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「まだ一度も謝ってもらってない」

MIU404というドラマを今更、見始めた。
アンナチュラルは前から好きなので、MIU404もセットで見るべきみたいな意見をよく見かけたけど、私の中では登場人物が違えば全く違う話なのでなかなか手を出せずにいた。

やはり、野木亜紀子は恐ろしいと思った。
第二話、「切なる願い」にて、毒親育ちとしてあまりにもぶっ刺さるシーンが出てきてしまい、寝込んでいる。

この話の主人公はある殺人容疑をかけられて逃走している加賀見という男だ。
彼は毒親育ちであった。
幼い頃、父親に頭を掴んで床に押さえつけられ、「ごめんなさいは!?」と怒鳴られた記憶がフラッシュバックし、職場で同じことをしてきたパワハラ上司を刺し殺してしまう。
彼は父親も殺そうと実家に戻った矢先、父親はとっくに交通事故で死んでいたことを知らされる。

彼は父親の写真を包丁で何度も突き刺し、幼子のような泣き顔で星野源演じる志摩に向かって叫ぶのだった。
「…事故で死んだ?自分の息子が人を殺したことも知らずに。何の復讐にもならないよ!

まだ一度も謝ってもらってない!!!!」 

てっきり、ここまでそんな面白くない話だったし、「父親は実は君を大事に思っていた」的なオチだろうなと油断してたから、ここまで毒親育ちへの解像度の高いセリフをぶっ込んでくるなんて思わなかった。野木亜紀子脚本だということをすっかり忘れていた。やばすぎて鳥肌立った。思わずドラッグストアで泣くところだった。

…野木亜紀子、どうして毒親は一度も謝らないで死んでいくと知ってるんだ。どうしてたった一度でいいから心の底から謝ってもらうことが、全ての毒親育ちの願いであり、叶わぬ夢であり、一生続く希望という名の呪いだって知ってるんだろう。

その後、加賀見の逃走を匿ってくれたおじさんとおばさんが「ごめんね。ごめんね。」と何度も謝るシーンがあるのだが、彼はその言葉をこの何の罪もない2人ではなく誰よりも毒親の口から聞きたかったはずだ。何も悪くないのに「ごめんね」と謝ってくる老夫婦ではなく、何も悪くない自分の頭を押さえつけ「ごめんなさいは?」と怒鳴ってきたかつての暴力的な父親から。

この老夫婦も実は、過去に息子を自殺で亡くしていたのだった。息子が高校生の時に窃盗の嫌疑をかけられ、夫婦は話も聞かずに怒鳴りつけ、謝らせた。その直後に何も言わず彼は自殺したのだという。
この2人も息子が自殺した日から、「まだ一度も謝ってないのに」という思いを抱え続け生きてきたのだろう。

人のすれ違いというものはこうも残酷である。一番近しい人間に一番かけてはいけない言葉をかけ、ごめんねとたった一言言えば済んだはずだった歪みを蓄積し、それはいつか全ての崩壊に繋がる。

ここまで解像度高い脚本を書いてくれて本当にありがとうございますという気持ちである。ドラマって別にそんなに面白くないよなと思って生きてきたが、野木亜紀子脚本を見たあの日から完全に価値観が覆されてしまった。この人の作品は間違いなく色んな人の、人に言えない思いを昇華し続けている。

今は第二話にえぐられすぎて進めないが、MIU404、続きも見ていこうと思う。

おしまい


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