになったことがそれを証明している。
環境課庁舎は毎日開かれているが課員の人数は心なしか少なく、世間一般でいうところの休日である今日は利用者の数もまばらだ。
来訪者をブラインド越しに眺めていた祇

もっとみる
【鳴らない首輪】

【鳴らない首輪】

「いい天気だねぇ」

「そうッスねぇ」

穏やかな陽光を浴びながらR1-N地区の巡回業務をこなす二人の環境課員。
山形とラパウィラの腕にネオンイエローの腕章が無ければ、漂う雰囲気は散歩の様にも見える。
ほんのわずかな緊張感とさりげない目配せは自然体を感じさせて、警戒心を抱かせない技術の様でもある。
準備中の屋台を通り過ぎて、信号を渡った先の路地の陰。
大きなダストボックスの前でしゃがみこんでいる子

もっとみる
【頂に飾る】

【頂に飾る】

『全項目のチェックが完了いたしました。お疲れ様でした』

電子音声の呼びかけに瞼を開き、青い瞳には平常通りに蜃気楼の格子が映し出されている。
そのまま数秒が過ぎても様子は変わらず、フローロは一度瞼を閉じた。
検査台から立ち上がり、脱いでいた衣類に袖を通す。
ポケットからコンタクトレンズを取り出して、青から赤へ、視界がすっきりと移り変わる。

『検査結果を送信しますので、電脳通信の許可をお願いします

もっとみる
【頂に触れる】

【頂に触れる】

「失礼します――」

会議室に入った風炉はフローロの姿を見つけて、そして他に誰もいない事に気がついた。

「お疲れ様です、風炉さん」

「……お疲れ様です」

報告レポートの進みが思ったより早く、スケジュール帳に記載された開始時間にはまだ十分以上の余裕がある。
そんな自分より早く来ている課員がいるとは思ってもいなかったので返事がわずかに遅れた。

「私もついさっき来たばかりですから」

「そうでし

もっとみる
【頂に開く】

【頂に開く】

「おなか……くるし……」

唐揚げ定食を食べて、ポテトフライも追加して、締めにバニラアイスのメープルシロップがけをチョイス。

「食べ過ぎですって」

夜八は割とこういうところがある、とフローロは思う。
良く食べて、美味しそうに食べて、ついつい止めずにいると大体苦しくなっている。
微笑ましいだけなので注意などはせず、水の入ったコップを両手で持ってゆっくり飲み干す姿を眺めるだけだ。
しばらくして落ち

もっとみる
【頂に閃る】

【頂に閃る】

喫煙者の肩身が狭い昨今。
庁舎内には喫煙所が備え付けられているがその場所はどこか辺鄙だ。
エレベーターで上層階に向かい、屋上へと続くバルコニーの片隅は課員のみが利用可能になっている。
フローロは喫煙者ではないが、時折そこに足を運ぶことがあった。
――この場所の自販機でしか買えない飲み物がある。
ある種のルーティーンに近く、新商品を最速で買いに行く程ではない。
扉を開けると、少しだけ吹き込んだ風に前

もっとみる
【アントシアンの礎石】 Cp.2

【アントシアンの礎石】 Cp.2

「お待たせしました」

椛重工の役員用会議室に最後の一人が到着した。
祇園寺ローレルを含めた五人が集まり、環境課から提供された情報と自社の調査によって得られた情報の二つを眺める。
そして渋い顔をした。
この騒動の発端――

「結論から言えバ――まったくもって恥ずかしい身内の恥ダネ」

ハッカーをバックアップしていたのは椛重工の子会社だった。
数か月前のインフラ整備工事の際、仕事を回されなかった事が

もっとみる
【アントシアンの礎石】 Cp.1

【アントシアンの礎石】 Cp.1

皇純香。
胸元から下げているIDに刻まれている名前。
椛重工の応接室に招かれた彼女は、調印された書類を見比べている男性の言葉をじっと待つ。
時折向けられる視線を意に介さず、堂々と、胸を張って。

「確認いたしました」

自分とその隣に座る男性役員――初めて顔を合わせる相手。
それぞれ一枚ずつを受け取り、立会人が深々と頭を下げた。

「椛重工と環境課の双方にとって、この関係が良きものでありますよう」

もっとみる
【頂に浮かぶ】

【頂に浮かぶ】

「かわいいでしょ?」

軋ヶ谷は頭上に浮かぶ輪を指差しながら、どこかぼんやりと視線を彷徨わせているフローロに向けて言った。

「天使の輪みたいですよね」

これは比喩ではなく、天使病という電脳疾患によって生じる物体だ。
病名とは裏腹にその症状と関連する事象は目を覆いたくなるようなものではある。
だからというか、その上でというか、天使病に関する話題は意図的に避けている。
これまでに二人が交わした会話

もっとみる